最強無敵のマジなレンアイ by真珠

8.私の中にあなたがいる

その日、朝議は皆が目線を彷徨わす上の空のまま始まり終わった。

なぜかといえば謁見の間に現れた女王は頬を染めたまま、

困り顔のリュミエールをシッカと抱き寄せているのだ。

その雰囲気は少し離れたら…等と、とうてい口に出せるものではなく。

リュミエールも以前のように、いきなりローブをまくられたりするわけではないので

女王のなすがままで恥らってはいても嫌ではなさそうなのだ。

だが当然のことながら朝議が終わり退出して二人から離れると皆の不満が噴出した。

「何なんだよ、あれは!朝っぱらから甘ったりーんだよっ!」

喚きながらゼフェルが全身に出来たジンマシンをかきむしる。

気持ちは皆同じだった。

二人の仲の進展は喜んでも誰しも他人のラブラブアツアツを見せ付けられるのは喜べない。

ましてロザリアと二人の女王候補は切実なものがある。

応援してやりたい気持ちと見せ付けられて腹の立つ気持ちと、まさに半々で

どうにもならない。

「で…でも、朝議の席で押し倒してどうこうではありませんし…」

親友を弁護するロザリアだが彼女らしからぬ妄想が動揺を如実にあらわしている。

「だが、神聖な朝議の席で不謹慎であろう!」

怒りを素直に表すのにはばかることないジュリアスの声は怒りに震えている。

とどめようとするオスカーは張り倒されんばかりだ。

「毎日、あれを見せられるくらいなら、ワタシはアンジェが女王でいいから新宇宙へ行きたいよ。」

レイチェルでさえも肩を落とす。

「あの〜とりあえず陛下ご自身にお話してみてはどうでしょう?」

おずおずとしたコレットの提案に溜め息をついてロザリアは女王の執務室へ向かった。

 

ノックをして扉を開けた瞬間、ロザリアは来なければよかったと心底思った。

女王は執務そっちのけで潤んだ瞳でリュミエールと見詰め合っていた。

なんとなく二人の目と目で語られる愛の会話が聞こえてきそうで眩暈がする。

それでもロザリアの訪問でリュミエールが恥ずかしそうに

首を傾げて染まった耳朶と首筋をさらし俯いたため見詰め合いは水を注され

アンジェリークはロザリアに気が付いた。

だがロザリアにはアンジェリークの瞳の中に

パステルピンクのハートが浮かんでいるのが見えるようだった。

「どうかした?ロザリア」

無邪気にリュミエールの透けるような水色の髪を梳きながらアンジェリークが言う。

はっきりいって、どうかした?なんて聞いてみただけで皇帝が攻めてきても動きはしなそうだ。

「ちょっと執務についてお話しがあるのですわ。リュミエール様、席を外していただけますか?」

リュミエールがニコリと微笑んで席を外そうとすると、アンジェリークもついていこうとする。

「お待ちなさい!アンジェ。あなたに用があるのよ!」

慌てて捕まえるロザリアと席を外そうとしていたリュミエールの間でアンジェリークの瞳に

いきなり涙が盛り上がる。

「いやっ!リュミエール様と離ればなれになるなんて!」

ロザリアは内心、呆れていた。

(ほんの数分のことですのに、まるで今生の別れですわ。)

リュミエールが懸命になだめて、やっと収まった頃にはロザリアは達観していた。

(こんなアンジェに話しても無駄というものですわね。)

ロザリアには、そそくさと退散するしか出来なかった。

 

「…で、なにもしないで帰ってきたの?しんじらんな〜い!

ロザリア様って、もっとできる人だと思ってたよ!」

攻めるレイチェルの批判に反論する気力もロザリアにはなかった。

代わりにコレットがレイチェルにこたえる。

「しかたありませんです〜ラブラブなんですもの♪きゃ♪」

「だが、このままでは宇宙の存続にかかわるやもしれん。」

ジュリアスの言葉に一同が力なくうなづいた時に事件は起こった。

 

突然、バタンとドアを開けて駆け込んできたのは、当のアンジェリークだった。

ルヴァを捕まえると襟首を締め上げる。

「ルヴァ様っ!どうしたらいいでしょう?!私、できちゃったみたい!!」

一同が茫然自失したのはいうまでもない。

「あ〜そうですか〜、それはおめでとうございます〜。」

締め上げられて息も絶え絶えになりながらも焦らないのは、さすがルヴァ。

だがリュミエールとは昨日の今日なので除外するとして、

アンジェのお腹の子は誰の子かと言う事が問題だろう。

「ねぇ、アンタ本当にできちゃったの?」

オリヴィエが半信半疑で問い掛けると立ち上がったアンジェのお腹は確かにプックリと膨れていた。

「食いすぎじゃねぇのかよ?」

ゼフェルも信用できない様子で、しげしげとアンジェリークを眺める。

だが、そこが膨らんでいることは誰の目にも明らかだった。

 

**** 水鳴琴の庭 ****