私のベビー(5) 水色 真珠

オスカーがギクリと固まる。

「や・・・やっぱり・・・?」おそるおそる呟く。

「あったり前でしょう!何が見せたかったよ!ものじゃないんですからね!

女王陛下のお仕置きは絶対厳しいわよ。」

ガックーンとうなだれるオスカー。

「で・・・でも、原因は転送のトラブルだし。そりゃ・・・ここぞとばかりに利用しようとしたのは・・・悪いけど。」

「なにわけわかんない事いってんの?!」

レイチェルが肩をポンポン叩く。

「なによ?」

「だからー、誤解なんだってば。オスカー様はアモリールちゃんを誘拐してきたんじゃなくって

あれはオスカー様とこっちの調査に来て転送トラブルで子供になっちゃった・・・リュミエール様なんだって。」

頭が白くなった。

じゃあ、じゃあ、金髪の女王陛下が心配していたのは・・・転送トラブル?。

まったく・・・。

いくら歪みで不安定になってたからって、なんて次元回廊ってアヤフヤで危なっかしくって怪しいの!?

とりあえず、最悪のお仕置きはオスカーの所業を黙っていればなさそうだ。

ホッとして座り込むとオスカーの背中にもたれかかった。

「ねぇ、リュミエール様と仲良くしてよね。」「う〜?」不愉快そうなオスカーの声。

「おかげで私さ。子供好きになったわ。」「う!?」ビックリした顔で振り返ったオスカー。

レイチェルが口笛を吹きながら隣の部屋を調べに行く。

「私、オスカーに似た子がいいな。」「アンジェ〜♪」私の両肩をガッシリつかんで男泣きのオスカー。

「大切に育てようね。」「おおっ!もちろんだ!」

「伝わるものは遺伝子だけじゃないんだから。」「?」

歌を教わったリュミエール様、たぶんそれを受け継ぐアモリール。

心を伝えられたリュミエール様、たぶんそれを受け継ぐアモリール。

考えてみれば私もそうだった。

私の判断力、それは父が幼い頃みせてくれ教えてくれたもの。

これを私の子にも引き継げたら、なにか生きていく導なるかもしれない。

私がそうであったように、時にはジャマになるかもしれない役に立つかはわからない。

でも、命と一緒に心の片隅にでも置いてくれたら、命だけでない繋がりが孤独の癒しにならないだろうか?

幸せな時は忘れていても悲しい時、困った時のためにと親が子のポケットに忍ばせておく小さな宝物。

「オスカー、私しあわせよ。」

「アンジェリーク。」手を重ね合うと2人の心が一つになる。

 

間もなくひずみは消え、私とオスカーは仲良く手を繋ぎリュミエール様を連れて金髪の女王陛下の所へ向かった。

だが待ちきれない女王陛下が、私達の宇宙へ来ようとして止めるのが死ぬ思いだったと

不機嫌そうなジュリアス様に青アザと引っ掻き傷だらけの衛兵達をみせられて

オスカーは、そうそうに自分の執務室に逃げ帰ってしまった。

まあ、それが良いわね。ボロださないように。

 

私が眠ってしまったリュミエール様をだっこして陛下の私室へ行くと、

陛下はウサギみたいに真っ赤な目をして待っていた。

ぜんぜん、寝ていないんだろうな。かたわらのアモリールがリュミエール様とうりふたつの顔で眠っている。

安心した様子の陛下がリュミエール様を娘の隣に寝かせると同じ顔が2つ並んで

可愛らしくて、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

「うふふ、かわいいわね♪」「陛下・・・元に戻すの勿体無いとか・・・。」

「まさかー。子供はアモだけでいーの。」

「そうですか?私、リュミエール様を見ていたら何人でも欲しくなっちゃいました♪」

金髪の女王陛下は人差し指を立てると、その可愛らしい顔の前でふってみせた。

「ちっ、ちっ、ちっ。何いってんの?リュミエール様だから可愛いんじゃない。

あっま〜いわねっ!アモなんて同じ顔してても、ひどい音痴だしミーハーだし。」

それは陛下似ってこと?私の思惑を他所に陛下のグチはつづく。

「良く聞いて!子供なんて五月蝿くて汚くって暑苦しいだけよっ!この間なんてねぇ・・・」

 

午後の日差しが柔らかい廊下を私はオスカーの執務室に向かって歩いていた。

扉を開けて覗き込むと不在中に溜まった書類の処理に追われているみたい。

逞しくて力強い腕が忙しくペンを走らせている。

私に気が付いて微笑むと、いつもより優しい目をしているみたい。

私は目を伏せると小さく舌をだして笑った。

「えへっ。・・・あ・・・あのね。オスカー。」

オスカーが席を立って近づいてくる気配がする。私の前に立って抱きしめるように手を伸ばす。

「私・・・やっぱり子供は嫌い〜っ!!!」

オスカーのショックを受けた顔が見られなくて、私は自分の宇宙に脱兎のごとく逃げ帰った。

だって金髪の女王陛下のリアルな話は、

あまりにショッキングで子供は巨大な魔物より手強いと私に確信させたのだ。

 

あの後、オスカーは一晩中、執務室の扉に頭をつけ突っ立ったまま泣いていたらしい。

 

終り

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****