PSY(サイ)

ほのかに格闘ゲーム「サイキックフォース」と重なっておりますが

知らなくてもわかるようになっております<(__)>

                  水色真珠

 

アキラはヒカルとともに隠れ家に帰ってきた。

地下深く隠されている宇宙船のような場所は電気空調のみならず

ありとあらゆる設備が整い各自の部屋もある快適で安全な空間だ。

アキラはヒカルと別れて自室に戻ろうとして

ヒカルの様子がおかしい事に気がついた。

”どうしたんだい?部屋に戻らないのかい?”

ヒカルは答えない、ただひどく不安定な瞳であたりを見回している。

”部屋は佐為さんと一緒なんだろう?”

ピクリとヒカルの肩先が震えた。

”佐為…いない…”

ヒカルの言葉にアキラは愕然とした。

アンプリファイアーであるヒカルがいないという以上、

佐為はここにいないのだ。体力を消耗しきって意識がないのに、

ましてヒカルに何も伝えずにどこかへ行くことは考えられない。

”ともかく佐為さんの部屋へ行ってみよう!”

呆然として足元の怪しいヒカルの腕をひいて走り出すしか

アキラに出来ることはなかった。

佐為の部屋に主の姿はなく、ベットに寝た跡はあるものの

温もりが消えて時間がたっているのか冷たかった。

”佐為…遠い…今までは、ここにいるから遠いんだと思っていたけど違う…

もっと遠い…”

ヒカルはひどく衝撃を受け唇まで青ざめていた。

その動揺は隠れ家を揺さぶる。精神的な動揺の波動に慌てて皆が集まってくる。

”ヒカル!ヒカル!力を押さえるんだ!このままじゃ大変なことになる!”

アキラの必死の叫びも届かないのかヒカルの瞳は何も映さない。

パン!ヒカルの頬で高い音が鳴った。

アキラに頬を打たれてヒカルの瞳にゆっくり光が戻りだす。

”あ…おれ?なんで…?”

痛む頬を押さえるヒカルの前でアキラはがっくりと膝をついた。

”君の気持ちはわかるが、皆を危険にさらすな!

ここには人類から攻撃されれば自らの身を守ることさえ出来ない

PSYだっているんだ!”

父の気持ちが痛いほどわかってアキラは心の中で涙した。

”ご…ごめん…でも遠いのが痛いんだ…ひどく…体が千切れそうに…”

それはヒカルの青い顔や荒い息遣いで心を読まずにもわかる。

”だれか?佐為のことを知らないか?”

アキラの問いかけに答えたのは楊海だった。

”永夏が自室に運んでくれたはずなんだがなぁ”

アキラとヒカルの頭に同時に同じ言葉が浮かんだ。

”お子様だな…。なぜ、ここに永夏がいないと思う?”

そう緒方は言っていた。

”なんでアイツに任せたんだ!”

ヒカルにくってかかられて楊海は驚いて目を見開く。

”別に仲間なんだし良いだろう?どうかしたのか?”

”緒方さん達は袂を分かった。人類と全面戦争をするつもりだ。”

アキラが首をふりながら伝えると皆がざわざわと揺れた。

”こちらに佐為がいれば行動しにくいから連れて行ったのか…”

”それくらいわからなかったのかよ!あんた永夏と仲良いんだろう?!”

剣呑な瞳で、ますます詰め寄るヒカルに楊海は後ずさりする。

”でも秀英達の方が仲が良いぜ。同じ研究所から逃げてきてるし…

そういえば秀英達もいないなぁ。”

楊海の胸倉を掴もうとするヒカルの手を伊角がとめた。

”もっと彼らの行動に注意するべきでしたね。だが今更言っても遅い。

仲間割れするより、しなければならないことがあるんじゃないのか?”

”そ〜そ〜伊角さんの言う通り!さっさっと取り戻してくりゃいいんだよ”

”そ〜そ〜伊角クンの言う通り!”

”マネすんなよ、楽平!!”

”和谷こそマネすんな!”

時ならぬ、小競り合いに場が和む。

”何?お前ら兄弟?そっくしじゃん!”

ヒカルも思わず吹き出さずにいられない。

””バカ言え!こんなヤツ他人だっ!!””

言う事まで、そっくりハモる他人も稀有であろう。

少し気がそれた瞬間がヒカルに思考を取り戻させた。

”そうだ。取り戻してくりゃいいんだよな。”

 

だが、安らぎは束の間だった。

顔を上げたヒカルの目の前の空間が歪んだ。

暗い映像が映る。

ほの暗い巨大な石柱の立つ空間、その目視することもかなわぬ

遥か高い場所から一筋の光が差していた。

その切り裂くような光柱の外側で闇に身を置き

永夏が赤いバラの花びらを引き千切りながら撒いている。

幾千の花が撒かれたのだろうか床は不吉な色に染まっていた。

千切り終わった花茎を子供が壊れたおもちゃを捨てるように投げ出すと

永夏は、こちらに。ヒカルに向かって笑ってみせた。

”探し物は見つかったか?”

映像に向かっていきそうになるヒカルをアキラは慌ててつかまえた。

”よせ!ただの映像に向かっていっても無駄だ!”

それでも振りほどこうともがきながらヒカルは永夏を睨みつけた。

”返せ!佐為をどこにやった!”

ヒカルの刃のような視線に永夏は同じ光を返した。

”お前じゃなくてオレだったら良かったのに…

オレが佐為のアンプリファイアーなら望む力を手に入れられたのに!”

永夏のあまりにも意外な言葉に全員が声を無くした。

”教えてやるよ、オレは元々はPSYじゃない。

オレには、どうしてもPSY能力が必要だった。だから

あの研究所で薬を使って能力開発してもらったサイキッカーなのさ。”

永夏が空間に手を差し出すと、ふわりと空間に佐為の体が現れた。

血の海のような禍々しい色に染まった床に佐為は黒髪を広げて横たわる。

目を閉じた透けるような色の肌に生きている証も定かにはわからない。

永夏は佐為の長い髪を一房掴むと、もてあそびながら口付けた。

そして、その髪を佐為の白い首筋に捲きつけ締め上げる。

それを見たヒカルを止めることは、もう誰にも出来なかった。

ヒカルは何も教えられずに永夏の居場所を探り当て跳んだ。

覚悟を決めてアキラ・伊角・和谷・楊海も永夏の居場所に跳んだ。

そこは、かつて地下の石切り場だった空間だった。

バラの花びらも、もちろん佐為の姿もない。

全ては永夏の作り出した挑発だったのだ。

ヒカルは慌てたが、アキラ達には全てわかっていた。

アキラはヒカルが最初の攻撃をくらう前にバリアをはっていた。

”罠だとわかっていながらついてくるなんて随分酔狂だな。”

バリアを広げ永夏を攻撃しようとする伊角たちを守りながら

アキラは永夏に怒りの目を向ける。

”彼には助けられた。見殺しには出来ない!”

永夏が薄く笑った。

”助けたのは佐為だろう”

伊角の力が永夏を絡めとろうとする。

”ならばよけいにアンプリファイアーである彼を助けるのは当然だ!”

永夏は軽く3人分の攻撃を避けるとヒカルに詰めより

佐為がいないことに呆然として動けない、その首に手をかけた。

”お前に死んでもらって、オレが佐為のアンプリファイアーになる。”

皆が驚きに目を見開いた。

”何言っているんだ!アンプリファイアーはヒカルだ。

ヒカルが死んでも他の誰かがアンプリファイアーになることなんてありえない!!

それよりトランスミッターとアンプリファイアーは一対だ。

ヒカルが死ねば佐為も死ぬぞ!”

永夏の手がヒカルの首に捲きついた。

”佐為には、かつてもアンプリファイアーだったヤツがいる。

アンプリファイアーを失っても佐為は死なない…。

それにオレは、もっと上手い方法で殺すのさ。”

 

ヒカルと永夏の体がもつれ合って倒れこんだ。

慌てて和谷がヒカルを起こそうとする手を伊角が止めた。

”和谷、待て!ヘンだ!”

確かに倒れこんだだけなのに二人ともピクリとも動かない。

アキラが手をかざして探りをいれる。

”ヒカルの精神が永夏に取り込まれている…。引き剥がせば二人とも壊れる。

外部から入れない。とてつもない壁が阻んでいる。”

楊海の喉がゴクリと鳴った。

”これが永夏のサイキック能力なんだ…。

あいつは他人の精神を取り込み自分のフィールドに封じ込め心を殺す。

そして心を取り込まれた人間は永夏の傀儡になる。”

”ヒカルが自身の力で勝つしかないのか…”

みな愕然とした表情でヒカルを見下ろす。

だが激しいもどかしさにかられながら誰も手を出すことは出来なかった。

 

ヒカルの回りには何もなかった。

目をこらしても闇が上下左右もなく取り巻いていた。

足元に床はなく手を伸ばしても壁も天井もない、

確かな感触のあるものは皆無な空間で混乱したヒカルは闇雲にもがいていた。

闇のどこかからクスリと忍び笑いが響いた。

「永夏!どこだ?!佐為を返せ!!」

「その無様な状態で、そんなこと言うか。」

笑い声のエコーの追うようにヒカルは意志の力を叩き込んだ。

「無駄だね。お前には何も見えない。出来ない。

さぁ…諦めて溶けてしまうんだ。」

静かに目を閉じ大人しくなったヒカルに永夏は笑いながら近づいた。

「ようやくわかったか。勝てないって。」

カッと目を見開いたヒカルのキリリと引き絞られた矢のような力が

永夏を的確に打った。

「バカな…。」

永夏は今まで自分のフィールドで攻撃されても、それを受けたことは無かった。

動揺して力任せにヒカルを締め上げた。

ヒカルも永夏を激しく打つ。

だが、ここは永夏のフィールドだ。ジリジリとヒカルは締め上げられ

永夏を打つ力が削がれていく。

お互いの精神を薄紙を剥ぐように削りあう戦いが続くうち

状況の有利不利が二人の決着をつけようとしていた。

力を使い果たし朦朧とした意識を、かろうじて保持しているヒカル、

ダメージは受けても地の利が味方する永夏。

やがて蔑んだ波動が反響してヒカルは暗闇の波間の木の葉のように翻弄される。

冷たい水が体温を奪うようにヒカルから何かが抜けていく。

闇に溶かされる。

そんな恐怖が背筋を這い上がり、ジタバタと手を動かそうとするが

その手さえあるのかさえ見えない、感覚が無い。

「アンプリファイアーだけなら、こんなにもあっけないんだな。」

あれだけ永夏にダメージを与えたヒカルに対して不当な言葉であったが抗議も出来ず

ヒカルは意識を失い自我さえ溶けてなくなろうとしていた。

 

ヒカルの意識体を保持する皮膚のようなものが溶けると

勝利に酔いしれようとしていた永夏の精神を爆発するような光が打ち据えた。

たまらず絶叫する永夏の精神を情け容赦なく光は軽々と焼き尽くす。

まるで太陽の前の彗星のように溶かされ砕けながら震える永夏が

指の間から覗き見るとヒカルの後にヒカルを包み込むように佐為が立っていた。

佐為の中でヒカルは意識を保ち崩壊しなかった。

ヒカルは絶対の危機に無意識に呼び出した佐為の中で

その力に直に触れ歓喜していた、

なぜなら、それはかぎりなく美しく純粋だったから。

だが永夏は震え上がった。佐為の目は開いていたが意識はないのだろう。

永夏の存在など気づいてはいない。

よって、その強大な力は制御されることなくあった。

それはアンプリファイアーであるヒカル以外には耐えられない強大さで、

他の者は存在を知らせることすら出来ず強大であるが故の残酷さの前に、

その何気ない吐息のひと吹きにさえプロミネンスに投げ込まれたアリより

儚く消え去ることになるだろうから。

凍りつくような戦慄と共に永夏は消滅を覚悟した。

 

だが、その時はやってこなかった。

永夏が顔を上げるとヒカルが睨みつけていた。

「オレは殺し合いなんてやらない!さぁ、ここから出せよ!

それで佐為を返せ!」

相変わらずボンヤリとした眼差しで意識の無い佐為はヒカルが押さえ込んでいるらしい、

その力は柔らかく温かな春の日差しのようなっていた。

永夏が疲れ果てて崩れるように座り込むと

あたりは、まるで現実世界の牧歌的な野原のように変わった。

永夏はヒカルがキョロキョロと見回すのを手を差し招いて呼ぶ。

ヒカルが歩くと空中を漂うように後を佐為がふわりと付いてくる。

「早く出せってば!」

焦れたヒカルの頭をぽんぽんと叩いて永夏は宥める。

「佐為のこと、知りたくないか?」

驚いた顔のヒカルに満足げに永夏は笑った。

「なぁ、佐為には、お前の前にもアンプリファイアーがいたんだぜ。」

 

期待はずれの言葉に憮然とした表情でヒカルは答えた。

「それは、さっきも聞いたぜ。だから?」

首を締められたときの感覚を思い出して顔をしかめるヒカルに

永夏は軽く笑った。

「気にならないのか?本当なら片方が死ねば、もう片方も死ぬ定めだ。」

ヒカルは腹をかかえて笑った。

「オレが死んで佐為も死ぬなんていうより生きてたほうがいいじゃん。」

「それは生き残ったものの苦しみを考えていない。お前は、それでいいのか?」

苦い顔で言う永夏にヒカルは思い当たるものがあって声をあげた。

「いいわけない!あ…もしかして

前のアンプリファイアーが佐為の記憶を消した…違うか?」

永夏がゆるりとヒカルを仰ぎ見て目を細めた。

「まんざらバカじゃないんだな、お前。」

「どういう意味だよっ!」

顔を赤くして怒鳴るヒカルを永夏は笑った。

「佐為に記憶がないのは、そのせいだ。そして無い記憶には大きな意味がある。」

永夏は立ち上がると意識のない佐為の回りを確かめるようにゆっくりと歩きだした。

「研究所では遥か昔のPSY達を調べていた。

すると不思議なことに、どんなに時代を遡っても佐為が存在する、

常にサイキッカー達を守り束ねながら。

その恐るべき力を手に入れようと幾多の権力者や学者達が

苦労してきたが正体さえ知れなかった。」

永夏が佐為の髪に手を伸ばすとバチッと指先が弾かれた。

クスッと永夏が笑って睨みつけるヒカルを制する。

「わかった、わかった、悪かった。」

先ほどの挑発を根に持っているヒカルにからかいの色を含んだ謝罪をする永夏だが

「佐為にさわんな!つーか、返せって言ってんだよ!」

どうも逆鱗に触れてしまったようで、

またヒカルの苛立ちのボルテージがあがっている。

「以前のアンプリファイアーは虎次郎と言ったらしい。

疫病が流行ったとき人々の手当てをしているうちに感染して死んだ。

140年以上前のことだ。」

ヒカルは佐為を見つめた。

「じゃあ、少なくとも140歳以上なんだ…。」

永夏は首をふった。

「佐為の記録は1000年分近くある。しかも、それ以前はわからないだけだ。」

開いた口がふさがらないというのは、こういうことかとヒカルは思った。

「1000年前って何時代だよ!人間がいたのか?」

今度は永夏の方が唖然とした。心の中で思わず呟く。

(前言撤回…やっぱりバカだ…。)

「人間はいたさ。平安時代だよ。

だが、オレが言いたいのは佐為の記憶のことだ。

佐為には何か人類に関わる使命があったはずなんだ。

でなければ一人の人間が強力なサイキッカーであるにしても、

これほど長く存在し続けるのは不自然だ。」

永夏はヒカルの耳に囁きかけた。

「アンプリファイアーであるお前なら佐為の記憶を覗けるはずだ。」

驚くとともに無理だと言い返そうとしたヒカルにたたみかける。

「オレが後押ししてやるよ。」

永夏の軽い暗示にヒカルの感情が操られる。

つい気を抜いていたが、ここは永夏のフィールドなのだ。

トンと押されて向き合うと感情のない目で見下ろす佐為に

ヒカルは手を伸ばした。

 

二人の間に輝く鏡のようなものがあらわれる。

「記憶を見せ…」

ヒカルが言う前に鏡から突き出てきた手がヒカルの手首を掴んだ。

永夏が慌てて邪魔者を遮ろうとするが手の主は

すでに鏡から出てきていた。

「誰?」唖然として問うヒカルに緒方くらいの歳であろうか

清々しい目をした男は優しい眼差しで笑った。

「佐為を…守れるのは君だけなんだ。佐為をたのむ。」

強大な力を持つ佐為を守る…まるで見当外れなことを言われてヒカルは面食らった。

「無理だよ、オレ。ぜんぜん弱いし。

佐為の力に頼っているアンプリファイアーなんだから。」

男は首をふった。

「出来るよ、君なら。私は、それに気がつけなかった。

いや気が付かないふりをしていた。気が付きたくなかったのかもしれない。

一緒にいて…楽しくて…。」

「お前…虎次郎?」

ヒカルの問いに男は悲しげに微笑むと消えた。

永夏は振り返ったヒカルの感情に弾かれて吹き飛んだ。

「お前をぶっ壊して出てやる。」

虎次郎は死んだはず、今のは彼の残留思念だ。

佐為の中で佐為の記憶を内包し守っている。

だから、その記憶は佐為にはない。

ヒカルにさえ見えなかったのは、そのせいだ。

虎次郎が守っている記憶は佐為にとって良くないことなのだ。

残留思念である虎次郎は、そこに残された使命である佐為を守る

そのために出てきた。

ヒカルには直感的にわかった。

永夏は隠された記憶から佐為を手に入れるため心を崩そうとして自分をつかった。

それが佐為を傷つけるところであったことにヒカルは怒っていた。

ヒカルの瞳が金色に輝き永夏の回りの爽やかな青空や緑の野原に

次々と漆黒の穴が開く。

「ぶっ壊す!」ヒカルの言葉は力になる。

慌てた永夏がシールドを張ろうとするが爆風にあおられ叩き付けられた。

とどめをさすように見下ろすヒカルが背後の佐為の力を解放しはじめる。

徐々に膨れ上がる力に永夏の背筋が凍りつく。虚勢を張る余裕などない。

「待て!待ってくれ!」

第三者の声に振り向くと秀英と日煥が立っていた。

「秀英!日煥!帰れ!こいつ切れてる!」

「わかってるよ!永夏のフィールドに穴が開くなんて普通じゃない!

だから…来れた…来たんだ…!。」

そのやりとりを酷薄な金色に染まった瞳が無表情に見ていた。

永夏に詰め寄るヒカルに秀英と日煥がとりすがる。

「待ってくれ!話を聞いてくれ!佐為は返すから!!」

ヒカルの視線に二人は腹に銃弾でも受けたように血を吐き吹き飛んだ。

「こいつをぶっ壊して自分で探す!」

それでも秀英は諦めようとしなかった。

這うようにヒカルににじり寄ると足を掴んだ。

「頼む…聞いてくれ!!こんなことをしたのには理由があるんだ!」

ヒカルは止まらなかった、が意識のないはずの佐為がフワリとした袖でヒカルを包んだ。

佐為の優しい香りと温かさに包まれてヒカルは我に返った。

そして永夏を破壊しようとしていた力はヒカルの怒りとともに押さえ込まれた。

ヒカルの変化に気づいた秀英が急いで永夏との間に割って入いる。

「僕達は親がいない。でも誰も助けてくれなかった。

それどころか金儲けのために犯罪行為まで強要され

警察や一般住民も、そのことは知っているくせに表沙汰になれば

僕らだけが悪者として切り捨てられる。

力が欲しかったんだ!虐げられずにすむ力が、あいつらを見返せる力が、

でも人間としての力では到底足りなくて…それでPSY能力が欲しかったんだ!」

永夏がよろめきながら立ち上がった。

「安太善先生は自分の身を使ってPSY能力開発の研究をしていた。

オレ達はわけを話してPSY能力の開発を頼んだ。先生は同情して力を尽くしてくれた。

だが…自身もPSYでありPSYを助けようとする先生は研究所の所長を解任された。

それからは、またサイキッカーになる前と同じ虐げられた日々が始まった。

もっと力が…どんな人類を相手にしても負けない力が欲しかったんだ。」

話す間も永夏の瞳が強い憧れを持ってヒカルの背後にそそがれる。

その肩を秀英が掴んだ。

「きっと佐為を力としか見ない者には、その資格がないんだ。」

 

その時、外から安太善の声が響いた。

”佐為を連れてきた。頼む出てきてくれ!”

 

続く