強敵

                        水色真珠

 (このお話のコレットは勝気ちゃんです)

まだ薄暗い中、女王候補の部屋に小鳥の声が聞こえはじめた。

ベットから起き上がるとコレットは服を全て脱ぎ捨て

超合金繊維にハイテク機能を付加して作り上げた特殊スーツを身に着けた。

その上から超薄の強化ベストを着てベストの内側に昨夜のうちに磨いでおいたナイフと

薬品を塗りこめた針をしこんだ。

歯・髪・靴、あらゆるところに仕込んだ仕掛けを確認すると制服を着る。

戦闘開始。

ドアを開けると足音を忍ばせて階下へ向かった。

朝食の支度がしてある部屋へ入ると案の定夜更かしで朝が苦手なレイチェルの姿はない。

メイド達に明るく挨拶をして席に着くと食事をしながら人目を盗んで

レイチェルの食事に薬品を混ぜた。

寝ぼけ眼のレイチェルが起きてくる頃には食事をすませ館をでる。

あたりに人影はない。

最短距離を草木といわず女王像といわず薙ぎ倒して100m5秒で駆け抜ける。

だが宮殿が見えてきた時だった。

踏んだ足元に違和感を感じて思わず足をとめたコレットに電磁網がかぶさった。

一瞬にして灰になる制服。

「きゃはは!かかったね!天才のワタシを出し抜こうなんて甘いんだよね!

アナタ朝食に薬入れたでしょ。でもワタシ、朝は栄養食なんだよ。

それにして、しっかりかかっちゃってぇ。昨日の夜の苦労が報われたよ。

まぁ、今日一日そこで痺れてるのね。じゃあ…。」

レイチェルが勝ち誇って言いかけた時、

細い指が網にかかり大きく持ち上げると2つに引き裂いた。

「きゃああ!そんな!象さえ倒す電磁ネットが素手で?!」

悲鳴をあげるレイチェルの前に剣呑な色に染められた針を手にしたコレットが飛び出した。

「覚悟!」

コレットが投げた針が甲高い金属音と共に弾かれた。

「なーんちゃって!この天才レイチェルに抜かりはないわ!

見て、キューティーアイドルレイチェル豪天号""の4番だよ!!」

針を弾いたのは大きなロボットの手の平だった。

操縦席に乗り込むとレイチェルは巨大な腕を振り下ろした。

だがコレットは素早く手を避け続ける。

手が叩きつけられた場所は聖地の美しい舗装が砕け点々と大穴が開いた。

「いいかげん当たりなさい!このロボットは人間の反射速度まで

計算して作ってあるのよ!普通は避けられないんだから!!」

ロボットが自らの手で開けた穴に足をとられた瞬間をコレットは

見逃さなかった。

両手で抱え込むのがやっとな腕を掴むと締め上げた。

バキッ。ボキ。ゴキ。

嫌な音共に腕は潰れ折れた。

「きゃーん。なにすんのよ!このバカ力!!ハイパー合金なのよ!」

「王立隠密部隊で鍛え上げた私には造作もないわ!」

コレットは言い放つとロボットを頭上に抱え投げ飛ばした。

ロボットは空中で回転すると体制を整え着地した、その背中からはミサイルランチャーが現れる。

「きゃはは!ワタシのバックには王立研究院がついてるんだから。

ローテクな隠密部隊なんか敵じゃないよ!

いくよ!ラブラブラブリーミサイル愛の詩105号!!」

「ちょこざいな!」

コレットは迫り来るミサイルを受け止めると投げ返す。

ミサイルはキューティーアイドルレイチェル豪天号""の4番の上半身を吹き飛ばし

操縦席のレイチェルがむき出しになる。

「きゃー!せっかく整えた髪がー!

46センチショックカノン砲三連装三基九門!

15.5センチショックカノン砲三連装二基六門発射!!」

砲台でハリネズミと化したキューティーアイドルレイチェル豪天号""の4番から

打ち出される砲弾を避けながら取り付く隙を狙うコレットだが

激しい弾幕に阻まれ前に出られない。

 

やがて聖地に静かだが通る鐘の音が響き渡り執務の始まりを告げた。

二人は戦いをやめると慌てて女王候補の館に戻った。

かたや髪を整え、かたや服を着替えて宮殿へと駆け出す。

「もう、また遅くなっちゃったじゃん!」

掴みかかるレイチェルをかわすとコレットは罠を避けスピードを落として

100m7秒で走り去った。

だが宮殿の入り口でレイチェルと鉢合わせした。

「ふふん。空間転移だよ。科学の力ってスッゴイって感じでしょ。」

「速度を落として走った私に追いついただけじゃない!」

睨み合う二人の傍で小さな忍び笑いがもれた。

「あ!ロザリア様。」

柱の影から金髪と白い翼の先がのぞいた。

「私もいるわ。」

よりによって女王と補佐官に見られて恐縮する二人にロザリアは優しい眼差しを送る。

「リュミエール様の執務室にライバルより早く着きたいのでしょ。」

コレットとレイチェルは真っ赤になった。

「な…なんで、そんなことまで知ってるのさ?

いくら女王候補でもプライベートなことじゃん!」

女王と補佐官はくすくす笑った。

「あなたたち、お互いにお互いが一番の強敵だと思っているんでしょ。」

女王は愛らしい瞳を輝かせて微笑んだ。

「ほほほ、甘いですわ。ねぇ陛下?」

補佐官は美しい顔に穏やかな笑みを浮かべた。

「どういう意味でしょうか?」

コレットとレイチェルが尋ねると女王と補佐官はにこやかに微笑んで二人を手招いた。

「あなたたちは、まだリュミエール様を想うようになって

日が浅いからわからないのね。」

「ほほほ。そうね、教えておいてあげた方がよろしいですわね。

私たちの方が長い年月想い続けていることを。」

驚いて一瞬息を呑んだコレットとレイチェルだが

「長けりゃいいってもんじゃないじゃん!」

「そうよ!負けないわ!」

強敵の出現に煽られリュミエールの執務室へとダッシュする。

 

二人を見送った女王と補佐官は微笑ましそうに目を細めた。

「ほほほ、青いわね。長い年月想い続けてる分、情報があるということですのに。」

「そうよね。私達やお互いなんて目じゃない強敵がいるっていうね。」

二人は顔を見合わせて、やや疲れた笑いを浮かべた。

「私はリュミエール様に好きですと言って、ありがとうございますと言ってくださった時

てっきり想いが通じたものと思いましたわ。まさかLIKEの意味に取られるなんて…。」

「私なんてリュミエール様の赤ちゃんが欲しいんですとまで言ったのよ!

それなのに、悲しそうなお顔で申し訳ないのですが

私には生めませんし生めても差し上げることは出来ませんって…。」

一番の強敵は当のリュミエールの鈍感なのだと新しい二人の女王候補も悟る日が来るだろう。

女王と補佐官は宮殿の中でもリュミエールの執務室まで続けられるであろう

二人の女王候補の確執に懐かしさを感じながら思った。

 

終わり

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あぁ!リュミエール様の話なのにご本人がいません<(TT;)

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****