私のベビー(4) 水色 真珠

扉が開いた瞬間、異常な気配に天使を抱いて飛びのいていた。

ギシャ、今まで立っていた場所の背後の壁が臭気を放つ液体に解け崩れた。

 

扉の中は魔物の巣になっていた。

中央制御盤の上に巨大な魔物が陣取り無数の触手を伸ばしている。

感情のない単眼の下にある丸い口は滴り落ちる溶解液だけで牙はない、餌を生きたまま丸呑みにするからだ。

それは身体と思われる半透明の袋の中で蠢き溶けてゆく別種の魔物達が証明している。

まわりには、巨大な魔物を小さくして(といっても体長は3メートルをこえる)細い手足をつけたような魔物が蠢き

他の魔物を巨大な魔物の丸い口元へ運んでいる。

 

「見ちゃダメ!」とっさに天使の視界を覆ったけど餌の魔物のあげた身の毛のよだつような叫びと

吐きそうなくらいおぞましい嚥下の音は聞こえてしまっただろう。

でも、ここで私は・・・逃げるわけにはいかない。もう逃げ場もないのだから。

天使を後ろにかばうと、伸びてきた触手をナイフで切り払い迫ってくる小さな魔物達にマシンガンを打ち込む。

手足が首が跳ね飛ばされても体液をふりまきながら這いずってくる。

間に合わない!一体の魔物の爪が肩口にささった。

「?!」肩の肉をごっそりもっていかれても不思議のない一撃だったのに・・・かすかな引っ掻き傷を作っただけだった。

私より唖然とする魔物。その一瞬の隙に眉間にナイフをつきたてる。

気が付くと、引っ掻き傷さえ治っていた。

これは「聖域の盾」と「癒しの願い」?誰が?!

確認する間もなく、バズーカを構えると巨大な魔物に打ち込む。

案の定、小さな魔物達は動揺し巨大な魔物を守る盾になるために戻り攻撃の手が緩む。

 

私の背後に静かな冷気が立ち上がった。

それはじょじょに激しさを増し部屋の中に銀色のブリザードとなって吹き荒れる。

魔物達は冷気に凍り付き風に砕け消えていった。

やがてルームコンピューターの間の抜けた声が響く。

「ようこそ、女王陛下。お待ちしておりました。」

あの状況の後に間抜けすぎるけど、私はホッとして気が抜けてペッタリと座り込んでしまった。

 

暖かいものを背中に感じて、ふりむくと水色の煌きを纏った天使の心配そうな瞳があった。

「ねぇ。さっきのは、あなたなの?」まさかと思いつつもつい聞いてしまう。

親子だからって同じ力を使えるわけないと思うけど・・・伝わるものは遺伝子だけじゃないとしたら。

やっぱり、コクリとうなずいた。

「ごめんなさい・・・。」小さな声が呟くように絞り出される。

「どうして?助かったわ。素晴らしい判断力だったし。」それでも天使はうつむいて床を見つめていた。

なにに謝ったのか。ぼんやりわかって私は、たまらず天使を抱きしめていた。

子供も悪くないわ。

けっこう可愛いじゃない。

強がりながら思ったけど柔らかい香りも暖かい温もりも手放して生きていけない自分がいた。

 

そう考えると金髪の女王陛下の引き裂かれるような悲しみと心配が自分の事のように胸をかき乱す。

申し訳なくって零れ落ちそうな涙をこらえて笑う。

少しでも、腕の中の天使に心配をさせたくない。

「少し休みましょう。」

強行軍でズルズルになってしまった青い布を不器用に身体に巻きつけてあるだけの天使の服をなおして、

部屋に入って休憩用のベットを出すと、ぐっすりと眠ってしまった。

 

うるさいなぁ。何かの物音に無理矢理に眠りから引き戻された。

目を開けると扉を叩く音がする。

「アンジェー!あけてー!」

「いるんなら、あけろぉー。うぉおおお!この!この!この!」

「ひゃ〜い、ちょっと待って〜。」

寝ぼけた頭でコンソールを操作すると、触手2〜3本付のレイチェルとオスカーが転がり込んできた。

「ちょっとぉ!さっさっと開けてよね!」

「ごめーん。私も死ぬ思いで着いたから疲れちゃって。」

「もう!しょうがないなー。」レイチェルは口を尖らせつつも許してくれた。

私の口調より大変だったこと、わかってくれてるんだ。なんだか嬉しい。

「俺のアンジェリーク。君の瞳は俺の全てだ。再会の喜びに俺は・・・。」

みなまで言わせずオスカーの顔面に拳を叩き込む。

「にゃに、するんにゃ〜。アンジェ。ゲーッ。」倒れたところを上から踏みつけると蛙の潰れたような声。

「なに言ってるの!こんなの軽い予行演習よ!。

向こうの聖地に戻ったら、絶対こんなものじゃすまないから!!」

子供と引き離された女王陛下の心労を想えば、本当に軽いものだわ!。

 

続く

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****