PSY(サイ)

ほのかに格闘ゲーム「サイキックフォース」と重なっておりますが

知らなくてもわかるようになっております<(__)>

                  水色真珠

 

サイキッカー討伐部隊の本部は強力なPSYの侵入に

警報が鳴り響いていた。

だが、各地で同時蜂起したサイキッカーの対処にガラ空き状態の

本部に緒方やアキラを止める力などなかった。

緒方はアキラに本部のPCから人事ファイルを引き出してみせた。

そこには、公の人体実験場であるサイキックフォース研究所長官という

おぞましい肩書きと共に塔矢行洋の名前があり、

その人事が本人の志願であったことが記されていた。

アキラは悪い夢でも見ているようにだった。だが、緒方の声が過酷な現実を告げる。

”これが事実だ、曲げようもないね…。”

かつて、塔矢行洋の片腕として手腕を振るってきたはずの緒方の声は

凍てついた心そのままで示された事実と共にアキラを凍りつかせた。

幼い頃からサイキッカーであっても父は人と分け隔てなく接し可愛がってくれた。

強く優しく公正な父を深く尊敬してきた、ずっと…ずっと…。

だが想い出はセピア色のガラスの薄片のように砕けて闇に消えていく。

あたたかな思い出すべてが過去だと緒方の色素の薄い瞳の色が語っていた、

信じられるものなどない、何も信じるなと…。

アキラは胸に広がる恐れと絶望に押しつぶされそうになりながら父を探した。

「おとうさん!」

長官室の部屋には父と母がいた。

「おとうさんは、PSYと人類を共存させるっていっていたではありませんか?!」

父は何も話そうとしない。

「わかって!アキラさん。こうするより他なかったの!」

母が恐れを含んだ目でアキラを見ていた。

アキラの中で何かが壊れた。

激しい絶望が能力以上の力を引き出し、それはもう止めようがない。

だが意識を手放す直前に見えた映像にアキラは自分の間違いを知った。

緒方たちによる無意味な破壊活動と挑発にPSYへの危機感を強める人類。

小さな子供や赤ん坊さえいる能力が低いゆえに

収容されているPSY達の命さえ危うい状況に父の下した決断は

PSY討伐派を装い実験材料という名目で収容されているPSY達の命を守ることだった。

”私は、お前の信頼より彼らの命をとってしまった、言い分けは出来ん。”

いつも父の言う事は思うことと同じだ。

そう確信していたからアキラは父の思念を読んでみようとさえ思わなかった。

もちろん、それが裏目に出ることなど想像だにしなかった。

”違う…上辺だけ見て本心を推し量れずに信じきれなかったボクが浅はかなんだ。”

アキラを中心に暴走した力は傲慢な人類に下された

全てを破壊し尽くす裁きの火のようだった。

力の波動が津波のように町を襲い全てを捻り潰し

超高温の熱波が溶かし尽くしていく。

その後には何かの残骸らしい溶けたオブジェの転がる瓦礫の平原。

見渡す限り音のない死の地平。

アキラは呆然として、ただ立ち尽くしていた。

自分のしてしまったことは、あまりに大きく重かった。

体が震えるばかりで涙さえ出てこなかった。

いったい何万人を殺してしまったのか…そう思うと

心が死んでしまいそうだった。

”来い、アキラくん。これからが本番だ。”

何時の間にか緒方が手を差し伸べていた。

だが、先ほどの映像がよみがえる。

”いやだ!ボクはあなたとなんて手は組みません!”

”なにを躊躇うんだ。見ろ!この惨状を!

もはや人類とサイキッカーは雌雄を決するまで戦うしかないんだ!”

死の地平…それは緒方たちの意味のない破壊活動より

はるかに人類を恐怖に陥れたことは間違えない。

もはや人類はPSY絶滅に躊躇すまい。

ならばPSYとて闘うしかあるまい。

緒方の言うように雌雄を決するまで。

 

アキラには緒方に陥れられたにもかかわらず

緒方を憎むことは出来なかった。

”憎んでいるんですね…人類を。”

アキラがポツリというと緒方は苦い顔でタバコをふかした。

”オレは…必ずこの理不尽な世界を変えてやる…。”

 

佐為を中心にした圧倒的な力の金色の輝きが薄れていくと

ヒカルは結ばれた心で佐為が、その瞬間したことを感じ取った。

佐為は、地球の半分を消滅させるところだった

アキラの暴走した力の発動を最小限の範囲に押しとどめ

危険エリアから人はいうまでもなく犬猫、小さな虫の命さえ守ろうと

全ての生命体を安全な場所へ移動させ

かつ自身の力に焼かれようとしていたアキラを守ったのだ。

ヒカルの目の前で、ゆっくり佐為の瞳が光を失い

体がゆれ力なく床に伏していく。

慌てて支えるヒカルに弱々しい声がとどいた。

”行って下さい、ヒカル。アキラを連れ帰って…。”

いつもの輝きをなくした乱れた黒髪の下の蒼白な肌、

幽かな溜め息のような思念に佐為が体力を

使い果たしているのを感じてヒカルは逡巡した。

”はやく…もし討伐隊や緒方さん達の手に落ちたら、

心が傷つき弱っている彼は…”

これ以上、迷っている時間はなかった。

 

ヒカルは破壊の中心地へ跳んだ。

とたんに佐為と離れることの意味を思い知った。

離れれば離れた距離に比例してトランスミッターである佐為から

アンプリファイアーであるヒカルが引き出せる力が減っていく。

これで、どれほどの力がふるえるか疑問だったが

とにかくアキラを探すことを先決にして走った。

しばらく走り回りヒカルはアキラの居場所を見つけ出した。

アキラは緒方といた。

”我々と共に来い!君の絶望は世界を変える力になる。

親である塔矢長官を殺し、これだけの破壊を行った君に

戻る場所などない。我らと真の平等な世界を作るんだ!”

アキラに先ほどの衝撃が蘇る。

”ボクが…壊した…おとうさん…おかあさん…”

ヒカルは震えの止まらないアキラの肩を掴んだ。

”安心しろ!佐為が安全な場所に移動させたよ。”

”何?!全ての生命体を移動させたと言うのか?”

あまりの強大な力に思わず緒方も絶句する。

ヒカルは得意げに答えた。

”思惑が外れたな!”

だが緒方はうっすらと笑った。

”お子様だな…。なぜ、ここに永夏がいないと思う?”

次の瞬間、緒方はヒカルとアキラの前から消えうせていた。

 

思わずヒカルは足元の石を蹴り飛ばした。

”なんだっていうんだ!チクショー!子ども扱いしやがって!

オレがお子様なら、わざわざ戦いたがるお前は何様なんだってんだ?!”

”緒方さんが戦いたがるのは絶望してるからだよ。”

思わぬアキラの答えにヒカルは目を見開いた。

”あいつのこと知ってるのか?”

アキラはコクンと頷いた。

”緒方さんはボクが生まれる前から、お父さんの片腕として働いていた人だよ。”

ヒカルは仰天した。

”討伐派に寝返ったってことは、元は反討伐派だろう?

お前の親父さんって息子がPSYだから反討伐派だったんじゃないのか?!”

アキラは曖昧に笑ってみせた。

”お父さんは自分の正しいと思う道を真っ直ぐ行く人だよ。そして

今もPSYの味方だ。しかたなかったんだ…弱いPSYを守るために。”

アキラから事の顛末が伝えられてヒカルはますますわからなくなった。

”じゃあ、塔矢長官は心底PSYのことを考えてくれている

いい人なんじゃん。なんでアイツは尊敬していた塔矢長官や

可愛がっていたお前を陥れてまで戦いたがるんだ?

塔矢長官は変わらずに反討伐派として力を尽くしていたんだろう…

何に絶望したって言うんだ?”

アキラの顔に苦い悲しみの色が浮かぶ。

”父さんが、いくら力を尽くしても、真剣にPSYのことを

考えるのは父さんだけで超能力省の幹部達はみんな

過激派の座間長官に荷担していく。

手下の兵器開発局の御器曽のバラまく金目当てでね…。

父さんの語る理想や誠実より金がものをいう実体は

ボクだって悲しかった…。”

目を閉じたアキラの頬を風が撫でていった。

耳が痛くなるような静寂は人類と相容れないPSYの声なき嘆きのようだった。

”それでも緒方さんも歯を食いしばって父さんと頑張っていた。

でも…。”

雪崩のようにヒカルの中にイメージが入り込んできた。

不眠不休で人々にPSYとの融和を説いて回りつつ

差別を受けているPSYがいれば飛んでいって保護する塔矢長官。

だが孤立無援の状態で手が回りきるはずはなかった。

それでも小さな努力の積み重ねが、いつか扉を開くと信じる塔矢長官。

しかし側にいるだけに、そして怜悧な英知を持つだけに

冷静に可能性を0と読み切れてしまう緒方。

折も折、緒方のただ一人の肉親である妹がPSYの疑いをかけられ

サイキッカー研究所へ送られてしまった。

そのころの研究所は、まだ塔矢長官の威光が効き人体実験など

行われていなかったので緒方自身も慌てることはなかった。

だが、新しい研究所の所長は狂っていた。

緒方の妹は酷い人体実験のため脳に障害をおった。

そして今も目を覚ますことなく眠りつづけている。

命を繋げるためには莫大なお金が、目覚めさせるには大きな施設が必要だ。

それこそ緒方自身が世界を牛耳ることにでもならなければ

かなわないだろう…。

ヒカルにもアキラが緒方を憎むことができない理由がわかった。

”永夏も似たようなモンなのか?”

”さぁ?彼のことはボクもわからないよ。わかっているのは佐為さんが

研究所から助け出してきたってことだけで。”

ヒカルは首をかしげた。

”じゃあ、佐為は命の恩人じゃん。そんな風に見えなかったけどな?”

緩く微笑んでアキラは首をふった。

”表向きはわからないけど仲のいい楊海さんが、永夏は佐為さんに

強いこだわりを持っているって言っていたよ。”

”敵意じゃなくてか?”

思い出して顔をしかめヒカルが言うとアキラは少し複雑な微笑を浮かべた。

”憧れ…らしいよ?”

あまりの意外な言葉にヒカルの喉から奇声がもれる。

「ひぇ〜、ホントかよ〜?絶対んな風には見えねぇよ〜。」

はっきりいって頭を抱えてしまう。

”そうとう、ひねくれてんな〜あいつ。”

アキラも困ったよう溜め息をつきつつ頷く。

”そう…だね。”

 

続く