ごく普通の2人は、ごく普通に選ばれ、ごく普通の女王候補となりました。

ただ、ひとつ違っていたのは…

彼女達は魔女だったのです!(ふ…古い…^_^;)

「女王候補は魔女」by真珠

 

宮殿の廊下をアンジェリークはホウキに乗って飛んでいた。

だだっぴろい宮殿もハートを使うたびに疲れることなく駆け回り、

出会った守護聖様にご挨拶しまくる。

「守護聖様との親密度は、これでOKね♪あ・と・は…」

アンジェリークは

宮殿の窓から飛び出すと飛空都市から大陸へ降りた。

もちろん遊星盤など使わないインチキな訪問のしかただ。

それでも神官との親密度は上がったりするのだが。

「はぁ〜い♪みんなの様子はどう?」

「あっ!天使様。来て下さったんですね♪」

「元気そうね。頑張ってフェリシアより先に中島へ到達するのよ」

だが皆の表情はクライ。

「どうしたの?」

おどおどと腕をつつき合う村人達の後ろから子供が顔を出した。

「フェリシアの天使様がミラクルミラクルルルルルルーって食料やお菓子を出してくれるんだ♪

だから中島に行かなくても暮らしていけるんだよ。」

あわてふためく村人が正直な子供の口をふさぐが、もう遅い。

ピシッ、いや〜な音がして天使様の額に青筋がたった。

「へ〜、受け取ったのね?それを…」

蒼白の神官は腰を抜かしながら言い分けをする。

「無理やり置いていったんです。だから、しかたなく…」

天使はフンワリ微笑んだ。「しかたなく?」

神官がつられて口をすべらす。

「少し使わせてもらっただけです」

その日、エリューシオンには記録的な落雷があった。

王立研究院の職員の間では「ライトニングボルト」だの「イオナズン」だの

という言葉がささやかれたが正確な記録は何故かない。

 

はるかエリューシオンの上空にホウキに乗った人影があった。

「バカな娘、アンジェリーク」

紫色の長い髪を押さえて下界をのぞきこんでつぶやくと

ロザリアのホウキは宮殿を目指した。

 

翌朝、ロザリアが優雅にお茶を飲んでいると扉が激しくノックされて

乱暴にあけられた。

「やったわね!ロザリア!」

「あら?アンジェリーク。どうかして?」

アンジェリークのピンク色の頬が膨らむのを面白そうに眺めると

ロザリアはティーサーバーから、もう一杯お茶をそそぐとアンジェリークの前においた。

グイっと飲み干すとアンジェリークの怒りが爆発した。

「どうかして?じゃないでしょ!私のこと民を黒焦げにした乱暴女って

皆様に吹聴してまわったでしょ!せっかくあげた親密度がガタ落ちじゃない!」

「だって本当のことですわ」

「あれは…ロザリアが姑息な手を使うから、カッとなって…つい…」

術中にはまってしまった悔しさに言葉が途切れる。

「あら、やる気?庶民魔女のクセに」「くっ…大貴族魔女だからって、負けないわよ」

2人はホウキを手に部屋から出ようとして背の高い人物にぶつかった。

『リュミエール様!』2人の声がハモる。

 

目がハート型になっている2人を優しさを司る水の守護聖は

美しい面に憂いを漂わせて散歩に誘った。

緑の並木道を歩いて行くと瀟洒なつくりのあずまやに着いた。

水の守護聖が繊細なレースをを思わせる華奢なイスに体重などないかのように

流れるようなしぐさで優美に腰掛けるのを見て

女王候補達は思わず立ちすくんだ。

「お2人とも、おすわりになりませんか?」

誘われても座れない。

どんな魔法を使っても、この守護聖の前にあっては不様な動きにしかならないから。

緊張もあいまって、そんな動作しかできないから…。

そんな2人をみて不思議そうに首を傾げると、

その頬をなめらかに美しい水色の髪が流れて

2人の女王候補の心の中は大パニックになる。

パニックに追い討ちをかける天使の声。

「差し出がましいこととは思いますが、

私はあなたがたに仲良くしていただきたいと思うのです。

ライバルだからといって憎み合わなければならないわけではありません。

力を合わせることは人間の一番強い力だと思うのです。

魔法は貴女方の素晴らしい才能のひとつでしょう。

しかし魔法にばかり頼りすぎると他の大切なものを見失なわないでしょうか?

その結果いつか貴女方が困ったことにおちいらないか。私は、それが心配なのです。

おわかりいただけますか?」

2人は必死に頷いていた。

この魔法でさえかなわない優美な守護聖の言葉となれば

説得力はMAXだった。

 

翌日から2人に変化が現れた。

「ア〜ンジェ♪ねぇねぇ、また書類手伝ってよ。ピピルマピピルマプリリンパって!」

マルセルが甘えた調子でやってきてもアンジェは頷かなかった。

「ごめんなさい、もう魔法は使わないことにしたんです。

私は魔法少女じゃなくて女王候補なんですから。」

アンジェリークの言葉に呆けたような表情のマルセルを見て

きっと怒ってむくれてしまうと思ったアンジェは意外な言葉に驚いた。

「そっか、アンジェは女王候補だもんね。ぼく甘えてばっかりで恥ずかしいや。

負けないようにひとりで頑張ってみるよ」

マルセルの瞳には強い決心が輝いていた。

それはアンジェリークが生まれてはじめて見つけた輝きだった。

(人間って…ステキ!こんなにも美しい輝きを持っているのね!)

「アンジェリーク!」

いつになく興奮した様子のロザリアが廊下をかけてきて抱きついた。

顔を見合わせると2人の顔には同じ発見と感動があった。

「ロザリアも!」

「えぇ、人間って素敵ね!」

2人は抱き合ってキャアキャアダンスを踊ったが女王候補らしからぬ振る舞いと

怒るものはなく仲良くなった2人にジュリアスさえ微笑みながら

見ないふりをして通った。

 

土の曜日

仲良く視察に出かけた2人の前にアクシデントがおこった。

「見て!エリューシオンの南の町に山火事が!山向こうからは助けを送れないわ。

フェリシアの港から助けを送るわ。」

言うなりロザリアは遊星盤を港へ走らせる。

「ありがとう、ロザリア。助かるわ。」

アンジェリークは山火事の町の近くへ飛んだ。

人々はなす術もなく呆然と迫りくる火を見ている。

「みんな、しっかりして!」

天使のしったに我に返ると皆アンジェリークに助けを求めてきた。

「天使様!俺の牧場が…。」

「私の羊を先に探してください。」

「昨日、落としたサイフがあのへんに…」

アンジェリークは首をふった。

「今は、火事をくいとめるのよ!バケツでも桶でもいい。

みんな水を汲んできて!」

村人の顔に不思議そうな色が浮かぶ。

アンジェリークの魔法では巨大な炎を止められないことなど察することはできないのだ。

「天使様〜、いつもみたいにシャランラ〜ってやって下さいよ。」

「そうだそうだ。そうすりゃ水を運んでこないでも…」

「ダメ!」

自分の限界に対する苛立ちとバラバラの思いをまとめたくて思わず発したアンジェリークの

強い言葉に村人がすくみ上がる、力ある魔女を恐れる畏敬の表情で。

アンジェリークの脳裏にはリュミエールの言葉が浮かぶ

(魔法は貴方方の素晴らしい才能のひとつでしょう。

しかし魔法にばかり頼りすぎると他の大切なものを見失なわないでしょうか?

その結果いつか貴方方が困ったことにおちいらないか。私は、それが心配なのです。)

魔法にたよりすぎたアンジェリークの胸をこの言葉が強くさした。

 

ロザリアも同じだった。

隣人を愛し心ゆたかに教養高くと育てたはずの民は海の向こうに見える地の助けを拒んだ。

2人は同時に心の中で助けを叫んでいた。

 

日差しが和らぎフェリシアの空に幻の慈雨がひろがり

静かに水色の輝きが降りてきた。

優しさのサクリアは人々を包みロザリアの耳にそっと囁いた。

(あきらめないで…)と。

ロザリアは頭を上げると、もう一度人々を説得し始めた。

 

 

燃えてしまった、

とりあえず避難だけはさせたから命を失うものはなかったけど…。

全てが燃え尽き人々が責任をなすりつけあい罵る中で

座り込んだアンジェリークの耳に自分を呼ぶ声がかすかに聞こえた。

海風とともに白い帆をふくらませた船が海の手の平に運ばれるように

小さな漁港に接岸し、ロザリアが転がるようにアンジェリークめがけてかけてきた。

「ロザリア…。」

呆けたアンジェリークが腕の中で泣きじゃくりだすとロザリアも声を詰まらせた。

「ごめんなさい、遅くなってしまったわ。

でも、もう大丈夫。たくさん物資を持ってきたわ。

建て直しましょう!みんなの手で!」

ロザリアの声にフェリシアの民は声をあげて答えると焼け跡の片付けや

食べ物と水を配ったり新しい建物を建てる準備をはじめた。

微笑むロザリアの腕の中で俯いていたアンジェリークが頭をふった。

「ダメよ。フェリシアのように力と心を合わせることは

エリューシオンには出来ないの。今、助けてもらってもいずれ…」

ロザリアはアンジェリークの頭を強引にあげさせた。

「見て!アンジェ…。」

小さな男の子が半ばぶら下がるようにしてフェリシアの民を手伝って木材を運んでいた。

エリューシオンの少年だった。

それを見た大人達が恥ずかしそうに腰をあげると少年にかわって

その大きな木材を担いだ。

女達も礼を言いながら海をこえてきた苦労をねぎらい

炊き出しに参加しはじめた。

(力を合わせることは人間の一番強い力だと思うのです。)

顔を見合わせた女王候補達の心に水の守護聖の声が響いた。

 

 

飛空都市に帰ると、なぜか慌しかった。

パスハも落ち着かない様子で2人が帰りついて仕事がなくなるなり

駆け出していた。

あわてて追いすがって理由を尋ねると

ルヴァの執務室の壁にゼフェルのロボットがつっこんだ拍子に

あの巨大な本棚が倒れてルヴァが生き埋めになったというのだ。

2人もパスハとともにかけつけると

ルヴァの執務室のまわりは人々が集まっていた。

「ど…どうしよう?私達、魔法を使った方が良いんじゃないかしら?」

動転するアンジェリークをロザリアがなだめる。

「大丈夫よ、ここは聖地ですもの。きっと皆が力を合わせてルヴァ様を救ってくださるわ。」

現に、わたわたと機材を運んだりタンカの用意している。

だけど、間に合うのだろうか?そんな心配が2人の心臓を高鳴らせる。

「おぉ、来た来た。」さわぐ人々の間で反省しているのかと思ったら

寝ていたらしくゼフェルが大あくびして伸びあがる。

何が来たのかと思えば、守護聖一同であるが

慌てているのは水の守護聖だけで他はのんびりと野次馬モードだったりする。

「ルヴァ様ッ!」

蒼白の水の守護聖はほっそりとした繊手でガバッと巨大な本棚を持ち上げると

分厚い本を枯葉のように掻き分けてルヴァを引き出した。

まわりでパチパチと気の抜けた拍手が起こるが

動転しきって自分が何をしているのか気がついてもいない様子で

赤子のようにルヴァ軽々と抱えて病院へ走り去る。

「今日は、また早かったねェ♪」

「ふっ…5秒をきったな…」

「今度、本棚を木からに鉛に変えてみようぜ」

「なぜ、あれだけのことをして覚えていないのかわからぬな」

「この間ぼくが木の下敷きになった時も、そうなんですよね♪不思議ですね」

「一生懸命すぎて我を忘れるって言うし俺も時々あるよ。」

「本当に便利な奴だぜ。おかげで聖地は平和だな。」

水の守護聖に任せきった

無責任な会話を聞きながら女王候補達は自分達の時代が来たら

きっと粛清せねばと、使命感に燃えていた。

終わり

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みーたん様へ 真珠より

しょせんギャグな女ですみません<(_ _;)>。

リュミ様の怪力は魔法より強いというお話でした<うそ(T_T)

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****