最強無敵のマジなレンアイ by真珠

14.恋はジョブパンチ?

リュミエール様と歩く庭園…無理やり呼び出したとはいえ構図だけ見れば

とっても素敵なデートなのに微妙にリュミエール様が怯えてるのがわかる。

さっきも偶然?出会ったオリヴィエ様が「いきなり茂みに連れ込むんじゃないわよ」って

私に言った時も意味はわからないなりに不安そうなお顔をしていらしたし。

ここは、いきなり鎖骨をなぞったりしないで仲良しから始めなくちゃ。

それにしてもオリヴィエ様ったら失礼だわ。

私を飢えたケダモノとでも思っているのかしら?

これでも皆様を手玉にとって女王に収まった(おさめられた…かしら?)

恋愛のプロよ。

最初はジョブパンチ。足元がふらついてきたらストレート。

任しておいて欲しいわ。

まず緊張をほぐすために私はニッコリと微笑んだ。

必殺のエンジェルスマイルだ。

するとリュミエール様もユリの花がつぼみを開き

ゆるりと匂い立つような美しい笑みを浮かべた。

せ…成功なんだけど…わ…私の理性が焼き切れそう。

あぁ…風に少し乱れて流れた髪の間からのぞく雪白の頬が…

ほんのり染まってる…あぁ〜あそこに触れたい〜。

きゃああああ、その優美で典雅な腰に腕をまわして…風が遊ぶ衣を掴んで…あぁ…。

私は慌てて、ぜーはーと息をついた。

忘れてたわ。今までもここで理性を押さえきれなくなりそうで

怖くて逃亡しちゃってたのよね。

甘く見ちゃいけなかったのだわ。

私はリュミエール様を見ないようにして滝のような汗をふき呼吸を整えた。

い…いけない。いけない。いきなりはダメよ。まず…まず仲良しさんからよ。

あがってしまった動悸を押さえて下心を隠して近づく。

「今日は良い天気ですね。この美しい景色の中でリュミエール様の竪琴を聞かせて頂けませんか?」

「喜んで、陛下。」

上手くいった。ちょっとづつ接近して曲に感動したふりして胸にもたれかかっちゃおっと。

そのくらいなら良いわよね。

 

噴水の側のベンチがあいていた。

流れる水飛沫はリュミエール様の髪を美しい煌きで飾る良い引き立て役だわ。

私は浮き立つ気持ちを押さえてベンチに腰掛けて調律を始めたリュミエール様のそばに

腰掛けるために、そっと近づき・・・うっ。思わず鼻に両手をあてた。

は…鼻血でそう…。

すぐ眼の下でうつ向いて一心に調律するリュミエール様の雪のように白く輝くうなじが

流れる髪の間に見え隠れして私の理性をきしませる。まるで拷問だわ。

やがて調律が終わってリュミエール様の長く白い指が

そっと演奏のじゃまにならないように髪をかきあげ片方にまとめて降ろすと

首筋から耳元の白鳥より優美でしなやかなラインが私の目の前にあらわになった。

プッチン。

何かが切れる音がして私はリュミエール様に…。

 

「陛下!」声と共に私とリュミエール様の間にロザリアの錫杖が割って入って

私はリュミエール様に襲いかかる前に、それにぶつかって正気を取り戻した。

「あ…ありがとうロザリア〜」鼻を打っちゃったけど助かった。

鼻を押さえる私とニコニコと笑うロザリアしか見ていないリュミエール様は

不思議そうなお顔をなさっている。

「どうかなさいましたか?ロザリア。」

ロザリアは錫杖を後に隠してプルプルと首をふる。

「いいえ、なんでもありませんわ。リュミエール様。ちょっと陛下にご用があったものですから。」

ニッコリと微笑むとロザリアは私の腕をガッシリとつかんだ。

そして有無を言わさぬ迫力でひきずる。

「失礼いたします。ごきげんようリュミエール様。」

私は連れ去られながら唖然とするリュミエール様に手を振ることしかできなかった。

 

「陛下のケダモノ!」開口一番レイチェルが口にした言葉は、これだった。

うぅ…言い訳できない。

「昼日中いきなり襲いかかるなんてオスカー様だってしないよ!」

腰に両手をあてて憤るレイチェルをいなすように茶色い髪のアンジェが羽交い締めにする。

「落ちついてレイチェル。そんなに暴れると間違えて頚動脈おさえてしまいますわ。」

どういう間違えだ…。つっこみを入れようとしてロザリアの悲しそうな顔と目が合った。

「ロザリア…。」

ロザリアは目頭を押さえると私の肩を抱いた。

「アンジェリーク…あなたもリュミエール様を愛しているのでしょう?

それなら耐えなくてはいけないのではなくて?。」
うぅ…そう。そうなの。そうよ!頑張らなくっちゃ!

「私やるわ。ロザリア。今度こそ負けないわ。」

そう言い放って外へ駆け出すと、さっきの庭園に向かった。

竪琴の音が聞こえる。やはり、まだいらっしゃるのだわ。

「リュミエール様。」

叫んで噴水のフェンスの中に入ると、それが目に入った。

リュミエール様のお召し物のスソからこぼれでたサンダルをはいた甲の薄い足のつま先。

足の指なのにほっそりとのびて薄い桜色を帯びて…

気がついたら私はリュミエール様の細くしまった優美な曲線を描く足首に

頬ずりしていた…

…リュミエール様を押し倒して衣のすそを乱して。

あぁ…我慢するつもりだったのに…。

かくして私は再びリュミエール様の走って逃げる後姿という稀有なものを目にすることとなった。

 

**** 水鳴琴の庭 ****