「ゆきだるま」 水色真珠

 

クリスマスの朝、起きてみると聖地は白銀に染まっていた。

もちろん交通網はマヒし

3階まで雪に埋もれた各守護聖の私邸から

宮殿にあがることは不可能だった。

 

だがゼフェルは違っていた強力雪かきマシーンを駆使して

いち早く雪の上に出た。

ただし宮殿に参内するためではなく遊ぶためだが。

しかし、そこで見たものは…

サングラスをかけて昼寝するクラヴィスと

雪だまを転がすリュミエールだった。

「…なに…やってんだ?おめー達。」

クラヴィスが物憂げにサングラスをはずすと

ボソッと答えた。

「少し…日焼けしてみるのも…一興かと思ってな…。」

ゼフェルの全身から血の気が引いた。

日焼けした闇の守護聖なんて想像しただけで恐ろしすぎる。

表も裏もわからないくらい日焼けして

真っ暗な部屋の中で目の回りだけ白いクラヴィスなんて、

聖地を恐慌に落とし入れること請け合いだ。

「やめろ!いますぐやめろ!

おめー死人を出す気か?!」

「もっと日にあたれと…ルヴァに言われたのだ…。」

すでに、やけはじめた肌にクリームを塗って

聞く耳を持たないクラヴィスをあきらめ

ゼフェルはリュミエールにむかった。

こちらは雪焼けさえもしないのか

同じように日に当たっていても雪より白いので

やや、ほっとする。

「なぁ…どうなってるんだ?

年中春の聖地に大雪は降るし

クラヴィスは日に当たってるし

メチャクチャじゃねぇか?」

いつものようにリュミエールは優しく微笑んだ。

「陛下にお願いされて昨夜、クラヴィス様と私で

サクリアを調整して雪を降らせたのですよ。

たくさんとお願いされましたので

たくさん降らせてみました。」

ゼフェルは愕然とした、何の事はない犯人は

この2人…もとい女王だったのだ。

「なんのために、んなことする必要があるんだよ?」

リュミエールは微笑ながら首をかしげた。

「さあ?何の為なのでしょうね?」

何のためかも分からないのに

こんな大それたことをしてしまうなんて…

つくづくゼフェルにはわからなかった。

「んで?おめーは何してんだ?。」

リュミエールの転がす雪だまは直径30センチ位になっていた。

「雪だるまです。

クラヴィス様にお聞きしてつくってみようかと思いまして。」

それならば人畜無害だろうとホッしたゼフェルは

とりあえず聖地を崩壊させかねないクラヴィスの日焼けを止めるため

他の守護聖を掘り出すことにした。

 

意外に早く見つかったのはマルセルの私邸だった。

「ゼフェル〜助かったよ〜

ぼく今日は外に出られないと思ってた。」

だがマルセルは、ほんのり色がついてきただけの

クラヴィスでも泣き出してしまい役に立たなかった。

 

次に見つかったのはランディの私邸だった。

しかしランディも見るなり壊れてしまい

バクテンしつづけるだけで役に立たなかった。

 

「ちっ!元凶のルヴァの奴はどこだ?」

ゼフェルの思惑をよそに、

見つかったのはジュリアスの私邸だった。

ジュリアスはクラヴィスをみるなり小言を言い始め

役立つかと思えば寝そべっているのがけしからんと的外れな小言で

しかも思いっきりクラヴィスに聞き流されて役に立たなかった。

 

次に見つかったのはオスカーの私邸だった。

だがオスカーは男のことに関りあいたくないと

役に立つ立たない以前で出て来もしなかった。

 

やけくそになって掘りつづけるゼフェルが

次に掘り当てたのはオリヴィエの私邸だった。

オリヴィエなら美容の守護聖だから

役に立つかと思えば

自分に日焼け止めを塗るのに夢中で

これっぽっちも役にたたなかった。

 

最後に、ようやく掘り出したのがルヴァの私邸だった。

だが、もっもあてにしていたルヴァが

開口一番言ったことは

「あ〜良いことですね〜」

だった。

「おっさん!聖地が崩壊するぜ!」

「あ〜そうですかね〜?」

あくまでも、のんびりとしたルヴァを引っ張って

クラヴィスのところへいくと

何故か、そこはまっ暗闇で

眠っているクラヴィスは、ほとんど日焼けしていなかった。

「ど…どうなってんだ?」

ゼフェルは空を見上げて目をむいた。

 

そこには空を覆いつくす巨大な雪だるまがあった。

傍らには2個目にとりかかろうと雪だまを転がす

水の守護聖…。

「あ〜あちらの方を止めたほうが良いのではないでしょうかね〜。

あれが宮殿に崩れたら…とってもたいへんですよ〜。」

緊迫感のない口調で言われなくても

見るからに危ないものは危なかった。

「おい!おめー何考えてんだよ。

いくらなんでも、デカすぎんぜ!」

水の守護聖は始めて気がついた様子で手を止めた。

「すいません。皆さんが雪が少くなくなって

助かるとおっしゃるので

つい、嬉しくて…。」

「つい、嬉しくて…じゃねーよ・・・。」

ゼフェルは腰が抜けて座りこんだ。

おかげでクラヴィスの日焼けという危機は脱したが

この巨大雪だるまは、どうしたものか?

とんでもなく人畜無害ではなかった雪だるまに

悩んでいるとルヴァがポンと手を打った。

「水に戻してしまったらどうでしょうね?オスカーに頼んで…

あ〜でも、今度は大水で困りますかね〜

蒸発させても蒸風呂ですしね〜」

だが、自己完結で終わってしまった。

そこで、リュミエールがニッコリ微笑んだ。

「あの…それでは、とりあえずあちらに持っていきましょうか。」

「なに言ってんだ!だいたいどうやって、こんなデカイもん…」

そういうゼフェルにリュミエールは、

その繊手で事も無げに雪だるまを持ち上げた。

「申し訳ありません。今どかしますね。」

腰を抜かす一同をよそに雪だるまは軽々と運ばれ

聖地のはしに置かれた。

 

「ヤッホー♪」

明るい声に、疲れきった守護聖達がふりむくと

女王と補佐官はおニューのスキーウェアに身を包み

滑ってくるところだった。

ゼフェルが頭を抱える。

「まさか、おめーらスキーがしたかった…なんて

理由で雪を降らせたんじゃねぇだろうなぁ?」

だが女王は無情にもニコニコとうなずいた。

 

「だって外界じゃあクリスマスなのよ♪

新しいウェアだって買ったんだし

着てみたいじゃない♪」

ゼフェルの額に青筋が立った。

「おめーら!4つ前の日の曜日だって外界では

クリスマスだったぜ!

年中あることなのに、いちいち浮かれるんじゃねぇ!」

 

この日から、ゼフェルは女王に

冷たくて雪だるまみたいとか

くそ真面目・頑固と

彼にとっては甚だ心外なことを言われるようになり

ますますグレてしまったということだ。

ただ…常識人であっただけなのに…。

 

終わり