最強無敵のマジなレンアイ by真珠

9.最強無敵の結末(前編)

その時、アンジェリークがお腹を押さえて声をあげた。

「う…動いた…!」

引きつる一同の顔が急激に青さをます。

「そ…想像妊娠は動かないよね…?」

オリヴィエがいやいやするように頭を振りながらルヴァに

問い掛けるとルヴァは茫然自失した目をしながらうなづいた。

取り乱して窓から逃げようとする者、絨毯の下に隠れる者

花瓶の水をかぶる者、部屋はパニックに陥った。

なかでも取り乱していたのは当のアンジェだった。

慌てたロザリアが支えるがアワを吹いて倒れかけている。

「いけませんです〜ショックは母体によろしくないです〜。」

「でも、どうすりゃいいの!当の赤ん坊がショックの元なんだよ!」

コレットもレイチェルも手の打ちようがない。

その時、一同の耳に柔らかで心地よい衣擦れの音が聞こえた。

廊下から聞こえてきた音はドアの前でとまり、穏やかで音楽的なノック。

(リュミエールだ〜!)

皆、口をふさいで心の中で悲鳴をあげた。

(どーすんだよー!)

(いや〜だれかどうにかして〜)

(あ…あははははは…あは…)

(わ…私は冷盛だ…)

(あ〜字が間違ってますよ〜ジュリアス〜)

(えーん、えーん、どうすればいいの〜?)

(ふ…ふふふふふふふ…私の占いではうらないのだ…ふ…ふふふふ…)

(ふぁ…ふぁいあー…あぁ〜?!)

返事がないのを不審に思ったのか再度ノックの音が響く。

ロザリアが目で二人の女王候補に指図する。

(女王は、どんな局面でも乗り越える図太さがなければ勤まりません。

うまく乗り切った方を女王にします!)

(そんなこと勝手に決めてもいいの!?越権行為じゃん?!)

レイチェルの突っ込みにアンジェリークは目を潤ませてすがりついた。

(女王からも認めるわ〜なんとかして〜)

その時、すでにコレットがドアを開いていた。

優しい香りと水色の髪の流れる柔らかい音がして

いつものようにリュミエールが首を傾げて微笑んだのがわかった。

コレットはペコっとお辞儀をすると言った。

「はい、陛下なら、こちらのお部屋です。

ちょっと身ごもられてしまっただけですから、ご心配なさらないでくださいね。」

ニッコリと微笑んでドアを閉めるコレット。

完全に部屋の中の人間の精神は真っ白に燃え尽きていた、

史上最強の爆弾娘に任せてしましたことを後悔しながら。

いつものはにかんだ微笑をうかべてコレットはトコトコとアンジェリークに走りよった。

「うまくいきましたです〜よかったですね〜陛下。」

だが、すでに魂の抜けた屍状態のアンジェリークは返事など出来ない。

それは他も皆も同じだった。

しばらくすると、今度はリュミエールにしては早い様子でドアがノックされた。

コレットが開けると嬉しそうな微笑を浮かべたリュミエールが手に小さな箱を持って立っていた。

急いでいたらしくほんのりと頬を染めている。

コレットはリュミエールが手にした箱から透き通った美しい水色の石の嵌った指輪を

取り出したのを見ると、アンジェリークのそばに案内した。

 

はたと、ハーブティーの良い香りにアンジェリークが気が付くと

自分の隣にはリュミエールが座っていて、コレットとお茶を飲んでいた。

「あ…陛下〜おめでとうございますです〜」

間延びしたコレットの声にグルグル回る頭は何を言われたのか理解できない。

「な…なに?どうしたの?」

「だって、さっきリュミエール様からのプロポーズお受けになられたです〜」

冷水をかけられたように思わず飛び上がるアンジェリーク。

そういえば死んでいる意識の中でリュミエールの声だったので無条件でコクコク頷いた気がする。

だが、あわあわと言葉は出てこない。

「皆様、屍化していらっしゃるので日取りとか全部の手配は私がしておきましたです〜」

再度、アンジェリークの意識がなくなったのは当然かもしれなかった。

 

ベシッ、次に目覚めたのは誰かに頬を叩かれてだった。

ロザリアが両手を腰に当ててアンジェリークを睨んでいた。

そばには困った顔のルヴァが困った笑いを浮かべていた。

ロザリアは顔を近づけるとアンジェリークの額を指で弾いた。

「いたっ!何するのよ!?」

「これっくらいですんで、ありがたいと思いなさい!みんなに迷惑かけまくって!

あんたって娘は〜!」

杖を折らんばかりの勢いのロザリアをルヴァがなだめる。

「あ〜まぁ、よかったじゃやないですか〜う〜ん、それにしても生命の神秘ですね〜」

そういわれて、アンジェリークは自分のお腹が膨らんでいないのに気が付いた。

血の気が引く。

「う…生まれちゃったの?どんな子?誰の子?私、本当に覚えがないのよ〜。」

泣き崩れるアンジェリークに、いきなりロザリアが噴出した。

「おばかさん!見て御覧なさい。」

ロザリアに促された方を見ると、小さな水色の頭がモゾモゾ動いて寝返りを打ったのが見えた。

「う…うそ…、なんで〜????」

ルヴァが頭をかいた。

「想いの結晶っていうことらしいですよ。なんでも海洋惑星では、そうなんだそうです〜

陛下のお腹から光の玉が現れて、あの子になった時は本当に驚きましたよ。

あ〜生命の神秘って興味深いですね〜うんうん。」

頭で釣鐘をついたような衝撃だった。

「そんなの、い…いくらなんでも清らか過ぎよ!私、我慢できない〜!!」

ロザリアの肩が笑いで震える。

「落ち着きなさい!あなた清くなったんでしょう?それに一児のなんですからね。」

アンジェリークは震える拳を力なく下ろした。

その自失した目からは滝のような涙が流れていた。

 

 

**** 水鳴琴の庭 ****