私のベビー(1)
水色 真珠あの皇帝との戦いの日々も終り、再び宇宙の発展を見守りつづける穏やかだが忙しい毎日を送っていた私が
宮殿から帰ってくると炎の守護聖であり私の夫であるオスカーは腕に赤ん坊をだいていた。
次の瞬間思考がプチと切れて、気が付くと赤ん坊を必死でかばう夫の襟首を締め上げていた。
「どこの女に産ませた子なのぉ〜!くやし〜!」
「待て!違うって、よく見ろよ!」
よく見たら・・・。
あっ、なーんだ。あっちの宇宙の女王陛下とリュミエール様の娘じゃないの・・・。
たしか、アモリールとかいう名前だったわ。
「俺の子じゃないぜ!」
それは、わかる。だって、この子リュミエール様そっくりなんだもん。
「なんで、ここにいるのぉ?」ここは、あちらの宇宙から力を送ってもらっている発展途中の宇宙だ。
時々、わけのわかんない災害やらなんやらが起きる事がある。
夫は半ば、こちらに住んでるようなものだし自分の身くらい守れるからわかるけど。
陛下とリュミエール様が溺愛しまくってるアモリールがいるなんて絶対ヘン。
オスカーは何故か汗かきまくってるし。
「そ・・・そーだな・・・。あっ!な・・・なあ、こうしてみると子供って可愛いと想わないか?。
フワフワとして暖かくて、無邪気な・・・天使のようって、こういうことだと想わないか?。」
あはあはとワザトラな笑いの夫。
「想わないわ。子供なんて五月蝿くって汚くって暑苦しいだけじゃない。」
赤ん坊を抱いたままカキーンと凍り付く。
「あの・・・でも、女なら母性本能ってもんを刺激されちゃったり・・・」
夫は私の顔を見てため息をつく。
「・・・しないよな・・・。」
「あったりまえでしょう!」バカみたい!なにいってるのかしら?
私は、こちらの宇宙の不安定を調整するために日夜、身を粉にして働いてるのよ。
子供だの母性本能だの考てられるほどヒマじゃないわ。
「・・・で、これはどうゆうこと?」
「いや・・・その君に見せたら、子供もいいなぁって思ってくれるかと思って・・・。」
「思って・・・?」
ま・さ・か・・・誘拐の二文字が頭に浮かぶ。
私は全身の血の気が引くのを感じた。
赤ん坊をひったくると宮殿のモニタールームへかけこむ。
緊急連絡ブザーが鳴りっぱなし。あわてて応答するとモニターにひきっつった女王陛下の笑顔が映る。
なぜか画像が悪く声も途切れがちだが、ただならぬ様子に心臓が縮みあがる。
「アンジェ。リュミエール様・・・心配・・・アモリールも。オスカー・・・いるわね。」
私から見ても可愛らしい金色の髪の女王陛下が今日は、とてつもなく怖く見える。
「は・・・はいー!!も・・・申し訳ありません。うちのバカが、とんでもないことを・・・。」
巨大なモニターから見下ろされると、これが年季の差なのだろうか?たちうちできない迫力がある。
その時、スクリーンの画像が途切れて、緊急アナウンスが響く。
「予期せぬ空間のひずみが現れました。両宇宙の接続が保てません。通信および往来不能。」
陛下の声が切れ切れに聞こえる。
「アンジェ・・・私も・・・アモリール・・・リュミエール様・・・心配・・・何かあったら・・・」
通信は、そこでプツリと切れた。
私は手の中の赤ん坊を見ながら、何かあったら・・・連絡ちょうだいとか、
そんな生易しいコトじゃないんだろうなぁと背筋が寒くなった。
扉から赤毛の頭がおどおどしながら覗き込む。私は一回、それを拳で殴り付けると襟首を掴んで宮殿を後にした。
ひずみがなくなるまで、平均2週間。
その間は力を送ってもらえないし何も出来ない、全力を尽くさなければならないのは・・・
腕の中で無神経に眠っている赤ん坊を守ることだ。
家に帰るとレイチェルが目を丸くして迎えた。オスカーはお仕置きの為に問答無用で外に締め出した。
レイチェルに事の次第を話すとニヤニヤ笑う。
「なるほど〜。アナタに目覚めて欲しかったんだ。オスカー様ったら、お気の毒!」
ムッとして睨み付ける。
「どういう事?」
「アナタって、食事はつくらない、掃除・洗濯は嫌い、裁縫もダメなんだもん。
オスカー様に妻らしい事ゼンゼンしないで、そりゃあオスカー様も不安になるよ。」
思い当たらないでもない、でも・・・そうゆうの苦手なんだもん。
私がやっても、なんかしらじらしく感じちゃうし。
「みゅ?。」腕の中の赤ん坊が目を覚ました。海色の瞳が不思議そうに見上げてくる。
「今、緊急事態なの。空間のひずみがなおるまで帰還は望めないわ。我慢して協力して。」
「誰に言ってんの?今の言い方で赤ん坊に分かると思ってるんじゃないよね?。」
レイチェルは女王たる私の頭を研究レポートでこずくと赤ん坊に向き直った。
「お姉ちゃん達といっちょにあそんでよーね。つみきもありまちゅよー。」
赤ん坊がニコニコとレイチェルに手を伸ばすのを見て、やっと意味がわかった。
「バ・・・バカじゃない?、いい歳して赤ちゃん言葉なんて話せるわけないでしょう!」
信じられない!こ・・・これだから、子供ってイヤなのよ!
とりあえず赤ん坊を任せようと、
手を伸ばしてる先のレイチェルに手渡そうとした時
地面が大きく揺れて跳ね上がった。
とっさに赤ん坊を抱いて受け身をとるが、容赦ない衝撃が身体を跳ね飛ばす。
見ると家は半ばから裂けレイチェルの立つ地面から引き裂かれるように私のいる地面が離されていく。
外にいたオスカーは、さらに遠い。
次の強い衝撃に意識が途切れた。
続く
**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****