PSY(サイ)

ほのかに格闘ゲーム「サイキックフォース」と重なっておりますが

知らなくてもわかるようになっております<(__)>

                  水色真珠

 

PHY(サイ)とは精神や心を表す言葉である…

それを行使して多種多様な人ならぬ行為が可能な者達を

人類は自分達と区別しPSY、あるいはサイキッカーと言った。

 

人の心を容易く読み、あらゆるもの軽々と手も使わずに動かす、

瞬時にどこへでも移動できる。

それは普通の人間には大いなる脅威であった。

ゆえに人類にとってサイキッカーは相容れないものとして

討伐政策が打ち出さた。数多くあった衝突も

サイキッカーの数が減るにしたがってなくなり

世界に平和が戻ったかに思えた。

が、しかし…サイキッカーが数だけを頼りに

横暴な政策を行使する人類に知られぬように

その力を隠しているだけなのを人類は心の底で

感じ取り密かに怯えていた。

 

進藤ヒカルが彼と出会ったのは偶然であったのか

それとも運命であったのか…。

祖父の家に遊びに来ていたヒカルは

祖父の碁が打ちたいという要求に蔵に碁盤を取りに行った。

そして…祖父の蔵で碁盤の側にいる見慣れぬ人影に

思わず息を呑むこととなった。

長く艶やかな黒髪、ほのかな輝きを帯びた白い肌

端麗というには美しすぎる面。白い薄絹を被り

白い衣をまとい、何かを嘆くように瞳を伏せ端座していた。

「誰だ?」本能的な恐れに声のでないヒカルの心の問いかけに

伏せられた瞳の長い睫が震えると、ゆっくりと目蓋が持ち上がり

切れ長の強い光を宿した黒曜石のような瞳が

ヒカルを射た。

”見つけた…私の…アンプリファイアー”  

相手は体重などないかのようにフワリと立ち上がると

ヒカルの側に滑るように近づいてきた。

「こんなところで出会えるなんて…」

ほっそりとした指先がヒカルに伸ばされた時

外が突然さわがしくなった。

「いけない…跳びますよ、ヒカル」

教えたわけでもない名前を呼ばれて驚いたが

次には、それ以上の驚愕がやってきた。

突然、気温が下がり不思議な輝きの光る粒子に

巻き込まれたと思ったら、町を見下ろす丘の上に立っていた。

そして、町中に火柱が上がった。

そこは今まで自分がいた祖父の家だった。

「うわ〜、じぃちゃん!」

慌てて駆け出そうとするヒカルは後から柔らかい手で抱き押さえられた。

「どこへ行くんです?」

「じぃちゃんとこだよ!じぃちゃんが…じぃちゃんが…。」

真っ白な手がヒカルの手を掴んで前に差し出させた。

「行かなくても見えますよ。見たいと願って御覧なさい。」

見たい!ヒカルの想いが実体化したように

手を差し伸ばした空間に鏡のようなものが現れ

進藤平八の家を映し出した。

燃え上がる蔵、半狂乱の祖父が男達にくってかかっている。

男達は日本政府の公僕、サイキッカー討伐部隊だった。

「お気の毒ですが、お孫さんは間違えなくPSYでした。

この蔵にいたのは特大の力を持つPSY二人であったことは

計器が確かに指し示しています。」

それでも、平八は男の胸倉を掴んで離さない。

「これ以上の行為は貴方が知っての上で匿っていたと

罪に問われます。おやめなさい。我々だって無辜の市民を

罪人にしたいわけじゃない。我々は普通に暮らしたいだけなんです。

お孫さんがいなければ人類は平穏に暮らしていけるんです。」

ヒカルはガックリと膝をついた。

「オレはサイキッカーじゃない…だってオレ何も出来ないし

ただの小学生なんだぜ!」

人類の平安のために、自分が存在してはいけない…

ヒカルの胸にあまりにも辛く悲しい宣告だった。

「あなたは、サイキッカーですよ。」

ヒカルが睨むように振りかえると相手は悲しげに目を伏せていた。

「あなたは特殊なサイキッカー、アンプリファイアー。

波長の合うサイキッカーの力を爆発的に増幅し

自分も相手の力を引き出し使うことが出来る。

対になる相手に出会えなければ気づかずに一生を終えてしまうけど…

あなたは、私と出会ってしまった…。」

ヒカルの頭に血が上った。

「じゃあ、お前さえいなけりゃ、オレは普通に…

普通に暮らしていられたんだな!お前さえいなきゃ!」

言ってしまってヒカル自身が自分の胸の痛みに気がついた。

「お孫さんがいなければ人類は平穏に暮らしていけるんです。」

そう言った男の言葉に傷ついたくせに同じことを言っている。

「ごめん…。」

「なぜ、謝るのですか?それは事実です。私という存在が

この世になければ、あなたは普通の人間として暮らしていたでしょう。」

だが、すでに存在するのだ。

その人間の存在を自分の都合で否定することは出来ない。

ヒカルが想いを込めて見つめると相手の意識が流れ込んできた。

”私を受け入れてくれるのですか。

あなたは私に出会わなければ普通に暮らせたのに

会いたくて探していた私を。”

”なぜ?オレのこと知ってたのか?”

”どこかに存在すると感じていました…そして会いたかった。”

”大きな力が欲しかったのか?”

”いいえ…、アンプリファイアーは心を分かち合える友だからです。

普通に暮らしているなら、離れ会わないようにし

もし同じように隠れ住んでいるなら共に暮らしたいと思っていました。

こんなに唐突に突然出会い、あんな風に討伐部隊に察知されなければ、

その選択も可能だったのです。”

その答えにヒカルは今度は声を出して答えた。

「じゃあ、連れて行ってくれよ、佐為。」

柔らかな声が答えた。

「いいのですか?」

「わかってるだろう。帰っても家族に迷惑かけるだけだ。」

ふわりと佐為の被った柔らかな薄絹が頬をなで甘い香りが包む。

さっきとは違う感覚が、遠いところへ運ばれることを知らせた。

 

佐為から力を借りて感覚を広げると、ついた場所が

巨大な地下の空間であること

大人・子供・男女・あらゆる国籍の多くの仲間がいることは

すぐにわかった。

そして使ってみてわかった…

佐為の力は増幅されなくても誰より強大だった。

”まずヒカルは力を囲むことを覚えてくださいね。

ここを討伐隊にしられたくありませんから。”

”力を囲む?”

”彼らに感知されないように場を作って外に出さないことだよ”

振り返ると黒髪を肩口で切り揃えた同じ歳くらいの少年がいた。

”先ほどのように私が驚いて我を忘れていたりしないかぎり

私のシールドが破れることはないと思いますが

それも自由にできるのが、あなたの力ですからね。

気をつけるにこしたことはありません。”

”ぼく達は人類と戦いたいわけじゃないんだからね。

討伐部隊に悟られないように気をつけて欲しいな、ヒカル”

そう言うとアキラは佐為を見て顔を曇らせた。

”持ち出せなかったんですね。あの碁盤。”

”ヒカルの方が大事ですから。”

碁盤…。

蔵の中で佐為が座っていた横にあった碁盤。

オレがじぃちゃんに言われて取りに行った碁盤。

”あれが、どうかしたのか?”

アキラがヒカルの額に触れると映像が流れ込んできた。

神が人間に教えた占い道具としての囲碁

その碁盤の目に流れるPSYパワー、

それによって目覚めるPSY能力。

受け継がれる神から授けられた碁盤は大きな力を持つ

サイキッカーに使われることにより

人類の眠っている能力を呼び起こす力があったのだ。

本当は人は誰でも眠っている力を持っているのだ。

それが目覚めないがゆえに彼らはサイキッカーを

恐れ排除しようとする。

”ボクらは、みながサイキッカーとして目覚めれば

隠れ住む必要がなくなると思って探していたんだ。”

”でもそれは、やはり正しくありません。自分達の都合で

無理やり目覚めさせて人の運命を変えるなんて不遜です。

私はヒカルと出会って、そう思いました。”

佐為は、そう言って少し悲しげに瞳を伏せた。

長い睫が震えているのは堪えきれない想いのせいだろうか。

無理やりではなかったのに気にする佐為に、気にするなと

言ってやりたかったがヒカルも父母や友達の顔が思い出されて

やりきれない想いが溢れて声にならなかった。

”甘いな…”

冷めた感情が心を冷やす。

やや薄茶の髪、表情を隠す眼鏡、男のくわえタバコから紫煙が流れてきた。

”緒方さん…。”アキラが悲しげに目を伏せる。

”ともかく戦力が増えたことは収穫だ…よしとしよう。

最大の戦力である佐為を危険にさらしてまで討伐部隊を

誘導したかいはあったってことだ。”

皆の間に衝撃が走った。

”では、あんなに唐突に討伐部隊が来たのは…。”

佐為の声は震えていた。

”お前、何考えてんだ!”

ヒカルがカッとして緒方に詰め寄った瞬間、

緒方は吹き飛んで背後の壁に埋まった。

”ヒカル、気をつけてください!

あなたの使う力は、あなたが思うより大きいのです。

私が緒方さんと壁の間にクッションになる力を入れなかったら彼は…!”

緒方はヨロヨロと立ち上がるとヒカルを揶揄するように見下ろした。

”頼もしいな…その力。その怒り。”

緒方は薄く笑うと血のにじんだ唇をゆがめた。

その緒方の側につくように何人かの人影が現れた。

”なぜ劣った人類に遠慮して隠れ住まなければならない?!

我々が何をしたというんだ!”

長い睫の下の瞳は豹より危険な色をしていた。

”高永夏…あなたまで…?”

佐為は悲しげに目を伏せた。

 

”ならなぜ、碁盤を失わせるようなまねをしたんだ!”

先ほどのことを思い出して出来るだけ気持ちを押さえながらヒカルは叫んだ。

”あんな奴らにまで、この偉大な力を分けてやる気はないし

同じ力を持ったからといってしたことを悔いるとも思わない

悔いても許す気になれない。だからさ…。”

高永夏は何かを思い出すように目を伏せた。

”オレたちは持っている力を使いたいんだよ。”

”力をふるう場が欲しい。押し込められて生きるのはイヤだ。”

次々と声があがる。

”お前にも、そんな気持ちは少しはあるだろう?

おキレイなことをいっていないでオレに従え!

無能な者を有能な者が治める。それのどこがいけない?!

あのカスどもが出来なかった世界平和と平等を叶えてやると言っているんだ。”

タバコの吸殻を踏みにじる緒方の言葉に冷たい炎が燃えていた。

”緒方さん…。”

険悪な雰囲気を押しとめようと踏み出したアキラに

突然、緒方は向き直ると言った。

”知っているか?塔矢長官もサイキッカー討伐派に寝返ったぞ。”

アキラは衝撃に目を見開いた。

”おとうさんが?!ウソです!そんなこと!”

詰め寄るアキラに緒方は手を差し出した。

”俺たちは、これからサイキッカー討伐部隊と戦う。

来い、アキラくん!自分の目で確かめてみるんだな…。”

”アキラ、やめなさい。行けばあなたまで戦いに巻き込まれてしまう。”

慌てて止めようとする佐為を永夏がさえぎる。

”どいてください、永夏。アキラをとめなければ。”

だが永夏は不敵に笑っただけだった。

”あなたは所詮、他人を殺すことなど出来ない。

いかに強大な力を持っていようと恐れるに足らない!”

永夏と佐為が睨みあっている間にヒカルがアキラの腕を掴んだ。

”よせ!アキラ。お前、戦いたくないって言ったじゃないか!”

だがアキラの心は動かせなかった。

”ボクはボクの目で確かめたいんだ!”

アキラはヒカルの手を振り切ると緒方と共に消えた。

空になった手をヒカルは握り締めた。

”親か…。”

やはり胸が痛んだ。今頃、自分のせいで困っているだろう

悲しんでいるだろう、そう思うといたたまれない。

”じいちゃんも、ばあちゃんも、とうさんも、かあさんも、

もう…会えないかもな…。”

ふと、振り返って佐為を見ると、ヒカルの気持ちが

共鳴しているのか、ひどく揺らいだ悲しい目をしていた。

”佐為、お前は…”

聞きかけてヒカルは感じ取ったものに愕然とした。

佐為には何もなかった、生まれた場所も、幼い頃の記憶も

家族も友人も何もかもが白く塗りつぶされたように。

それは、まるで佐為という人間は今のままの状態で

無から生まれ存在したかのようだった。

力が強いほど古の仙人のように長命なのがサイキッカーだから

外見より遥かに長い時を生きてきたことはわかる。

が、人の営みに絡む何も見出せないというのは、どう考えたらよいのか。

”なんで…?”

障壁で隠しているわけではなく無いのだから

本人に聞いてもわかる訳がないのだが問わずにはいられなかった。

”さあ?”

案の定、なにが不思議なのかもよくわからぬ様子で首をかしげる。

ヒカルの胸を幽かだが確かな痛みが駆け抜けていった。

家族も生まれも何もかもない…背負うものがないから

自由であり永夏や緒方のように過去を憎むことも未来を愁うることもない

ただ今を見つめている。

それは気楽と称されれば、そうかもしれない。

だが、ヒカルは高い峰の上にひとり立ち

遮るものなく直に氷雪に打たれ烈風に舐られるような

痛いほどの孤独感と恐怖を感じた。

アンプリファイアーを求めた佐為の気持ちに心を重ね合わせると

ヒカルの痛みも佐為の孤独も和らいでいくようだった。

 

続く

この先ほんのりアキラ=エミリオ(でもヒカルとの関係はキースとバーン?)

緒方さん=ウォン、永夏=刹那…かな?

ヒカルのアンプリファイアー(amplifier)とは増幅器

対する佐為はトランスミッター(transmitter) 発信器です〜

これはサイキックフォースとは無関係のオリジナル設定です。