剣士の憂鬱 その2  by真珠

 

「アリオス…。」

「アンジェリーク…。」

エリスに、どことなく面差しの似た少女が水の守護聖とともにやって来た。

温和そうな瞳に心配の色を浮かべて俺の瞳を覗き込む。

「具合が悪いの?リュミエール様に診ていただきましょう。」

ギョゲッ、俺の喉の奥で奇怪な音が鳴り全身を冷や汗が下る。

「い…いや!お…俺は元気だぜ!ほ〜ら、な!」

慌てて元気よく体操してみせる。

あぁ…俺、本当は皇帝なのに…。

カッコイイ流浪の剣士のはずなのに…。

水の守護聖は、それでも心配そうに比類なく美しい顔をくもらせる。

「本当に元気なんだよ!あんたになんか診てもらう必要はないんだ。」

焦った俺は言ってしまってから背後に殺気を感じて自分の失言に気がついた。

「あ…いえ、元気でございますですので。本当にお気になさらないで下さいリュミエール様。」

背後の殺気が消えた。ホッ。

エリス似の少女アンジェリークは、水の守護聖にベタ惚れだ。

以前、呼び捨てにしたら、後で呼び出されてボコボコにされて2週間ほど立てなかった。

俺はアリオス。流浪の剣士。

しかし、その実体は皇帝レヴィアス…。

だが俺はレヴィアスではなくアリオスとして生きたい

何よりも…この少女ゆえに、そう思う。

夕闇のせまる川の傍の崖の上から仲間と焚き火を囲みつつ水の守護聖が竪琴を奏でるのをウットリと聞きつつ

エリスによく似た優しい瞳を俺に向けアンジェリークは、はにかみながら言った。

「私…夢があるんです。」

そーかい。

「今は皇帝を倒す為って言って旅していますけど…。」

ゾクリ。

「それは皆の憎しみを煽るようで悲しくて辛い…。」

瞳から大きな真珠のような涙がころがりでる。

「私は皇帝を…独りで倒すつもりです。」

ギョゲグ。

変な声を出した俺はアンジェリークに睨まれて竦み上がる。

「皇帝を死なせたくないの……」

「な…なんで…?」

高くて少し幼い少女の声が低くドスの効いた声に変わる。

「だってリュミエール様に、あんな粗末な服を着せた上あんなにばっちい所に拉致するなんて!

…ゆるせないわ…ふふふ…万死に値するって言うけど、それ以上よっ!!」

地獄の鬼も裸足で逃げ出しそうな怖い顔だった。

俺はアリオス。流浪の剣士。

しかし、その実体は皇帝レヴィアス…。

だが俺はレヴィアスではなくアリオスとして生きたい

何よりも…この少女ゆえに、そう思わずにはいられない。

「で…でも御本人は気にしていなかったみたいだし…。」

うってかわってキラキラと瞳を輝かせて少女は、竪琴を奏でる水の守護聖を見る。

「そうなの!どんな粗末な服でもリュミエール様の美しさは隠しようがないし

自然さえもリュミエール様が好まれるように、変わるものなのよ♪」

おい!。突っ込みを入れそうになる自分を必死に押しとどめる。

「だって川の傍だったのに虫さえリュミエール様のお肌に近づこうとしなかったのよ!

同じ森にいながらオリヴィエ様がタイヘンな目にあっていたのに全然違うのよ。

(参照:FX版天空の鎮魂歌)

確かに不思議だな。

「じゃ…じゃあ、そんなに皇帝を責めなくても…。」

振り返ったアンジェリークの瞳が冷たく光る。

「だからって…許せないわ!あの美しい方に、あの装備!」

震える握り拳を少女は泣きながら座っていた岩にめり込ませる。

岩は粉みじんになった。

「で…でもな、男は着る物なんかにこだわらないぜ。俺も着替えは…」

いきなりアンジェリークは俺の肩をつかんで激しく揺すった。意識が…途切れ…。

  

 

**** 水鳴琴の庭 銀の弦 ****