最強無敵のマジなレンアイ by真珠

15.愛するがゆえに…

美しい水色の髪の後姿が逃げ去る姿を見ながら漠然と思った…ここで見送ってしまったら

また同じ事の繰り返し…と。

イヤな考えに首を振ると後を追って全力で駆け出し

下が柔らかい芝生なのを確認すると一気にタックルをかました。

そして倒れたところを後ろから押さえつける。

憧れつづけた、しなやかな細い体の感触と水色の髪が目の前にきらめき清涼な香りがするのに

眩暈を覚えながらもしっかりと抱きしめる。

「『へっへっへっ、もう逃げられないぜ』

って感じね〜。このケダモノ〜!いきなり茂みに連れ込むなって言われたからって

こんな丸見えのところでおそうなんて理性ってもんがないの?」

呆れ果てたような声がしたと思ったら

後頭にピンヒールの先がグリグリとめりこんできた。

か…かりにも女王の頭を…いつもいつも…こいつ本当に守護聖?ハゲになったらどうするのよ!

怒りを込めた目で見上げると、どういうわけかオリヴィエ様も

かなりマジに怒っているみたい。

オリヴィエ様は私をその細い腕に似合わない力で摘み上げると物でもよけるようにどけると

優しい仕草で怯えまくって硬直しているリュミエール様を支えおこした。

「まったく…あんた女王でしょ」

(そ…そうよ…)オリヴィエ様の怖い顔に気圧されながらコクコクとうなずく。

「いきなり昼日中に襲いかかるなんて…あんたはリュミエールのことを愛してるから

我慢できると思っていたのに…呆れちゃって…もう許しておけないよ…。」

(ち…ちがうってば…)そう言おうとした時、天使の純白な羽が震えるような声が割って入った。

「ほ…本当ですか?」リュミエール様の海色の瞳が張り詰めた琴の弦のふるえにも似た細波にゆれていた。

「本当よ〜。もう許しておかないからリュミちゃんは安心して…」

オリヴィエ様の言葉に白鳥よりも白く優美なうなじがふられる。

「ち…ちがいます。あの…陛下が…私を…」

うつむいた首筋にかかる水色に輝く髪の間の桜色に染まった耳たぶに見惚れていた私は

オリヴィエ様のため息で正気に戻った。

「な〜んだ。そういうことか。やだな〜これじゃ、私ただのデバカメヤロウじゃん」

(えっ?えっ?な…なに?なに?なにがどうしたの???)

オリヴィエ様はうってかわったような優しい笑顔を向けると

私の髪をクシャクシャと掻き回すようになでた。

「ま…しっかりやんなよ」

(はい?)唖然とするだけの私に手を振ると去っていこうとする。

「ちょ…ちょっとオリヴィエ様?」

服のすそをつかんだ私の手をはずすとオリヴィエ様は無理やり私の首を捻じ曲げて

リュミエール様の方をむけた。

どこか不安げにリュミエール様の瞳がゆれている。

「あんたが見なくちゃいけないのはリュミちゃんの方よ」

確かに…もう目が離せなかった。

オリヴィエ様の小さな笑い声も去っていく気配もわからない。

ただ私の世界にはリュミエール様しかなくて。

ふれるだけで全てを浄化するような白い手が、そっと伸ばされて私の髪にふれた。

涙が流れ出して本当に自分が清められていくようだった…

「本当に私を愛していて下さったのですか…」

雲間からさす神々しい光に誓うように私は頭をたれた。

「はい。私…初めてお会いした時からリュミエール様を愛していました。

それなのに…いつもリュミエール様を傷つけてしまって…

逃げて、他の方と遊んだりして…汚くて悪い人間です。」

リュミエール様の手が私の頬をすべる。

私はずるい…この方がどんな穢れた私でも許し浄化してしまう海だと

知っているくせに、こんなことを言って…

でも、言わずにはいられなかった。

頬に手を当てられただけで、今までのように逃げることが出来ない、

ただひたすら、偽りを言うことの出来ない聖なるものに向かいあわなければならないから。

「いいえ…罪深いのは私です。ずっと聖なる女王である貴方を想ってきました。」

(えぇ!そうだったの…?)

「でもルヴァ様にも教えて頂くまで気がつかなくて…私の想いは恋なのだと…。

私こそ貴方を傷つけてしまったのですね…。」

私は心底あわてた。リュミエール様はルヴァ様のボケでカン違いなさっているのだわ。

ど…どうしよう?心の中で悪魔な私と天使な私が争っている。

勘違いを良いことにリュミエール様をおいしくいただいている絵を思い浮かべると

天使な私もよだれをたらしてしまうけど…

でもぉ…だ…だめよ!リュミエール様にだけは汚い手は使えないっ!

誓ったんだもの、この方の前で。

でも…どうやって、ご説明したら良いのかしら?

泣きそうな思いで顔を上げると茂みの中にデバカメの守護聖…

もといオリヴィエ様の瞳が輝いていた。

去っていく気配がわからなかったわけね…ずっと、いたのだもの。

 

**** 水鳴琴の庭 ****