Wonder Sweet
by真珠ここは、スモルニィ学園の家庭科室。4人の女の子がお菓子を作っています。
彼女たちは今年のローズコンテスト出場者です。
コンテストはスィートランドの由緒ある行事で毎年開かれていますが
最高の栄誉である「スモルニィのバラ」の称号を授けられた者は
今までいません。
彼女達は、その称号を得るために日夜…
「きゃ〜♪出来た〜プレゼントして来ようっと♪」
称号を…
「まぁ…ぬけがけは許しませんことよ。私が先ですわ。」
「ざんねんでした〜プレゼント一番乗りは、ワタシだよ」
「あぁ…レイチェル待って…私も…」
あぁ…称号よりも欲しいものがあるようですね…?
女の子達がやってきたのはスィートナイツのいる
スィートマーケットです。
彼らはお菓子や飲み物に詳しいコンテストの協力者ですが
女の子達の目的はお店に品物を出すことではなく…プレゼントすることのようです。
綺麗な薄水色の小さなお店はにぎやかな女の子達の声で満たされます。
「プ…プレゼント持ってきました!」
「あ…あの…あの…うけっとってくださぃ…」
「けっこうイケてると思うよ…じゃなくて思います」
「私の自信作ですわ」
積み上げられた色とりどりのラッピングの山に他のお店から
冷やかしめいた口笛が投げかけられるが少し(?)浮世離れした
この店のスィートナイツには意味のわからないものだったようです。
いつもの穏やかで優しい笑み浮かべると4人を店に招き入れ
柔らかな動作で挨拶しました。
「みなさん。どうもありがとうございます。」
水色の髪が流水のようにながれ
女の子達は、その流麗さに思わず頬染めて
ため息をもらします。
…が、ため息でお互いに存在を思い出したのが
恋のサバイバルバトルのゴングになりました。
「リュミエール先輩。ワタシの天才的なハートのメロンパイ食べてください。」
「ま…ここは出来の良いものということで、私のシャルロットポワールを…」
「えーロザリアずるーい。私のラブパワーケーキを食べてください!」
「あ…あの…その…あの〜、あの〜、ジャンボフルーツパフェを…」
皆それぞれ、かなりヘビーな作りなのは自分のだけを
食べて欲しいという乙女の独占欲であり、一つあたり1kgは軽くあるであろうケーキ。
それで、誰のケーキを選ぶか?で…リュミエールに重大な選択に迫ろうというのです。
他の店のスィートナイツ達も、その選択を緊迫した面持ちで見守る中
当の本人だけがのほほんとしていました。
テーブルに腰掛けると両手を合わせて頂きますをし
ジャンボフルーツパフェに手をつけました。
コレットが顔を赤らめ嬉しそうに小躍りし
他の三人はガッカリとうなだれました。
…が、リュミエールはパフェを食べ終わるとラブパワーケーキを食べ始めました。
コレットのパフェを食べたのが溶けてしまわぬうちにという
配慮にすぎなかったことに気がついて3人は一瞬喜んだが
後にコレットと共に青ざめました。
(ね…ねぇ…リュミエール先輩4つとも食べる気かな?)
(食べてくださいって言ってしまいましたもの…きっとそうですわ…)
(げ…ねぇ、それヤバくない?)
(き…気持ちが悪くなってしまわれますぅ)
ラブパワーケーキはなくなりハートのメロンパイも同じテンポで消えていく。
ゼフェルが見たくも聞きたくもないという風情で
向こうを向いてしゃがみこみ震えだしました。
うらやましそうにしているのはマルセルだけで
心なしかクラヴィスさえ青ざめています。
ハートのメロンパイはなくなりシャルロットポワールも同じ勢いで消えていきます。
ルヴァは胃薬と水を持ってオロオロと歩き回り
ランディは空ろな表情で爽やかに笑い、ジュリアスは何故か何かを怒っています。
いや〜なコトに気がついてしまったのはオスカーでした。
ジタバタと声も出ないままにジェスチャーで伝えようとするが
オリヴィエにはわかりません…。
「なによ?ボインな女?」
じたばたじたばた。
一生懸命からだの前に手で出っ張りを表すが、
オリヴィエは首を傾げるばかりでオスカーはついに実力行使に出ました。
オスカーはオリヴィエをリュミエールの真横に立たせました。
その瞬間、オリヴィエにも理由がわかり顔が青ざめました。
やがてシャルロットポワールも消えうせリュミエールは立ち上がると
ニッコリと微笑みながら女の子達に御礼を言いました。
「どうもありがとうございます。みんな、とても美味しかったですよ。」
リュミエールが言い終わる前にオリヴィエは心配で固まった女の子達を押しのけると
体重計とメジャーを取り出すと有無を言わせぬ勢いで計り、そして…。
床にへたり込みました。
オスカーが青ざめた顔で近づくと、顔を見合わせてコクコクとうなずくきます。
アンジェリークがおずおずと聞きました。
「どうかなさったのですか?」
しばらく目を閉じて息を整えていたオリヴィエが、ついに口を開きました。
「リュミちゃんを横から見てごらん…」
慌てて女の子達は不思議そうに首をかしげリュミエールの横に回って…
息を呑んだ…。
「うっそ…」
「あぁ…なぜでしょう?」
「あ…あの…あの…」
「…天才のワタシにも理解不能だよ。」
リュミエールは横から見ても前から見ても、まったく変っていませんでした。
総合計推定4kgのケーキはどこへ入ってしまったのでしょう。
オリヴィエの体重計もまったく増加していないことを示していました。
「あれだけ食って、どこに入っちまうんだ!普通は腹が膨らむもんだぞ!」
半泣きでオスカーがくってかかるが当人は首をかしげるばかりです。
「…そういうものなのですか?それは失礼致しました。」
見当はずれも甚だしく穏やかに微笑み頭を下げます。
「リュミエール先輩。ケーキどこに入れたの?面白いマジック僕にも教えて下さい。」
無邪気にマルセルが言いますが、付き合いの長い面々はリュミエールが
そういう方向に器用な人間でないことをイヤというほど知っています。
胸焼けにも似た重苦しい雰囲気の中、女の子達の初バトルはうやむやのうちに終わり
この事件以来、リュミエールは「どらえもんポケットの胃」とか
「体内ブラックホール」とか呼ばれるようになったということです。
END
真珠:愛ゆえです〜許して〜(T_T)
**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****