最強無敵のマジなレンアイ
by真珠9.ベッドの上で
目を開けると見なれた天井、自分の寝室。
だけど頭がボンヤリして、ここにいる理由がわからない。
「陛下…。」メソメソと泣いているのは茶色い髪のアンジェリーク。
「どうしたの?私。」
「倒れてしまわれたんです。すみません。私がお茶を飲ませたりするから…。」
ああ、やっと記憶が繋がった。
確かに、あのお茶めっちゃ臭かったわ…。
「リュミエール様のお好きなものだから陛下にも好きになってもらいたかったんです。」
「アンジェ…あなたって…」
なんだか良い子すぎて、このアンジェこそリュミエール様に相応しいんじゃないかと…
「陛下、特訓しましょう!」
「へっ?」
「こういう時は、特訓あるのみです!!」
茶色の髪のアンジェリークは、いきなり私の体にスプリングだのチューブだのが付いた妖しげなものを取りつけた。
「女王養成ギブスです。いつまでも2人羽織に頼っていてはダメですわ。
これを付けて立派なリュミエール様好みの女性を目指すのですわ。」
自分のことは棚に上げてだけど、前言撤回こんな子ぜったいリュミエール様のお側になんて置けないわ。
ドアが開いて女王付きの医師が入ってきた。
「気が付かれましたか。よかった。」黒い巻き毛の可愛い青年(もちろん腕より顔で私が選びに選び抜いた)。
「ありがとう。あなたの黒曜石のような瞳に浮かぶ星は、それだけで私を癒してくれ…」
そこまで言って私は言葉を継げなくなった。ギブスが私の言葉に反応してギリギリと体を締め上げてきたからだ。
固まってしまった私に医師の青年は物足らなそうな顔をしながらも職務を果たすため
一応、脈と体温を測って帰っていった。
「アンジェ…はずしてよぉ〜、なにこれ?こんなのイヤよ!男を口説けないじゃないの!」
「良いのですわ♪陛下はリュミエール様だけのもの。他の男なんてフケツなもの相手にしてはいけませんわ。」
こ…この子って…。
扉が開いてロザリアとレイチェルが顔を覗かせた。
「アンジェリーク」
「陛下」
2人はツカツカと入ってくると私の頬を両方から引っ張った。
「にゃにしゅるりょ〜、わしゃしは、りょうほふよ〜」
「なに言ってるの?当然の報いよ!リュミエール様に御心配をかけておいて!」
「陛下のコト、ここまでリュミエール様が抱いて来られたんだよっ!きー!悔しい!」
えっ?ちょっと顔がにへらっと緩んじゃった。
茶色い髪のアンジェリークが私を庇うように2人の前に進み出た。
「でも…でも…陛下は気を失っておられたのですし…
陛下を抱き上げたリュミエール様は、とっても凛々しくってステキでしたわ♪」
庇ってくれるのかと思ってたら、庇ってくれてるんだろうけど…なんか悔しい。
あぁ…そんな、おいしいシーンを見逃したなんて。
ううん、それどころじゃないわ。抱かれてるのは自分っていう超おいしい状態だったのに。
ロザリアとレイチェルもウットリしてるわ。悔しすぎて私は泣き出してしまった。
あわてて茶色い髪のアンジェが駆け寄ってきた。そして小声で耳元に囁く。
「陛下、大丈夫ですわ。ばっちりビデオに撮ってあります。3D再生も出来ますわ。」
あぁ、本当に良い子だわ。信じられない…これで妖しげな術とか使わなければ、さらに良いのに。
「リュミエール様は?」
いきなりロザリアが補佐官ぶって答える。
「恐れ多くも女王陛下の御寝所ですので、入り口から先は御遠慮願いました。」
「3人でベッドまで引きずって来たんだよ。感謝してよね。重かったんだから。」
頼んでないわよ。リュミエール様にベッドまで運んでいただきたかったわ。
私の不満顔を見ながらもロザリアは真顔になってベッドに私を寝かせた。
「ともかく、もう少しおやすみなさい。元気だけが取り柄のあなたが倒れるなんて心配だわ。」
本当は何ともないのに気が付いてないのね、お茶の匂いのせいだって。
ちょっと心が痛むわ。
ベッドの上で目をつぶっていたら、かすかに静かなハープの音色が聞こえてきた。
私のこと心配して奏でて下さっているのかしら?
ドキドキ胸が高鳴る。頬が熱い。
爽やかな風とともに流れ込んでくる調べに夢の中にいるような気分。
たまらなくなって、そっと窓を開けると
「これは、これは、陛下。いかがしました?」
予想に反して、庭を見下ろした私の視界には馬に乗ったオスカー様しかいなかった。
「今日の貴方の魅惑的な唇と熱い胸は誰のもの?わた…し…」ギブスが私を締め付ける。
「どうした、お嬢ちゃ…陛下。俺に恋焦がれて夜も眠れないんじゃないでしょうな。」
く…くさいセリフが返せない。
そうこうしているうちにオスカー様のアイスブルーの瞳が誘う。
「もっとも俺とFALL IN LOVEしても眠れないけどな。」
コリないわね、オスカー様も。
もっとも私も、こんなギブスまで付けてるのに反射的に口説き文句が出ちゃうんだから同じね。
そう思ったら胸が重苦しくて潰れそうに痛くなった。
ふさわしくない…私なんて、あの白百合よりも清浄な方には、
聖なる天上界で最も美しく清らかで神聖なものだけを集めたようなリュミエール様には。
悲しくて苦しくて魂さえ壊れてしまいそう。
どうしようもなくて部屋の中に逃げ帰るとベッドの上に泣き伏せるしか、私には出来なかった。
**** 水鳴琴の庭 ****