ゼフェルのスノーバイクが甲高い音を立て

氷光の塔の壁を滑るように登っていく。

塔の上は禍々しい雲に覆われ何も見えないが

胸が苦しくなるような瘴気があふれでていた。

 

「しっかりつかまってろよ!」

ゼフェルは壁を軽くけるとハンドルを持ち上げながら自分の体重で

重心を前に移し弧を描くようにして塔の上に飛びこんだ。

 

塔の上は熾烈な力のせめぎあいで

空間はねじれゆがみ

視界も、平衡感覚さえ保てない状態だった。

「チッ!ダメだ。オレのサクリアが弾かれてる。

前に進めないぜ。」

ゼフェルはバイクに掴まっているのがやっとだった。

「おめー、行くのか?」

頷くと、少し悔しそうに顔をゆがめながらゼフェルは親指をたてた、

GOOD LUCKと。

 

息を大きく吸い込むと瘴気の中に潜るように入りこんだ。

まず見えたのはクラヴィスだった。

いつもの物憂げで無表情な顔がかわっていた。

額には汗が浮かび厳しい瞳は何かを見据えている。

何かを堪えるように自分のサクリアを押さえ込んでいる。

 

胸がドキリと鳴った。

高いクラヴィスの背の向こうに

フワリと水色の髪が見えた。

でも名前を叫んでも耳に入らないのか答えがない。

ただ、そのサクリアはクラヴィスが押さえ込んでいるのと

反対に最大限まで引き出されているようで聖なる輝きをまとい

瘴気の中で、清浄な水の力がクラヴィスと何かを遮っていた。

 

もっとも濃く禍々しい気の塊の中で

何かが動いた。

黒い髪に金の瞳が輝く。

抜き身の剣を構え冷たく笑いながら歩いてくる。

レヴィアス…そう叫ぼうとした時

後から腕を掴まれ脇に押しやられた。

 

驚いて振返った先には

銀の髪に翠の瞳の男

…アリオス…

声も出せぬまま両者を見比べるしかなかった。

 

「もう…やめろ…」

アリオスが叫んだ。

レヴィアスはアリオスをみると、ゆっくりとしゃべりだした。

「お前は…アリオス。レヴィアス様ではない…。

お前に指図は受けない…。」

その言葉を聞くとアリオスはやりきれない表情で剣を抜くと

レヴィアスに打ちかかった。

剣の腕はおそらく互角なのだろう激しい鍔迫り合いが続く。

 

クラヴィスが息を吐くとふりかえった。

「あれはレヴィアスではない。

行き場をなくした、かつての腹心達の魂の負の力だけが凝ったものだ。

あれらが安らぎ再び生へ向かうようにしてやりたかった…。

だが、あれらは私のサクリアの死だけを引き出し

宇宙にばら撒こうとした。

あれらが最も受け入れ難い、優しさと癒しの力を持つ

リュミエールが駆けつけ障壁となってくれたので

思惑のままにはならなかったが…どうしたものか…。」

 

戦っている間レヴィアスはレヴィアス姿をしていながら

口からは色々な声がとびだす。

子供のような声、太い声、甲高い声

「レヴィアス様に忠誠を…レヴィアス様を皇帝に…

それが願い…それが望み…それが全て…」

アリオスが押されていく。

「た…頼む!こいつらを…こいつらを救ってくれ!

俺が誤らせてしまった道を…

あの宇宙が捻じ曲げてしまった魂を…。」

叫ぶアリオスにレヴィアスは無表情に腕をむけると

アリオスが失った魔道の力を放った。

アリオスが壁に叩きつけられ剣を落とすと

レヴィアスはリュミエールに自らの剣を大きく振り上げた。

 

何を考えるより先に走り出していた。

レヴィアスとリュミエールの間に…

リュミエールを守るように抱きついていた。

 

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