私のベビー(2)
水色 真珠ロザリアに相談すると凄い計画がさずけられた。
「そんなことして大丈夫かしら?」
「大丈夫よ。危なかったら、なにくわぬ顔で出て行けばよいのよ。
これでさらに、あの2人が少しでも仲良くなったらめっけもんでしょう?」
「悪くなったら〜?」
「大丈夫、親密度・相性ともに0なんだから、これ以上悪くなることはないわ。」
その計画とは、ベビーを全面的にオスカーにまかせてアンジェリークは仕事ということで
その実は隠しカメラで様子を常にチェック、危なくなったら仕事の合間に様子を見に来たと出て行くと言うものだ。
これなら、オスカーの父親度もわかるしレベルアップも望めるかもしれない。
アンジェリークはロザリアの計画を実行に移した。
「育児をしない男を、父とは呼ばない。」
アンジェリークの一言に燃えたオスカーはTVモニターの中で今のところ実に良く面倒みていた。
が、アンジェリークがお茶を飲みながらクッキーをつまんでいると
モニターの中のオスカーがあやしい行動を始めた。
「あぁ、オスカーったら・・・」頭痛がおきそうになってアンジェリークは額を押さえた。
オスカーは手にしたプラスチック板でリュミエールの髪の毛をこすっている。
「一度やってみたかったぜ。うん?うまくいかないなぁ。」
ニコニコと愛らしい笑顔をオスカーに向けるリュミエールの綺麗な水色の髪は細くサラサラしていながら、
一本々は水分が多いのか摩擦を無視してオスカーの思惑通りにならない。
やがてオスカーは悪態をつくと八つ当たりをはじめた。
「かわいくないぞっ!せっかく遊んでやってるのに無視するとはいい了見だなっ!」
勝手に遊んで上手くいかないと勝手な理由で怒るオスカーにため息をつきつつ
アンジェリークは抱きしめたくなるような愛おしさに戸惑っていた。
「オスカーったら、かわいい♪」
それでもミルクの時間になるとミルクを人肌に温めて持ってきた。
だが、アンジェリークは止めに入るため脱兎のように駆け出した。
扉の前で深呼吸して落ち着いた様子を装い部屋に入ると、案の定オスカーは途方にくれていた。
「仕事の合間に様子を見に来たんですけど、どうしたの?」
「ミルクの時間なんだがクソこなまいきに強情はって口に入れないんだぜ。」
むりやり押し込もうとしたのか、そこらへんがミルクだらけになっている。
それでも、泣きもせずにキョトンとした表情で見上げるリュミエールは案外と体も根性も頑丈かもと
アンジェリークは少し安堵した。
「もっと小さい乳首じゃないとダメです。リュミエール様の口は小さいんですもの。」
「だって、こいつは6ヶ月なんだろう?」
「子供によって色々なんです。決め付けちゃダメです。」
「根性がたらん!」
憤る夫にふきだしながら、ミルクを用意すると今度はコクコクと素直に飲む。
夫の顔はますます渋くなる。
「このままでは、リッパな男になれん!
男のクセに竪琴ひいたり絵を描いたりしか出来ん大人にならないように
この俺が鍛えてやる!。」
まだ赤ちゃんなのに・・・呆れるアンジェリークを後にオスカーは飛び出して行った。
次の日、どういう理由かベビーは1才位になっていた。
そして日々不思議な速度で育っていく中、アンジェリークがモニターから見守ってるとも知らず
夫は言葉もわからない相手に戦闘の心得をときながら、どこで調べてきたのか幼児体操をほどこす。
それはそれで微笑ましい光景だったが時折きびしすぎるのではと心配になって
アンジェリークはたびたび育児室に走らねばならないハメになった。
だが、リュミエールは繊細な外見に似合わず
オスカーのしごきに音を上げることなくニコニコとしながらついていった。
もともと万人が認める愛らしい容貌だし素直で性格も良いのだ、可愛くなったのか夫も父親らしく、
女の子の服を着せるとか嫌がらせじみた子供っぽいイタズラもしなくなった。
厳しく鍛えつつも愛情を持って接する態度は、まさに父親そのもの。
アンジェリークは、少し物足りない寂しさを感じて計画を切り上げようとしていた。
その矢先ロザリアから呼び出された。
**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****