私のベビー(1) 水色 真珠

その日、炎の守護聖が長い(2日)新惑星の調査から帰ってくると

女王補佐官であり彼の妻であるアンジェリークは彼の愛してやまない白い腕に赤ん坊をだいていた。

 

アンジェリークにはオスカーが、自分の腕の中のものを見た途端ガラッと音を立てて壊れたように見えた。

彼は倒れこんだ姿勢のままゴキブリのようにアンジェリークの足元に駆け寄ってきた。

上げた顔にはギャグのように涙がながれている。

これが、あの颯爽として結婚しても女の子達をメロメロにせずにおかない炎の守護聖かと思うと

情けないやら可愛いやらアンジェリークは思わず吹き出しながらオスカーの額に

お帰りなさいとキスした。

「ア・・・アンジェリーク・・・、そ・・・そりゃあ、なんだ?」

「見て分かりません?」

「赤ん坊だろう?」

「う〜ん、まあそうです♪」

「なんで?」

「いけません?私達は夫婦なんですよ。」

言ってしまってからアンジェリークは、ちょっとイジメすぎたかなと後悔した。

炎の守護聖は自分のドレスのスソをくわえてウルウルしている。

そりゃあ、そうだろう。

この見たこともないくらい愛らしいベビーが赤毛あるいは金髪だったら問題ないが

どこからどうみても流水のような水色の髪に海色の瞳、アンジェリーク自身の白い腕より綺麗な白い肌は

オスカーの天敵ともいえる水の守護聖の特徴だ。

それが天使のようなあどけない瞳でアンジェリークの胸に抱かれている。

「アンジェリ〜クぅうううう・・・。」名前を呼んで問い詰めたいらしいが語尾に泣きが入る。

アンジェリークは、ため息をついて情けない夫の頬に口付けする。

「何を誤解してらっしゃるんですか?私が生んだわけではありませんよ。」

言った途端にスクッと立ち上がって普段の炎の守護聖に戻る。

「ふっ、小猫ちゃん。おいたがすぎるぜ。おしおきしてやる。」

言ってアンジェリークの腕のつかんで

魅惑の薄青い瞳でからめとるように覗き込むと熱い口付けを髪から頬へ、

そしてさらに下ろうとした時に異物にあたった。

オスカーは、「それ」の首根っこをつかんでポンとソファの上に投げようとした。

だがアンジェリークは、それを許すわけにはいかなかった。

「ダメです。赤ちゃんなのよ!」

憮然とする夫の手から振り回されたわりにニコニコと愛想の良い赤ん坊を取り戻す。

かなり怒った様子のオスカーは、いきなり余裕を失ってジタバタしだす。

「リュミエールのガキだろう?!いつ生んだか知らんが、さっさと返してこい!

なんで、あいつの生んだガキ・・・あぁ、あいつが生むわきゃないか?

でも女がいるとは・・・聞いてないが・・・???」

ここにいたって、ようやく事の真相に近づいたオスカーにアンジェリークは

ようやく説明の機会にめぐまれた。

「あの、この子がリュミエール様なんですわ。」

オスカーの切れ長の目が真ん丸になって、点になって、カマボコ型になって爆笑が訪れた。

アンジェリークはソファを叩き壊しかねないくらい爆笑する夫を心配しながら

笑ってる場合じゃないのにと頬をふくらませていた。

やがて少し落ち着いたのか意地の悪い笑いをこらえ涙を拭きながらオスカーは復活してきた。

「なんでまた、こんな姿に?ククク、気の毒になぁ、プッ。」

「笑い事じゃありません。もとに戻るまで陛下に面倒みるように言われてるんですから。」

ゲッと言う表情のまま固まってしまったオスカーにアンジェリークは事の顛末を説明した。

昨日、次元の扉で事故があって帰ってくる予定だったリュミエールが着いてみたら

この姿で大騒ぎになったこと。

侍女達に預けたら、可愛さあまって連れて逃亡しようとする者が続出で派遣軍まで出て大捜索。

とりあえず、元に戻るまでということで困ったロザリアに

将来の予行練習ということで押し付けられてしまったことを。

予行練習という言葉に気を取りなおしたのか、いきなり夫は態度を変えた。

「そーかそーか。ロザ・・・陛下もなかなか考えてくれてるじゃないか。

『これ』で、予行練習しとけば俺達の大事なベビーに手抜かりなく愛情をそそげるというわけだ♪」

といいつつ夫の態度は目の前のベビーの顔を踏みつけそうだった。

アンジェリークの心に不安がよぎる。

たぶんベビーがリュミエール様だからなのだと思いつつ、本当に子供ができた時だいじょうぶかしらと。

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****