異世界の女王試験2
-2 by真珠-
ゼフェル脱園-ホッとしたのもつかの間、エアー三輪車で行方不明になってしまった
ゼフェル様を探しに行かなければならない。
が、しかし…。
「こらっ!われらをこのようなところへ入れりゅとは何事だ!」
ジュリアス様がサークルの枠を掴んで怒りまくっている。
ロザリアが困惑した顔で私を見る。
どのくらい時間がかかるかわからないのに保育室に放しておくのは不安だ。
特にたった今、あれだけのことをしたのに、もう保育室に整然と並べられた皆の執務机の上を
逆立ちして歩き回るランディ様を置いて行くのは…。
かといってジュリアス様のみならずオリヴィエ様もオスカー様も
狭いところに閉じ込められて我慢の限界にきているようだ。
私達は通称オリと呼ばれる柵のついた押し車に守護園児様達を詰めて出かけることにした。
「わーい、おさんぽ、おさんぽ♪」浮かれるマルセル様は私の押し車に乗っている。
他にはクラヴィス様・ルヴァ様・オリヴィエ様・リュミエール様。
ロザリアの押し車にはジュリアス様・オスカー様・ランディ様。
できるだけ考えて分けないとケンカになって収集がつかなくなるから。
この間なんて…ジュリアス様とクラヴィス様が睨み合って一緒になったマルセル様は泣き通しだったし
オスカー様とリュミエール様を一緒にしておいたらリュミエール様の髪を引っ張ったり
いじわるを言ったりで、それでも健気に微笑んでいるリュミエール様が可哀想で可哀想で仕方なかったし…。
緑の葉陰の小道をゼフェル様の痕跡を求めて歩いて行くと小鳥の歌が聞こえてきた。
その頃には皆お休みモードであどけない寝顔が並んだ。
さっきから、うずうずしていた私はリュミエール様を抱き上げた。
長い睫の美しいラインに光が踊っている。
柔らかな頬を頬擦りすると甘い香りと暖かい温もりが伝わってくる。
可愛らしい小さな手を自分の唇にあてると軽くキスしてみる。
あぁ…し・あ・わ・せ♪
きゃあああ!
その時、先に行ったロザリアの悲鳴が聞こえた。
慌てて駆けつけると、腰を抜かしたロザリアが指さした先には聖地園の壁があって
大きな穴が開いていた。
そして壁にはデカデカと赤いクレヨンで「ぜふる さんじよー」と書いてあった。
「外へ出たって言うこと?」
「そ…そうよ、きっと。ど…どうしましょう、アンジェリーク!」
私達の騒ぎに守護園児様達もおきだした。
「あ〜、ゼフェル。また出かけたのでしゅねェ」
「けしらかん!(『けしからん』といいたいらしい)帰ってきたら、またキチュク言ってやらにぇば。」
「ふっ…こういうヤチュがいりゅから、たびたび逃げちゃくもなりゅ…。」
「いつもいつも、どーゆー意味でしゅ?!ジュリアス様に文句があるんでしゅか?!」
その言葉を聞いて私達は顔を見合わせた。
「ゼフェル様って、いつも脱走してるんですか?」
「キャハハハ、ほっとけばそのうち帰ってくるよん♪」
「本当に…?」
ロザリアがおずおずと聞くとマルセル様もコクリとうなずいた。
「じゃあ、とりあえず…」
私はトラバサミを取り出した。
「だめよ、アンジェ。それではケガをするわ。」
ロザリアが巨大ゴキブリホイホイをしかける。
「やるわね。」
「ふふふ…これくらいは淑女のたしなみよ。」
(本当か?)心の中で突っ込みながらジト目で見るとロザリアは目線をそらせて高笑いした。
「ほーほっほっほっ、さあ隠れるわよ。」
とりあえず葉っぱの陰に隠れたが問題が発覚した。
ボーッとしているクラヴィス様、ひたすら本を読んでるルヴァ様、大人しいリュミエール様は問題ないけど
ジュリアス様は怒って常にブツブツ言ってるし
オスカー様は、それにいちいち相槌うってるし
オリヴィエ様は、それを聞いて笑い転げてるし
マルセル様は、ゼフェル様を心配して泣いてるし
ランディ様は、マルセル様を慰めようと必死だし
これが重なって騒がしくて隠れてる意味がないのだ。
「これじゃあ、気が付いて逃げてしまうわ。」
もう私は泣きたくなった。
「弱音を吐いてはダメよ、アンジェリーク!そんな時は、これよ!」
ロザリアが優雅な仕草で卓上ベルを鳴らすと、ばあやさんが現れた。
ばあやさんはロザリアに何か囁かれると風のように去って再び幻のように現れた。
手には何かの包みを持っている。
包みからは赤い汁染み出て、強烈に辛い匂いがする。
「特製スペシャル超辛口チキンよ!」
「そ…そんなもの、何するの???」
不思議がる私にロザリアは分厚い松坂牛と刻印のある皮製の手帳を開いて見せた。
「さすが大貴族のお嬢様ね。松坂牛の手帳なんて高価なもの持ってるなんて。」
なんとなく出てきたよだれを拭いながら私がいうとロザリアは自慢気に笑った。
「ほーほっほっほっ、これっくらいで驚くなんて庶民はこれだからいやーね!
私はバックは神戸牛、靴は飛騨牛の皮と決めてますのよ。ほーほっほっほって
違うわよ!手帳に書いてあることを見なさい。」
押しつけられるようにしてみた手帳にはゼフェル様のデータが細かく書き込まれていた。
「こ…これって!」
「そう、大貴族の財力と権力を注ぎ込んで調べ上げた守護園児様達のデータよ。」
あっ…ロザリアってゼフェル様ストーカーかと思ったんだけど
言わなくて良かった。
「これによるとゼフェル様の好物は激辛チキン!これを餌に使えばゲット確実!
ふふふふふ、完璧だわ!くわんぺきだわ!ほーほっほっほっ!」
こわい…ロザリア…。
「鳥さん…たべちゃうの?」
呟くような声に振り向くとマルセル様が潤んだ瞳で見上げていた。
「こ…これは、ゼフェル様を捕獲…もとい保護するためで…」
「たべちゃうんだ…」
大きな瞳から涙が零れ落ちる。
すぐに仲良しのリュミエール様とルヴァ様が慰めて下さったけど
心なしかお2人の瞳も悲しげで、オリヴィエ様まで怒っているみたい。
「まずいわ、アンジェ。ルヴァ様はフライドチキンが嫌いだし
オリヴィエ様は辛いものが嫌いなのよ。」
「ほかにゼフェル様を釣れそうな餌はないの?」
2人で頭を突き合わせて手帳を覗きこみゼフェル様の好物の欄で
同時に指差したものは同じものだった。
「どうする?」
「お願いしてみましょう…」
私達はチキンをしまいリュミエール様にお願いして水を出していただいた。
綺麗な水が泉のようにリュミエール様の手の平からこぼれ
小さな池くらいになったとき、
きーこきーこ、ゼフェル様がエアー三輪車をこぎながら穴から現れた。
こぎつかれたのかハァハァいってヘトヘトに疲れ喉も乾いている様子で
水の香りにひかれるようにやってくる。
私達は王立子守軍から借りておいた守護園児様捕獲網で
ゼフェル様を無事げっちゅした。
「お熱がでたの」に続く
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水鳴琴の庭 金の弦 ****