SWEET DAYS

                        水色真珠

 

「ロザリア〜!ロザリア〜!」

女王らしくもなくドタドタと回廊を走ってくるアンジェリークに

ロザリアは思わず眉をしかめた。

だいたい、こういう時に聞かされるのはノロケ話で

できれば聞かなかったことにして通り過ぎてしまいたい

だが…やはり女王相手に、それはまずかろう

しかたなしに立ち止まるとアンジェリークは立て板に水状態で話し出す。

「ね〜ね〜、しっていた?今日ってホワイトディなんですって〜

コレットやレイチェルったら守護聖たちにバレンタインのお返しもらえるかもって

ウキウキしてたわ〜可愛いわね〜。」

「そ…そうらしいですわね。」

「あら〜?ロザリアはお返し来ないの?バレンタインに皆様に配ってたじゃない」

「別に、あれは補佐官としての心配りにすぎませんから。」

「うふふ、バレンタインとホワイトディって年に"たった"2回の甘い日なんだから

もっと楽しんだ方がいいんじゃない。」

「そうですわね。でも、すでにリュミエール様とご結婚して

毎日甘い日な陛下にはご関係ないことでしょう?」

ロザリアの握り拳が震える。

だが動揺のあまり、話をマズイ方にふってしまった。

「でもね結婚している私も違う楽しみがあるのよ。昨日ね、館に帰ってからリュミエール様に

明日はホワイトディなんですよってお教えしたの。

そうしたらリュミエール様ったら白い翼を持つ貴女のために日ですね。なんておっしゃるの。

だから、つい違います〜雪よりも眩く白いお肌のリュミエール様の日ですわって言って

キスマークつけちゃったの〜。あ…でも大丈夫よ。見えるところじゃないし〜

そうしたらリュミエール様、真っ赤になってしまわれて、でもね〜桜色のお肌だと

よけいにキスマークって目立つみたいで…

あ…あれ?…ど…どうしたの…ロザリア…?」

補佐官の杖は、まっぷたつに折れていた。

「陛下〜!いったいどこで何をしながらのお話なんです!」

「えっ、聞きたいの〜?うふふ、ロザリアも好きね〜。」

「ちがいます!そういう話を他人にベラベラ話すものではないと言いたいのですわ!」

「えっ?ダメなの?ただの玄関口でのことなのに…」

「…玄関で、そういうことをしているんですのね…」

「ううん、もっと色々してるわ。

でもリュミエール様がお願いですから、もう中に入りましょうって…、

肌を桜色に染めて、潤んだ瞳でおっしゃられると弱いのよ、私。」

ロザリアの首が、がっくりとうなだれた。

「…しかも、それが毎日なんですのね…」

まだ朝だというのにロザリアは疲れ果てて涙目になってきていた。

「そんなことないわ。仕事が間に合わなくて宮殿で泊まることもあるじゃない。」

「そんなこと言って、アンジェ!あなた、急にトイレに行くとか言って逃げ出して

リュミエール様の執務室へ行っていたクセに!」

「だから…あれは…」

「リュミエール様は困っておいででしたわ。

リュミエール様の御膝の上に座って何をしていたんです?!」

「えっ?聞きたいの?あのね…」

「聞きたくありませんわ〜!!!」

すっかりロザリアは壊れていた。いつも淑やかな立ち振る舞いは

どこへやら、大股で駆け去っていった。

 

「え〜!いや〜ん、もっと聞いてもらいたいのに〜!」

ふくれっつらで地団駄踏む女王に行き当たってしまった不運な人間は

ランディだった。

「あっ!ランディ!

ほら、この間リュミエール様の執務室にいる時、

あなた入ってきて私に何してるんですかって聞いたでしょ。

教えてあげましょうか?」

「えっ!聞いたんじゃありません、驚いたんです!」

「ソファに押し倒そうとしていただけなのに?」

「あの…でも、俺、無理やりはよくないと思います!」

「わかっていないわね!恥らうあたりが、初々しくてそそるんじゃないの!

あのね〜執務室だから照れていただけなのよ…」

「あの…でもオスカー様もセクハラはいけないって…」

「ま…!自分だって言えるほど品行方正じゃないくせに!」

「でも、すくなくとも無理やりはないですよ。」

「だから、違うって!わかったわ!!あなたには、私とリュミエール様の愛を、

わかるまでトコトン聞かせてあげるわ!」

 

その日の夕方だった。

オスカーは女王の執務室の扉を叩いていた。

「お嬢ちゃん…いや陛下か…やってくれたな…。

あの頑丈なランディの奴が熱を出して寝込んでいるぜ。」

「あら?どうかしたのかしら?聖地に病気はないはずだけど。」

「あるんじゃないか?」

「へ〜、たとえば、どこかの女好きとか?」

「セクハラ女王の間違いだろう?」

どちらも譲らない厳しい視線が火花を散らす。

「ふん、まぁ、いいさ…。

しょせん、お嬢ちゃんのやることなんて子供だまし

大人からみれば可愛いもんさ。」

「あら?聞いてみる?」

女王は手招きしてオスカーの耳元に唇をよせた。

「ほう…なかなか情熱的だな?」

「な…!そ…そこまでいくか…?早起きなアイツが最近、ボンヤリしていると思ったら!」

だんだんオスカーの顔が赤くなり身を乗り出して聞き入り始める。

「なるほど…それだけの愛情すばらしいぜ…」

「でしょ、愛あればこそよ。」

「ふ〜む、お嬢ちゃん、いや、ここまで聞かせてもらうと尊敬を込めて

陛下と呼ぶ気になるな。さすがだぜ。」

「でも、まだまだよ…私の愛は、こんなものじゃゼンゼン足りないの!」

「ふ…リュミエールも幸せなヤツだ。」

「それでね、一週間くらい愛情表現だけに専念する時間が欲しいの。」

「ふ…一週間でも一ヶ月でも俺に出来ることなら協力しよう!何でも言ってくれ。」

「じゃあ、お願いしちゃおうかな?あのね…」

悪代官と越後屋よろしく怪しく話し込む二人の姿は

お互いへの微かな尊敬を帯びていた。

聖地のホワイトディは白くなかった…。

 

終わり

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あぁ〜甘くない〜甘くない〜(TT)

ダメです〜ただのセクハラ話になっています〜(^-^;)

設定は長編の「最強無敵のマジなレンアイ」の延長線上にあります。

ゴールイン後も不幸かもリュミ様…。ごめんなさ〜い(^-^;)

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****