剣士の憂鬱
その3 by真珠
気が付くと少女は顔を覆って泣いていた。
「アンジェリーク?」
恐る恐る声をかけると悲しげな瞳がいっぱいに涙を浮かべている。
「わ…私、とんでもないことに気がついちゃったわ!
アリオス、どうしよう?」
「な…なにに気が付いたんだ?」
どうせロクなことじゃあるまいと思いつつ聞かずにいられない。
アンジェリークはイヤな想像を振り払うように首を振りながら言った。
「リュミエール様のお召し物を取り上げたのって誰っ!?」
俺も装備を取り上げろって命令しただけだから…知らんなぁ…。
「誰か、リュミエール様のお肌を見た奴がいるかもっ!」
お…い…、目が…血走ってる…ぞ…。
「ふふふ…ふふ…ふふふふふ…ゆ〜るせな〜い」
地を這うような呟きは地獄の亡者も真っ青だ。
俺は後ずさりながら言った。
「そうだな。そうだ!俺ちょっと用事があるんだ。これで最後かもな。
というわけで…皇帝を独りで倒す夢、かなうように祈ってるぜ、じゃあな!」
あたふたと訳のわからない言葉で誤魔化して逃げ去ろうとした俺の肩が掴まれた。
ひぃいいいいいい〜。
アンジェリークの可愛らしい手が骨が砕けそうな勢いで俺を押さえる。
バ…バレたか?心臓が縮みあがるような恐怖が襲う。
「違うの。」うつむいて頬をピンク色に染めながら恥ずかしそうに微笑むアンジェリーク。
「は?」
「私の夢は皇帝を独りで倒すことじゃないの…」
??????
「言ったでしょう?皇帝を死なせたくないの…」
少しは思いやってくれるのか?俺を…。
「皇帝に…いわゆる…ほら、あれ…メイド服を着せてこき使ってやりたいの♪
もちろんミニスカートでフリフリのやつよ♪
キャッ♪男の人に着せたら、さぞ悲惨でしょうねぇ〜。髪もおリボン付けちゃったりしてぇ♪」
あ…。
「良いと思わない?最高のばつよねぇ♪」
あぁ…。
「どうしたの、アリオス?」
いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ〜
俺はアリオス。流浪の剣士。
しかし、その実体は皇帝レヴィアス…。
だが俺はレヴィアスではなくアリオスとして生きたい
どこをどう逃げて来たのかわからない…気が付くと川の傍の野営地も監視のために登った崖も
はるか彼方だった…。
だが俺にはわかっていた。いずれ、アンジェリークは真実を知り俺にメイド服を着せに来るだろう。
俺の運命は、すでに尽きていた。
いざとなったらリュミエールに…いや…リュミエール「様」にすがり付いてでも
かばっていただくしかないだろう…。
アンジェリークが独りでメイド服を手に乗り込んでくる前に
リュミエール様との親密度を上げておくしかあるまい。
呆然と座り込んでいる俺の前に、ほっそりとした人影が現れた。
一瞬、アンジェリークかと怯えたが懐かしい香りが違っていた。
「レヴィアス?」
俺は目を疑った。
「エ…エリス…?」
フワリと俺の腕の中に飛び込んできたのは、まぎれもなくエリスだった。
満月が照らし出すエリスの面は喜びの涙に濡れていた。
暗闇の中の月のように俺の心を救い導く尊い光だった。
「レヴィアス…探したわ。とっても…とっても…。」
腕の中で泣きじゃくるエリスは、とても暖かかった。抱きしめると安堵とともに疑問が湧きあがってきた。
「エリス…生きていたのか?」
エリスは涙を拭いながら微笑んだ。
「えぇ。飛び降りたというのはウソなんです。しばらく身を潜めていればと思ってお芝居したんです。
でも身を潜めていて情勢がわからない内に、レヴィアスはこちらに…。」
「すべては俺の早とちりか…すまなかったな…取り返しのつかないこともしてしまったし。」
「レヴィアス…いいのよ。」
へ?
「それより、戻って早く現皇帝を叩いちゃいましょう♪」
げっ?
「私、この旅で強くなったの♪あなたを皇帝にしてあげるわ♪さあ!」
エリスに手を取られ俺は元の宇宙へ戻る扉をくぐった。
だが、俺は皇帝にはならずエリスが初代女王となった。
俺は何故か闇のサクリアが強くなり初代闇の守護聖になった。
エリスはアンジェリークの宇宙をマネて他のサクリアの強い者も集めて聖地をつくった。
はぁ
(ため息)…女王の始まりなんて、こんなものかもしれない…。
今では、エリスが平謝りし俺がリュミエール様に泣きついたかいあって、
あちらとも友好関係にあり俺はメイド服から逃れられて十分幸せだった。
俺はレヴィアス。闇の守護聖。
もとはアリオス…流浪の剣士。
俺は今アリオスではなくレヴィアスとして生きている。
エリス女王陛下、万歳。
おわり
(^_^;)
アリオスのキャラクター壊れまくりですいません<(。。;)>
**** 水鳴琴の庭 銀の弦 ****