「雪のティアラ」 水色真珠
「アンジェリーク!アンジェリーク!」 けたたましくレイチェルの呼ぶ声がする。 慌てて行ってみると。 「きゃああああ〜」 いきなり背中に冷たいものが…。 「フフフ…、ひっかかったわね。 アンジェあまいなぁ〜。」 「なによ、これ? ゆ…雪?!」 背中に手をいれると白くて冷たい塊が出てきた。 見ると外も真っ白になっている。 「う…そぉ。」 サクリアの調整がまずくて干上がっていた星に雪なんて…。 「この間の調整が、まだちょっといけてないみたいだね」 レイチェルってば笑い事じゃないよ。
「レイチェル!あのね…」 怒ろうとしたら宇宙間通信の呼び出し音が鳴った。 あちらの宇宙の女王陛下だわ。
「こんにちは〜!アンジェ。レイチェル。 元気?!」 あいかわらず威厳もへったくれもない。 そうそう私も女王なんだっけ 他人のこと言えないか。 「今日って主星はクリスマスイブなのよ。 でね、守護聖達にもお休みあげたんだけど。 リュミエール様は、そちらに行かれたわよ。 ちゃんとお迎えしてね。」 げっ…私は思わず外をみた。 次元回廊は屋外にあるのだ。 「う…うそでしょう?! た…たいへん〜。 レイチェル、雪かきしなくちゃ。 リュミエール様きっと埋まってるわ〜。」 半ベソかきながらスコップを手にした私を他所に レイチェルは首をふる。 「私、肉体労働むきじゃないんだよね。 がんばってね〜。」 ニコニコと手をふるレイチェルに女の友情なんて しょせんこんなもんなのねと憤った私は一人で外へ飛び出した。 後の事も顧みず。
「ねー陛下。まだリュミエール様はそちらでしょ。」 「あら、レイチェル。さすがね、読みが深いわ。」 くすす、と可愛らしい忍び笑いがもれる。 「だって陛下が、こっちの状況も調べないで大事な守護聖… ううん、大事なリュミエール様を送り出すわけないからねー。」 「うふふ…雪かきが終わったら連絡ちょうだいね。」 プツリと切れた宇宙間通信の暗くなった画面を見つめながら レイチェルも微笑んだ。 「まぁ、仕方ないかな。アンジェってばリュミエール様の件では みんなに恨まれてるもんね〜。 わ・た・しも…だしね。」
周囲の思惑など関係無かった。 除雪車のようにスコップで雪をかき… あぁ…後でリュミエール様がお歩きになられるのだからと 道までつけつつ次元回廊に辿り着くころには 雪まみれ。 だが…掘れども掘れども…。 「あぁ〜、リュミエール様〜。どこに埋まってらっしゃるの〜?」 泣きながら雪を掻いているとレイチェルがニコニコとしながら やってきた。 小型の通信機で誰かと話をしている。 「はい、雪かき完了でーす。道もついてますよ。 はい。じゃあ、これから向かいます。」 ぼーぜんとしてる私に手を振るとレイチェルは次元回廊を開いた。 「私、あっちでクリスマスパーティーがあるっていうから いってくるね。留守番ヨロシク。バイバイ。」 つられて手をふってから気がついた。 クリスマスパーティーがあるってことは リュミエール様は来ないんじゃないの〜?!
お・・・乙女心をもてあそぶなんて… ひどすぎるわ。 私は疲れと寒さで立ちあがれなかった。
「アンジェリーク…?」 シクシク…ほっといてよ、もう…。 …? 「は…はいーっ!!」 熾天使の声に一瞬にして背筋をのばして直立。 何時の間にか目の前には雪さえも衣のように纏って立つ優美な姿。 「いつも、お元気ですね。 お会いできて嬉しいですよ。」 緊張のあまりガクガクと人形のように頷く。 ドキドキして胸が壊れそう。
「アンジェリーク…。」 リュミエール様がそっと抱きしめて 私の髪にくちづけした。
「今日のあなたは雪のティアラをかぶって 雪の女王のようですね。」 私が女王ならリュミエール様は神様だわ。 ひざまづきたくなるくらい 美しい四季の神。 春の優しさ 夏の強さ 秋の繊細さ 冬の美しさ すべての至高を身に纏う。
雪が再び舞い始めてリュミエール様の髪を飾る。 水色の髪に天使の後輪にも似た白く輝く雪のティアラ。 あなたの前では女王ではない 私は昔話の、神と恋に落ちた貧しい村娘のように おずおずと神の愛にすがるだけ。
「愛しています、アンジェリーク」
あなたの言葉と仕草に全てを捧げた 私はあなたの使徒。 「愛しています。」 私の愛し信じる唯一の神 リュミエール様。
「まーたく、今ごろイチャイチャしてんでしょうね。」 真っ赤な顔にすわった瞳のレイチェルがカクテルを一気に空けると ロザリアが青筋をたてながら七面鳥にナイフをブスリとつきさした。 「レイチェル!それは言いこなしですわ。」 「そーよ。全部忘れて、飲もう飲もう!」 へべれけの女王はキンキラモールを首に巻き サンタ帽子をかぶって踊っていた。
終わり。 |