「雪の翼」 水色真珠

 

「寒い…。」

私は思わずつぶやいて少しだけ邸に向かう足を急ぎ足にした。

心はかけだしたいほどなのだけど

今、この時を…

幸せではちきれそうな時間を引き延ばしたくて…。

今日はクリスマスイブ。

外界にあせてロザリア…女王陛下が…

聖地にも雪を降らせてくれた…。

 

あとからあとから降ってくる天使の羽のような雪…

手に取ると幻のようにとけてしまう。

私がリュミエール様と暮らし始めて3ヶ月…

その幸せも夢のようで

幻のようにとけていきそう…。

 

そう考えて

急に不安にかられてかけだした。

頭の中で雪見なんていってないで

やっぱり馬車で帰れば良かったなんて

らちもないことがかけめぐる。

 

水の館の扉を開くと…

なかは静まりかえっていた。

リュミエール様の微笑がないと

こんなにも寒々しく冷たい館だったのだろうか?

はじめて気がついて愕然とした…。

 

廊下をかけまわり部屋を捜し歩くけど

リュミエール様がいない。

何時の間にか涙があふれて視界をぼやけさせ

歩くことができなくなった。

柱にすがり付きながら考える。

 

そう、どなたかに誘われておでかけなのかも

ロザリアがサクリアの調整の為に呼び出したのかもしれないし

こんな日にありえないけど…

 

でも考えながら深呼吸すると少し落ちついた。

そして中庭に面したラウンジへむかった。

この雪を見てらっしゃるのかも知れない…。

 

ラウンジも無人だった。

 

また涙があふれそうになる。

恋しい

リュミエール様のすべてが…。

 

ぼんやりと中庭を見て息が止まった。

 

雪の上に至上の美しさを持つ水色の髪を翼のようにひろげて

熾天使が横たわっていた。

明けの明星より神聖で

雪を纏う山河より清らかで

深紫のビロードにばら撒かれたダイヤモンドのような星々に

彩られる夜空よりも深く広い…。

 

くもったガラス窓の向こうでさえ

どんな夢より美しく儚げでありながら

誰の目も賛美の驚嘆に釘付けにならずにいられない…。

それなのに誰よりも自然に微笑み

包み込んでくれる暖かさ、優しさと強さ

他人のためなら自分がどうなろうと厭わず

厳しくなれる人。

 

見とれていた私は

その腕が白鳥の首を思わせる優美さで上に伸ばされたのを見て

我に返った。

 

あわててガラス窓をあけると

その手をつかんだ。

「どうなさったんですか?具合でもわる…い…」

思いがけない強い力でひかれて

水色の熾天使の胸に抱きしめられた。

「お帰りなさい。アンジェリーク。」

びっくりして声も出ない私。

「こうしていると降ってくる雪が

天使の翼をもったあなたにみえます。

見とれていたら

本物のあなたも降ってきました。」

心配したのに…。

でも嬉しい、

リュミエール様の胸の鼓動が。

黙って、その音を聞いていたら白い輝きをおびた美しい手が

私の頭を撫でた。

「私は、あなたへの愛で生きています。

私の心臓の鼓動は、あなたへの愛を囁く詩。

ひとつひとつが『愛しています』そううたっているのです。」

 

雪に埋もれながらなのに

とても暖かかった…。

 

Fin

真珠:これ絶対に後日風邪ひいてますね(^_^;)