「白いプレゼント」 水色真珠

 

 聖地にクリスマスがないというのは頭ではわかっていた。

でも毎年の習慣から心は、そわそわしだす。

「もうすぐクリスマスね、ロザリア」

「女王試験中に、そんなもの関係ありませんわ。

それに、ここで尊ばれるのは女王陛下。

そんな慣習はなくてよ。」

「でも、ロザリアの部屋のドア、リースがかかってる…」

「あ…あれは、ばあやが勝手にやったのよ。」

本当かしら?

「うかれてないで、しっかり育成しないと張り合いがないわ。

私より出遅れているのを忘れないことね。」

そう言われてもクリスマスよ、クリスマス!

聖地と同様の常春状態の飛空都市でも、やっぱり心が浮き立ってしまうわ。

ロザリアが育成に行ってからも

私の心の中はクリスマスのことでいっぱいだった。

せめて皆様にプレゼント配れないかな?

いつもお世話になっている感謝の気持ちを込めて。

でも、さすがに皆様にっていうのは時間もないし無理ね。

せめて、リュミエール様だけにでもプレゼントしたいなぁ。

恋する乙女は不公平なのだった。私は決心して

育成中の大陸の民から、貰ったものを並べて何が作れるか考えてみた。

「ハニークッキーがつくれるわ。やっぱり買ったものより手作りの品よね♪」

クッキーをもみの木や雪だるまの形にしてクリスマスっぽく作って

可愛くラッピングしてみた。

これでOK!心を込めて作ったもの。きっと喜んでくださる。

いっしょうけんめい心を落ち着かせてリュミエール様の執務室のドアを叩いた。

中から穏やかで優しい声が答えて神が降りてきたような暖かく眩い光と共に

ドアが開いた。

リュミエール様から光が差してくる。

刺すような輝きではなく暖かく包み込むような慈しみにみちた光。

美しくも不思議な輝きをまとう髪が流れる頭に金の輪や

やわらかで優しく美しい背に翼が見えるようで

思わずうっとりと見とれてしまった。

守護聖の聖というのが一番似合うとおっしゃったのは

どなただったかしら?本当に、そう思わずにいられない。

そして、それは外見だけでなく何より

その御心ゆえに。

やわらく微笑まれて部屋へ導かれた。

すっかり舞い上がってしまった私は必死にクリスマスの説明をして

プレゼントを渡した。

頭は真っ白、心臓は口から飛び出そう、足はがくがくだった。

そしてリュミエール様が優しく微笑まれて感謝の言葉を下さったのに

耳は自分の心臓の鼓動でいっぱいで美しい音楽的お声は

メロディのようにしか聞こえなかった。

あぁ…私のバカバカ〜。ますます頭の中はグルグル

心臓はバクバクうるさいくらいに高鳴って走って逃げ出したいくらい。

 

だが、それも次のリュミエール様のお言葉で吹き飛んだ。

「私からもプレゼントを差し上げたいのですが?」

リュミエール様からプレゼントなんて、勝手に押し付けに来たのに

嬉しいやら申し訳ないやらで一瞬の正常値後

私の呼吸と心拍は前以上に上昇してしまった。

「どうしよう〜」と「きゃ〜」しか頭に中にない私は

ただリュミエール様についていくしかなかった。

どこをどう通ったのか、ついたところは私の育成中の大陸。

このへんは、まだ動物はいなくて、やっと樹木が茂り始めたところ

ツンツンとした葉は、ちょうど樅ノ木みたい。

冷え切った大気の中に暗緑色の木々が震えながら立っている。

見渡す限りの森林地帯。

やがて、ここにクリスマスを祝う人々の姿が見られるようになると良いけど。

ぼんやり考えていたら、フワリと白いものが落ちてきた。

リュミエール様が美しい腕を天使の翼のように優美に広げて

サクリアを贈られると冷えた大気の中でサクリアが凍っているように見える。

それが樅ノ木のような樹木の森を飾り付けてゆく。

それと共に降りだした、この大陸に初めて降る雪だった。

 

ふんわりと震える木々を優しく包む雪、枝を飾る雪の結晶のようなサクリアの輝き

儚く美しい幻想のクリスマスツリーと

確かに、そこに存在するのに幻想より貴く美しい人。

その指先から紡がれる奇跡より、その人自身に言葉を失う私の額に

雪よりも、やわらかなキスまで降ってきた。