異世界の女王試験2
-1 by真珠-
ライバル-厳かに次元回廊の扉が開くと中央の高くなった場所にベールを目深にかぶった神々しい女王の姿が見えた。
ピンク色の髪の補佐官にうながされてライバルと共に前に進み出ると
2人の女王候補の回りには九つのサクリアを司るという9人の守護…園児がまとわりついた。
「おばちゃん、遊んでー♪」「ランディ!ちぇめぇ、俺の足ふんだな!」
「えーん、ゼーちゃんぶったぁ!」「ほらっ、痛いのナイナイでしゅよ、泣かないで下ちゃい」
「静かにちないか!」「あー、ゼフェルも謝りなちゃい」「…」
「おばちゃん、化粧しないと日焼けするよ。もうトシなんだからさ」
呆然とする2人の女王候補に女王は自分の肩をトントン叩きながら言った。
「女王試験は、どっちが優秀な保母であるかを競うものだ。では、たのんだぞ。」
補佐官も乱れた髪をかきあげ、やつれた頬をなでながら溜息をついた。
「よろしいですか、9人とも宇宙には欠くことの出来ない存在です。
大切にあつかい…万が一にもケガや病気にならぬよう気を配ってください。
そして365日までに9人の支持を集めた方が次代の女王です。」
チラリとライバルであるロザリアを見て小声でささやいてみた。
「私…あなたの方が女王で良いけど…
(^_^;)」ロザリアは両手で思いっきりバツを作った。
「みなさ〜ん、綺麗で優しい女王にピッタリ適任のロザリアから
超豪華5段重ねケーキを預かって来ましたよ♪」
私が保育室の扉を開けると中ではロザリアが守護園児様達に流行のおもちゃを配っていた。
「まっ!私そんなもの知りませんことよ。」
「やーねーロザリアったら照れちゃって、ウフ♪」
とてとてと年中組のリュミエール様がよってくる。
手にはふかふかのぬいぐるみを抱いている。
「アンジェ先生、おもちゃありがとーございます」
覚えのないことに内心、ゲッと思ってロザリアを睨むと慌ててロザリアは目をそらす。
このぉ〜、考えてる事は同じね。
「そのおもちゃはロザリア先生のプレゼントよ、このケーキも。ロザリアったら照れ屋だから♪」
「じょ…じょーだんではなくてよ!アンジェ!!
あ…あなたこそ、照れ屋さんね。そのケーキもおもちゃもあなたのプレゼントでしょう!」
「な…なにを…証拠に、言いがかりはよしてよ。ロザリア」
2人の間に火花が散る。
どちらも花の乙女がガキの相手でオバンになるなんて絶対イヤなものだから必死だ。
「ロザリア先生とアンジェ先生なかよちで嬉しいです」
思いっきり2人でこけた。
綺麗な水色の髪に包まれた形のいい芸術品ともいえる頭を
白く華奢で優美な首でかしげてニッコリ微笑む。
大きくてすんだ海色の瞳も桜色の頬も思わずさらって逃げたくなる。
実際どのガキも、もとい守護園児様も可愛いいけど私はリュミエール様がお気に入り。
女王をロザリアに押しつけてリュミエール様をさらって逃げたいくらい。
ふと、ロザリアと顔を見合わせて、ピンときた。
ロザリアも同じことを考えている。
ますます火花が散る。
年長組のルヴァ様が本を開きながらリュミエール様の隣に来た。
「あ〜、ちょれは良いことでしゅね。
現女王陛下も一緒に試験を受けたなかよちを補佐官に指名したそうでしゅ。」
「ルヴァ様、それ本当!」
私とロザリアの声がはもる。
ショックだった…それじゃあ女王を相手に押し付けても、
きっと相手は腹いせに補佐官に指名してくるわ。
「で…でも、断るって手も…。」
ロザリアがギロリと睨む。
「断ったら女王の全権を持って意地悪してやるわ。」
「くっ…こっちこそ。」
2人ともダラダラ汗を流しながら睨み合う。
あまりの凄まじさにマルセル様が泣き出しジュリアス様は怒りまくったが
耳には入らなかった。
私達の相性・親密度は一気に0になった。
「じゃま…」
ゴロゴロと水晶球でボーリング遊びをしていたクラヴィス様に言われるまで
睨み合って気が付かなかったけど保育室のドアが開いて守護園児様の数が足りなくなっている。
『よろしいですか、9人とも宇宙には欠くことの出来ない存在です。
大切にあつかい…万が一にもケガや病気にならぬよう気を配ってください。』
補佐官の恐ろしい声が脳裏に蘇る。
ロザリアも私も争っている場合ではなかった。
慌てて外へ飛び出すとランディ様は宮殿の壁をよじ登っているし
ゼフェル様のエアー三輪車がない。
「もう!保育室のドアを開けっぱなしにするなんて…女王失格よ」
「だってケーキを持っていたから…えっ♪女王失格でよいの?」
喜んだらロザリアは思いっきり頷いた。
「えぇ、こうなったら私が女王になって思いっきりこき使ってやるわ!
補佐官指名も断らせなくてよ!」
「じょ…冗談じゃないわ!そんなだったら女王の方がマシじゃない!
負けないわよ、女王は私がなるわ!」
不毛な言い争いをしているうちにランディ様は2階の保育室のバルコニーまであがって
手すりでバクテンしている。
「きゃああ、おやめになってランディ様!」
見るものにとっては心臓がバクテンするような光景だが
本人はニコニコと爽やかに笑って悪意はない。
「ロザリア!落ちてきたら受け止めて!私、2階へまわるわ!」
返事を聞くまもなく階段を駆け上がる。
保育室の鍵のかかった窓には残された守護園児様たちが集まってランディ様を見ている。
「ばかもの!やめるのだランディ!」「あ〜あぶないでしゅよ」
「キャハハハ、やるじゃん」「まだまだだな。」「ふっ…」
「え〜ん、ランディがおちちゃうよ〜」
キョロキョロとしているとリュミエール様がきて棚の上を指差した。
「アンジェ先生、鍵はあそこでしゅ。」
子供の手の届かないところに鍵は載っていた。
「ありがとうございます」役得とばかりリュミエール様をいいこいいこすると
私は他の守護園児様達をサークルに入れて窓の鍵を開けた。
「ランディ様っ!」
とっさに伸ばした手が頭から墜落しかけたランディ様の足をつかんだ。
…間一髪だった。
「ゼフェル脱園」に続く
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水鳴琴の庭 金の弦 ****