すぃーとばれんたいん
水色真珠
バレンタインデーも近いスモルニィ学園…
そこは甘い恋の香りと、ほろ苦い涙の味の交差する戦場となるのだった。
難しい顔をした乙女が4人額を突き合わせていた。
「なにが、どうって『なまチョコふわふわババロア』っきりないですわ」
らしくない握りこぶしで力説するロザリア。
「でも〜、それってバレンタインらしくないです。」
おっとりとした口調ながら、つっこむところはつっこむコレット。
「しかも好きなのはマルセル様じゃん。そんなの使えないよ。」
一蹴するレイチェル。
「ここはオーソドックスにハート形チョコでいくのよ!」
元気だけは一杯のアンジェリーク。
「アンジェったら、おバカさんねぇ。そんな百億個も届きそうなもので
アピールできると思っているのかしら?」
再びロザリア。
この調子で提案が出されるたびに反対意見が出てグルグルと
討議は続いていた。
ようは、リュミエール先輩へのバレンタインの贈り物をどうするか、
お互いの手の内を探り合ううち、より良いものをと思うあまり
真剣この上ない話し合いになってしまったのだ。
「いっそ、私を贈った方がよかったりして!」
頭の良いレイチェルでさえ、すでに燃えまくって過激な意見になる。
「いけませんわ。スモルニィの誇りにかけて、お贈りするものはお菓子でなければ!」
「そうよ、さっすがロザリア!」
アンジェが握り拳を上げて同調するが、どこまで考えて言っているのか不明である。
「ミントショコラなら、お好きだからいいんじゃないでしょうか?」
分厚い革表紙の妖しげなメモ帳を見ながら言ったコレットの一言に
いっせいに皆がふりかえる。
「バレンタインらしくて、リュミエール先輩がお好きで、
一番よろしかもしれませんわね。では、私それにいたしますわ。」
いきなり抜けるロザリアにアンジェリークがタックルをかます。
「ずるいわ!気が付いたのはコレットなのに独り占めする気なの!」
「あ…アンジェリークさん。お気になさらないで下さい。
材料の星がいくつかとか、何点か、とかで同じミントショコラでも
ぜんぜん
違いますから。」ふふふ…と無邪気に笑っているのに何気に怖いコレットである。
「ま…そーね。じゃあ、まずは材料集めだね。」
レイチェルが動じないのは、付き合いの長さゆえの理解かもしれない。
ここはケーキの町。
四人は材料を集めるためにやってきたのだが…
「ちょっと、まって!材料を集めに来たのに
なんでゴールマスの方へ行くの?!」
「私は一番でなければなりませんのよ、ホーホッホッ。
きゃ〜誰、とばす券を使ったのは〜。」
「あぁ…
3回休みです。」「ゲッ!カラじゃん。この宝箱」
もう、くたくたになるほど回ったのに
各人の収穫はアンジェはなし、ロザリアはミントクリーム、
コレットはチョコスポンジ、レイチェルはチョコレート各
1個であった。お互いがお互いに手にあるものを、じっと見る。
「
3つ揃わなければ意味がないわ。およこしなさい、レイチェル、コレット。」「じょーだん!足りないものはショップで買えばいいじゃん。」
「でも、星5つのは売っていませんわ。」
「そうそう、みんな甘いのよね♪」
何も手に入れられなかったにしては余裕のアンジェリークである。
「私は、あらかじめ買っておいたから星を増やして頂いただけで十分なの♪」
みれば全部5つ星の材料を持って満面の笑み。
「くぅ、やられたわ。でも愛では負けなくてよ!」
ロザリアの言葉に4人それぞれにミントショコラ作りにとりかかった。
さてバレンタイン当日。
スィートナイツ寮の周辺は予想を上回る女の子が押し寄せていた。
想像を絶する混雑と熱気に繊細なチョコレートは、
数分でなすすべもなく溶けて見る影もなくなった。
「だ…だめ…近づけないわ。ミントショコラがベトベターになっちゃう。」
「アンジェリーク、ポケモンとアンジェ両方やっているプレイヤーは
少ないのではなくて?」
「ロザリアさん、そういう問題でなくドロドロのベトベタンになってしまいます。」
「コレット…。まぁ、状況は通じるからいいか。」
せっかく作ったミントショコラ×4は風前の灯だった。
「だめね。ここはいったん撤収よ!」
裏庭で4人はため息をついた。
「せっかく作ったけれど、みんなのプレゼントの箱を見ると
考えることは皆同じって感じね。」
「そうですわ。このまま運良くお渡しできても
他の人と何も変わらない一品になってしまいますわ。」
「そうそう、箱の大きさがほぼ同じなところからみて
中身もほぼ同じミントショコラだよ、きっと。」
コレットが4人の箱を積み重ねてみる。
「でも…微妙に違います。
ほら…一番大きいロザリアさんのから一番小さいアンジェリークさんのまで
綺麗に大きさ順に重なります。」
「あ!ケーキの型がちがうんじゃないかしら。
私、高さのあるハート型のを使ったから。」
アンジェの言葉にレイチェルがうなずく。
「そーだね。私は星型のを使ったよ。」
コレットが目をくりくりさせる。
「あぁ…そういえば、そういう可愛い型もあったんですね。
私、オーソドックスな丸型です。」
「私は四角ですわ。子供っぽい型より大人の気品こそが
リュミエール様にふさわしいのですわ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくの沈黙の後、やにわに4人は自分のケーキを開けはじめた。
ロザリアの四角い4辺のみに金色の飾りあしらったケーキの上に
コレットの丸いケーキを乗せるとあつらえたようにはまった。
さらに上にレイチェルの星型を乗せると、これまたちょうど良かった。
一番上に、アンジェリークのハート型を乗せるとまるでミントショコラの
ウエディングケーキのようだった。
「決まりね…4人合作でいきましょう。」
「抜け駆けはなしですわ。」
「リュミエール様は仲良しがお好きですから単独アピールは出来なくても
他の方とは、かなり差がつけられます。」
「いいじゃん。これでいこう!」
次に行き詰まったのは渡す方法だった。
なにしろ凄まじい量の女の子なのだ、これを押しのけて寮に入るのは
至難の業だろう。みると寮の建物を十重二十重に囲む女の子達も
寮の管理人が扉を閉じているせいか誰も入っていないらしい。
「ほーっほっほっ、私、いい考えがありますわ。」
ロザリアが勝ち誇ったように笑うとレイチェルをアンジェリークに肩車させた。
そのレイチェルにコレットを乗せて、自分はコレットの肩に立ち一番上にのった。
「さぁ、一番丈夫そうなアンジェリーク、あなたなら大丈夫よ。
あの人ゴミに突入なさい。ケーキは私が窓からリュミエール様にお渡ししますわ。」
「なるほど、ケーキと逆に重ねたのか。やるじゃん。」
「でも〜アンジェリークさん、大丈夫ですか?」
「まかせといてよ!元気なら誰にも負けないわ!」
どりゃあああという、およそ女の子らしくない掛け声とともに突入してきた
巨大な4人重ねの姿に大方の女の子は恐れをなして道をあけ
意外にもロザリアはケーキを崩すこともなく難なく窓にとりついた。
外の喧騒を遮断する防音サッシも直接叩けば音が届くものだ。
ロザリアが叩く音にカーテンを開いたリュミエールが驚いた表情で
窓を開くと、あたりはシーンと静まりかえった。
みんな顔を赤らめため息つきながら見つめるばかりで声一つ出せない。
それは、もちろん当のロザリア達も同じであった。
だが手に捧げもったケーキだけはリュミエールに差し出した。
それを受け取ったリュミエールが柔らかく微笑むと髪が光を受けた清流のように輝いた。
目もくらむような雪白の首筋が桜色に染まったように見えたのは気のせいではないと
ロザリアが思ったとき。聖銀の竪琴を思わせる声が響いた。
「あなたは、本物の天使のように二階の窓へも姿を現すのですね。
少し驚きましたが嬉しいですよ。ありがとうございます。
でも、これは一人で頂くには大きすぎるようです。
ご一緒頂いてもよろしいでしょうか?」
コクコクとうなづくばかりのロザリアをリュミエールは抱き上げ
室内に招きいれようとすると当然ながら、
その足にコレット、コレットの足にレイチェル、
レイチェルの足にアンジェリークがついてきた。
このさい、ごぼう抜きにできるリュミエールの腕力は問わないでおいて
3人はロザリアに詰め寄った。
「抜け駆けなしって言ったじゃん!」
「ちゃんと4人の合作ケーキだと言って欲しいです。」
「ろ〜ざ〜り〜あ〜、私を踏み台にして美味しいとこ全部とる気なの〜」
一番、恨みがましいのはアンジェリークである。
「なりゆきですわ〜しかたないでしょ。許して〜成仏するのよ、アンジェリーク。」
「あの…どういうことなのでしょうか?」
いきなり大天使の謡うような美麗な声に打たれた小天使たちは
悪いことをした子供のように並んで神妙な顔で固まってしまった。
しどろもどろで事情を説明すると、ようやくリュミエールのとまどった表情に
微笑がともった。
そして、こんどはリュミエールの煎れたお茶で穏やかなお茶会になった。
今度こそハッピーバレンタインだった。
来年こそは自分だけがと心の中で思う4人だったが…。
終わり
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当初からの予定通りとはいえバレンタインなのに甘くないです〜
普通は甘い話だろう、って自分でつっこんでしまいます〜
来年こそは甘い話を書きたいものです〜
(^-^;)**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****