最強無敵のマジなレンアイ by真珠

2.バレンタイン・イブ

オーソドックスと言われようが月並み・めだたないと言われようが

こればかりは、基本が一番というオリヴィエの判断で

アンジェリークは職務もそっちのけでチョコレートづくりに励んだ。

ロザリアと仕事の押し付け合いになったが、やはり女王の地位は強かった。

研修と称して女王候補達まで仕事を回されるありさまだった。

 

バレンタインの前夜にアンジェリークはオリヴィエのもとに現れた。

「その顔からして上手く出来たみたいね、

まぁ、あんたはお菓子作り得意だから心配はしてなかったけど」

「もちろんです。10000個も作っちゃいました。見て下さい♪」

アンジェリークがカゴから取り出したのはリュミエールを形どったチョコだった。

衣装の流れるようなドレープさえ再現した美しさにオリヴィエも息を飲んだ。

 

・・・が、

「ねぇ、なんで首がないの???」

「だってぇ、リュミエール様は顔のあるものは食べられないそうですよ。」

リュミエールの好みについてはオリヴィエも知っている。

だが、それとこれとは別でしょう?!と言う心の叫びをグッとこらえる。

「ねぇ、でもね。

あんただったら自分の首のないチョコ10000個もらったら、どう思う?」

「がぁ〜ん」と言う擬音が聞こえてきそうな表情で固まってしまったアンジェリークに

オリヴィエは困ったようにため息をついた。

「どんな相手にもウマク立ち回って、相手の好みにピッタリ合わせちゃう

あんたらしくないねぇ?」

オリヴィエの顔に笑みが浮かぶ。

「本当に本気でマジなんだね・・・」

アンジェリークはしおれた花のように見る者の心を締め付ける悲しい表情で微笑んだ。

「私、ウマク立ち回ろうとか、合わせようと想ったことはないです。」

アンジェリークの頭をポンと叩いて笑う。

「わかってるよ。あんたはサービス精神が旺盛なだけだってことは。

でもねぇ。気を付けるんだよ。誉め言葉もサービス精神も

あんまり度が過ぎると、どっかの炎の守護聖みたいになっちゃうから。」

おどけて肩をすくめると、アンジェリークは一層かなしげにうなだれた。

「もう、ダメみたい。女の子の間では女版オスカー様って言われてるんですよ、私。

そんなつもりなかったのに、ただ、皆様が夢でも見てるみたいにステキな方ばかりで、

心から、そう思うから思ったままに言って、喜んで下さるように色々考えて

一生懸命色んなことして・・・。

そしたら皆様優しくして下さるから嬉しくなっちゃって

すっかり浮かれてドンドンとエスカレートしちゃって己惚れて好い気になって遊びまくって

ロザリアが女王になってくれれば補佐官として皆様と遊びほうだいとも思って育成もしないで。

恋人関係まで親密度を上げなかったのは皆様と遊びたかったからなの

恋人関係になっちゃうと仲の悪い方はケンカして私とも親密度下がっちゃうでしょう

でも、皆様の仲まで取り持つのはメンドーだし。

そんな私なのに何時の間にか、たくさん建物が出来ちゃって・・・気がついた時には

私が女王ってことになってて・・・ロザリアも皆様も喜んでいらっしゃるし

なによりリュミエール様におめでとうございますって言われたらイヤって言えなくて・・・。

気がついたらプレイガール女王と言われるようになってました。」

アンジェリークの頭を抱えてオリヴィエは優しく言った。

「本当にマジなレンアイには、それは通じないよ。」

アンジェリークの瞳から初めて本当の涙がこぼれた。

「もう遊びはやめなよ。本当の愛を見つけたんでしょ。」

アンジェリークはコクリとうなずいた。

「でもリュミエール様だと思うと、それだけで頭が真っ白になっちゃって

言う言葉もやる事も言いがかりつけてるかイジワルしてるみたいになっちゃう・・・、

今回のチョコだって差上げたらイジワルだと思われちゃいますよね?

もう作り直してる時間はないし・・・どうしよう?オリヴィエ様。」

オリヴィエのシャツのスソにすがりついて

見上げてくるアンジェリークの大きな瞳に、また涙がたまる。

オリヴィエは、このシュチエーションに弱かった。

アンジェリークがプレイガール廃業宣言をしても長い間に身についた

男の好みをつく手管は自然に出てしまうらしいと内心あきれながら

人の良さもあって手助けしてしまう。

なんで当のリュミエール相手に、これが出来ないのか・・・

その不器用さに安堵と愛おしさを感じながら。

「そうねぇ。リュミエールには女の子が告白する日だって吹き込み済みだし・・・

聖地の時間の流れを遅くして外界で作りなおしてきたら?。」

我ながら恐るべき意見だと思ったが、それくらいしか思い付かない。

だが、その時に無情の鐘の音が12時を告げた。

「オリヴィエ様ぁ〜。もう今日ですぅ。」

さすがに時間を戻すのは皆に気づかれるだろうし出来ないだろう。

が、しかし。こうなると、いつ何時に気の早い女の子が

リュミエールのところに行くかわからない。

オリヴィエは頭をかかえた。

「あぁ、せめて今日一日リュミエールが聖地にいなければ・・・。」

「わかりました。私やってみます!」

両手でグーをつくって燃えるアンジェリークはオリヴィエの部屋を飛び出した。

 

**** 水鳴琴の庭 ****