異世界の女王試験2
-3 by真珠-
お熱がでたの-たしかに…ゲッチュしたのだが…。
「リュ…リュミエール様が…!」ロザリアに言われてギョッとした。
「キャー!リュミエール様!リュミエール様―!」
「あぁ…リュミエール様が…リュミエール様が…どうしましょう、アンジェリーク?!」
ゼフェル様をゲッチュするのに夢中になっているうちに守護園児様達は
リュミエール様のつくった足首ほどの水たまりで水かけ合戦を始めてしまった。
当然、中心には水を出したリュミエール様がびしょぬれで突っ立っている。
うろたえて「リュミエール様〜リュミエール様〜」と「どうしましょう?」しか言えない
私達を救ったのはディア様の一喝だった。
「おやめなさーい!」
あのたおやかな美人が鬼の形相で怒鳴った。
ハッキリ言ってクリオネの捕食のように一瞬で、しかもこわかった。皆が固まった。
それをしりめにディア様は、クリオネが羽ばたく天使に戻るように、
優しい聖母の顔に戻るとリュミエール様を水の中から出してベールでぬぐった。
はぁ〜♪リュミエール様とディア様、まるで聖画のよう神聖で美しくて溜息が出ちゃう。
やっぱりリュミエール様って美しいわ♪
うちから輝くような雪白の肌、額から鼻筋の究極の美しさを持つライン、
花びらのように柔らかく微笑むくちびる、可愛らしいあご。
どれをとっても神の奇跡だわ。
それにさらに類まれな…いえ、絶対無二の美しい水色の髪…。
あぁ…私が後せめて12才若かったら…思わず拳を握り体が震える。
「さて、この騒ぎの原因は何なのでしょうか?」
リュミエール様を抱きしめながら、ニッコリ微笑むディア様の御言葉に一同凍りついた。
怒ってる、絶対激怒してる、みんなのドキドキと怯えた心の声が聞こえるようだ。
ポソポソと言い分けが始まる。
「オ…オスカーがいけないのよ。私に水かけるんだもん。せっかくのメイクが取れちゃうもん。」
「な…っ!俺はジュリアス様に水をかけた奴にかえちただけだ。お前を狙ったんじゃない。
悪いのはジュリアス様に水をかけたマルセルだ!」
「えーん、手元がくるったんだよぉ。僕はチュピにお水をあげようとちただけで…。」
「俺の犬がフリスビー取ろうとちてマルセルにぶつかって。」
「あ〜、フリスビーを投げようとちたランディにぶつかってしまったんでしゅ。」
「関心はないが…私が落とした水晶球の水飛沫をよけようとちてな…。」
「クラヴィスが水晶球を落とちたのはゼフェルを捕らえようとちた女王候補達がぶつかってきたからだ。」
重々しくジュリアス様が言い放つと、ディア様が微笑みながらクルリとこちらに顔を向けた。
ひぃいいいいいいいい〜。微笑んでいるのにコワイ〜。
私とロザリアは思わず抱き合って涙を流しながら凍りついた。
「あの…。」清水のように綺麗な透き通るような声とともにディア様の袖がひかれた。
海色の瞳に柔らかい光をたたえリュミエール様がディア様を見上げる。
「水飛沫が綺麗でちたし、とてもおもしろかったでちた。」
水をかけられまくってショックを受けていたようなのに
健気にニコッと微笑んであどけない表情を向けられて抱きしめずにいられる生物はいない(断言)。
ディア様もリュミエール様の可愛らしさに感涙しながら抱きしめていた。
むかぁ〜、抱きしめずにいられないのはわかるけど…ロザリアと頷き合いながら思う。
私だってやりたいわ!
私達の殺気を感じ取って慌てて顔をあげるディア様。
「あ…あら…失礼。ほほほほほ…。もう、お昼寝の時間ね。宮殿に戻りなさい。
ほほほほほ…。」
ディア様は、こうして現れた時もどこからどうしてと思ったけど去る時も突然消えてしまった。
あっけに取られつつも私達はゼフェル様を大切に簀巻きにして宮殿に連れ帰ると
お昼寝させることにした。
皆様、大きすぎる長袖のTシャツのような白いねまきに着替えて
枕をかかえてお昼寝のお部屋へ入っていく。
リュミエール様の白い寝巻きのスソからチラチラみえる透けるように白い足首がラブリーで…
「アンジェ!よだれ…」
ゲッ!ロザリアに指摘されて慌てて口元を押さえる。
あれ?
「し…失礼ね!よだれなんてたらしてないわっ!」
「あら、そう?そんな顔していたわよ」
ぐっ…反論できない…。
そのとき、オリヴィエ様がやってきた。
「ちょっとぉ。なんかリュミちゃん、お熱があるみちゃいよ。見てあげて。
あの子すぐに回りに気を使いすぎて我慢しちゃうからさ。気をつけてあげてよ。」
口調の割に優しいし気が付くのね、なんて感心してる余裕はなかった。
「リュ…リュミエール様が…リュミエール様が…お熱を〜っ!?」
動転してお昼寝の部屋に飛びこむと、
ちょっぴり丸くなってお布団の上で眠っているリュミエール様の額に手をあてる。
「あ…あつい…」
「あぁ…リュミエール様が…リュミエール様が…。どうしましょう、アンジェ?!。」
「やかまいし!(やかましいといいたいらしい)おつつくのだ!(おちつくのだといいたいらしい)
そなたたちは女王候補ではないか、このような事態に冷静に対処できなくてどうするのだ!」
ジュリアス様の言葉に吹き出しそうになって、我に返った。
ロザリアがミミッピくんで熱を測り、私がピタくーるを額に貼る。
「さ…37
.3…。」「ウ…ウソ…。そんなにあるの!測り間違いじゃない?」
血の気が下がる。
「あ〜、耳式体温計は体温が高めにでる傾向があるそうですね〜。
それに私達の年齢でちゅと成人より体温は、やや高めでしゅから微熱でしゅよ。」
そういえば、特に苦しそうな様子はない…。
ホッとして座り込むとクラヴィス様がリュミエール様の枕元に水晶球をおいた。
「…?よくなる、おまじないですか???」
「くまのかわりだ…」
へっ?くま???もしかして病気の子にクマのぬいぐるみ貸してあげる…あれのこと?。
どうみても、病退散の呪術みたいよ…。
「じゃあ、僕も♪」マルセル様…鉢植えを添い寝させるのは…止めたほうが…あぁ。
「あっ♪じゃ、私はこれっ♪」って、化粧ポーチ…?。
かくしてリュミエール様の枕元には、その他に工具箱と大剣、生の馬と広辞苑が積み上げられた。
「俺、なんにもないからランディジャンプやりまーす!」
そしてリュミエール様のお布団の上をランディ様はジャンプしつづけた。
悪くならないと良いんだけど…私とロザリアは心の底から心配だった。
続く
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水鳴琴の庭 金の弦 ****