私のベビー(3) 水色 真珠

魔物の卵が胎動を繰り返している。これが孵ったら通路は無数の魔物で埋め尽くされる。

そうなれば、通る事はかなわない。

吐き気を堪えて粘着物の流れる廊下に足をすすめる。

卵を刺激しないように足音を忍ばせて歩いていると不快な音を耳が捉えた。

ゴリ、ゴリッ・・・。廊下の先を覗き込むと、他の魔物が産み付けられた卵をかじっている。

血とも体液ともつかないものが壊れた殻からドロリとたれる。

 

シャー、鋭い音に振り返った時には卵を産みつけた魔物は私の頭上をこえ

卵を食べる魔物の背に鋭い牙を叩き込んでいた。

噛み付かれた方も棘だらけの尾を叩き付け、相手を背から跳ね飛ばす。

そして双方、口を大きく開けて相手を威嚇する。

今だ!私は素早く2匹の横をすり抜けた。

威嚇しあう2匹は一瞬でも相手から気をそらせば負ける。

いるとわかっていても攻撃してこないものなら本能レベルで無視してしまうはずだ。

それは自らの生死がかかっている命の本能だから。

だが、私の出現でお互いの中に動揺を見出し、きっかけを掴んだ2匹は相手の首に腹に噛み付き、

片方の命が絶たれるまで止める事のできない戦いが始まった。

 

そう簡単に決着が着くとは思えなかったが、勝った方が追ってくる事を考えて全力で走った。

しばらく走ると後方の激しい物音も途絶えた。

耳が痛くなるような緊張の静寂の中、小さな押し殺すような泣き声に気が付いた。

あわてて背中から天使を降ろすと怪我がないことを確認して、ホッとする。

「こわかった?そりゃあ、そうよね。あんなの聖地にはいないもんね。」

「・・・そ・・・。」

「えっ?」耳をうたがった。

「かわい・・・そ・・・。卵・・・。でも・・・食べないとお腹すいて・・・死んじゃうし・・・。」

感受性の強い子って、これだからメンドウ・・・だけど・・・

・・・まるで先ほどまでの自分の理尽くめの心にやわらかさが戻ってくるような・・・。

「あ・・・あのねぇ。生きてくためには、しょーがないのよ。自分だって卵たべんでしょう?」

言ってしまって、ヤバイと思った。よく、こうゆう大人の一言で好き嫌いが出来ちゃった子の話聞くじゃない?。

でも、天使は動揺を見せずコクリとうなずいた。

大きな瞳が真っ直ぐに私の心を見ているみたいに向けられる。

「でも・・・かなしい・・・。」

小さな声に私は無性に恥ずかしくなった。そう、弱肉強食・食物連鎖それは事実であり生き物の宿命。

だからって、感覚をマヒさせ感謝や哀悼の気持ちを忘れなきゃいけないって事じゃない。

 

「いい子ね。パパに似てるのね。」

不思議そうに綺麗な睫毛にふちどられた瞳がまばたく。

「パパ・・・?似てる?」

「そう言われるでしょ?」

身に纏った青い薄衣も一緒に揺れるくらいプルプルと首をふる。

そうかなぁ?外見からしてソックリなのに・・・?

いくら女王陛下だからって、まわりにそこまで気を使わせるなんて腹立たしい。

私の子はオスカー似だったら、ちゃんとそう言うわ!

私は強く決心し、携帯食を分け合い口に入れると再び探るように廊下を歩き出した。

後で思えば、この時の決心は私の心の変化の兆しだった。この時は当然のように思っていたけど。

 

自分の居場所が宮殿の地下施設のどこか分からない、かって知ったる場所なのに。

まるでグシャグシャのジグソーパズル。

繋がるはずのピースの間に繋がらないはずのピースが無理矢理はめこまれている。

 

それでも見覚えのある扉がついた部屋をみつけた。

女王の中央管理室。

ここは堅牢な造り、扉を閉ざしてしまえば魔物も入ってこれない。

たとえ、星が壊れても無事のこる設計だ。

オスカーもレイチェルも生きていれば、ここへ来ているはず。

ドキドキしながら扉の横のコンソールを調べるとルームコンピューターも生きていて女王の帰還を待っていた。

「もう、大丈夫!」

私は天使を足元に降ろすと扉を開く、コードナンバーを打ち込んだ。

 

続く

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****