「恋でも天才」 水色真珠

 

女王試験で聖地に呼ばれて100日あまり

ライバルだなんて思って意気込んでたのに、

その冴えない娘は何故か大親友になっていた。

のほほんとした娘、おっとりと言えば聞こえは良いけど

天然ボケ

だけど…憎めないっていうか、多分とっても好き

そして信頼し尊敬さえしてる。

その、まわりの全てを包み込み変えてしまう優しさ温かさ

大きく強い力。

マジでボケてるのに妙に鋭いとこもあるし。

天才の頭脳だけじゃ、かなわないものもあったのよね。

ショックだけど、なんだか心地よかったりして…。

「ねぇ、レイチェル〜♪もうすぐクリスマスよね〜♪」

「ん〜、そーだね。何かプレゼントしてあげる。

何が良い?」

アンジェは首をかしげて考え込んでしまった。

こういう時の決断力はないのに、どうして育成やトラブルの時は

素早く的確に答えが出せるんだか不思議…。

「あの〜、ね〜」

「なに?なに?」

真っ赤になってうつむいてしまう。

「あの方…」

思わず目をむく。

「ゲッ…そんなの無理だよー。」

「そ…そうよね〜ごめんなさい〜なんだか欲しいって言うと

あの方しか浮かばなくって…。」

冷や汗が流れ心臓がドキドキバクバクする、さりげなくアンジェを見ると

マイドリームにひたって気づいていないみたいで

少しホッとして息をはいた。

アンジェは知らない…ワタシの…

ううん、違う。ワタシのは恋なんかじゃない。

ただの昔の感傷っていうものよ。

カップを持つ手が震えているのは、それは、それは、

きっと少し息を詰めていたから。

 

窓の外を見ると雪が降り出していた。

女王陛下ってば、お祭り好きだからクリスマスの演出のつもりかな?

でもワタシの心には少し苦しい。

「あ〜雪ね〜♪レイチェル〜♪」

「ホント、きれいだね」

そう言いながら降りしきる雪の中に幻の姿を見ていた。

 

夜、さらさらという雪の音に記憶を呼び覚まされて

眠れない。

起き上がると愛用のパソコンを引っ張り出した。

 

翌朝一番にアンジェを捕まえると

その手にリボン付きの大容量ディスクを押しつける。

「アンジェ。ちょっと早いけどメリークリスマス♪

あの方はプレゼント出来ないけど

好みや行動の傾向etc入れといたから

自分でゲットしてねー。」

返事を待たずに手を振って駆け出す。

たぶん、ちゃんと笑って言えたはず。

 

アンジェの勝ちは見えてるし、育成はさぼった。

ただ誰とも会いたくなくて

雪の公園で寝転んで空を見上げていると

降ってくる雪が目に入ってしみた。

あの時も、そうだった。

天才なんて言えばチヤホヤするか妬むか

まわりの全てがイヤでたまたま両親の仕事で付いて行った

辺境の研究院を飛び出した。

真っ白な雪野原に寝転がっていたら

不思議な音色が聞こえてきた。

聞いたこともない美しい音

慌てて起き上がると白い姿が歩む衣擦れの音だった。

光を纏うような美しく細い手が

見たことも聞いたこともない儚く美しい不思議な色の髪が

落ちてくる雪の中で幻のように輝いていた。

ワタシは子供とはいえ、そこらの子のように

物知らずじゃないから神様とかいるわけないって知っていたけど

目の前にある姿は、知識でいくら否定しても

神か天使。

それ以外ありえなかった。

新雪より輝かしく気高く清く神聖な美しい顔がワタシを見つけて

近づいてくるのを見た時は

自分は実は凍死していて

天界へと連れて行かれるところなのではないかと思った。

でも…気遣わしげに膝を折りワタシの頬にふれた手は

とても暖かだった。

「こんなところにいらしては、風邪をひきますよ。」

優しい輪郭に縁取られた微笑みは春の桜色。

雪が見せる夢幻の舞いに魅せられて息もつまり

ワタシは言葉も出せず立つことも出来なくなってしまった。

そんな雪まみれ泥まみれのワタシを

まるでガラス細工の宝物のように優しく抱き上げ運んで下さった。

まるでイヤなこと全てが洗い流されるような力が伝わってきて

ワタシは研究院につく頃には、すっかり元気になっていた。

下へ降ろされると大人の職員達がやってきて

しきりと今までのことを詫びるのに面食らったが

ワタシを助けて下さっ方が視察に研究院を訪れた守護聖様

しかも水のと聞いて納得した。

それとともに、あまりに高みで手の届かない方なのだという

事実に愕然とした。

神や天使より現実的で高い壁。

だけど二度と御姿を見ることもないだろう、その事実がワタシを大胆にした。

大人達が離れた隙にワタシは物を知らない子供のふりをして言ったのだ。

大きくなったらお嫁さんにして…と

あの方が驚いているうちに逃げてしまったけど

今、思い出しても恥ずかしくて死にそうになる。

唯一の救いはリュミエール様が聖地時間で2ヶ月後に現れた女王候補が

あの時の子供だとは気づいていないこと。

もちろん眼鏡もコンタクトにしたしダサダサの白衣もミニスカにしたし

一年中雪ばかりの地域の研究院づとめで小麦色の肌になってるのに

気がつく心配はないのだけど…

それが寂しいなんて…どうかしてるよね。

そう…ホントなら女王候補なんて断ればよかったのに

ここに来て…

でも、ここに来なきゃアンジェにも会えなかったもんね。

ワタシらしくないなぁ。

もっと前向きでいかなくちゃ。

雪を振るい落として立ちあがると部屋へ駆け出した。

クリスマスだものアンジェとケーキでも食べよう。

 

扉を開けるとアンジェがいきなり飛びついてきた。

「レイチェル〜♪」

「うわ!なになに〜?!」

「レイチェルのくれたデータのおかげよ。

プレゼントしたら〜リュミエール様に喜ばれちゃった〜♪」

はいはい、となだめるとワタシは

日の曜日に買っておいたケーキを取り出した。

「じゃあ、おめでとうということでケーキ食べよう。

天才なワタシは読みも正確だから買って置いたんだよね。」

「ありがと〜今度はレイチェルの番ね♪」

「え〜っ、ワタシはいいよ、そんな方いないし…」

アンジェの瞳から大粒の涙が転がり落ちた。

「レイチェル…私が成功したら少しは焦って

本当のこと言ってくれると思っていたのに…

あなたは恋でも天才なの?私なんかじゃライバルにならないの?。」

「えぇっ?!な…なにいってんのよ。」

「レイチェルもリュミエール様を愛してることくらいわかるわ。」

「ち…違うってばーワタシは…」

アンジェは小首をかしげた。

「気がついてないの?レイチェル。

いつもいつもリュミエール様のこと目で追って

私がリュミエール様の話をするとレイチェルも真っ赤になって

目をキラキラさせているのに。」

ワタシの手からケーキの箱が滑り落ちた。

「え…ウソ…」

頭の中が真っ白になってしまった。

こんな天然ボケな娘に気がつかれるほどワタシってば

ミエミエだったのー?!

じゃあ、じゃあ、もしかしてリュミエール様にもバレてる?

とどめの一撃が来た。

「レイチェルってば子供のころ

リュミエール様とお会いしたことがあるのですってね?

そのお話をしようとしても用件がすむとレイチェル逃げるように

いなくなってしまうから嫌われてるのかもって

リュミエール様悩んでいらっしゃったのよ〜。」

思わず床にへたり込んだ。

呆れ顔のアンジェがしゃがんで顔を覗きこむ。

「え〜レイチェルって恋でも天才で、余裕なのかと思ってたわ。」

そんなわけないじゃない…と思いつつ言葉も出ない。

なされるがままにアンジェに椅子に座らせられて

何時の間にか切った潰れたケーキがお皿の上にのり

フォークを握らせられた。

「これからは恋でもライバルね。ケーキで乾杯♪」

あくまでアンジェは前向きでまぶしいくらい。

あ…でも、もうすぐ女王はアンジェに決まるはずなのに、

どうするのかしら?当然な疑問が湧き上がる。

「で…でもさ…このままだと、あなたが女王よ。

恋とかいってられなくなるんじゃないかな?いいの?」

アンジェは、いつものほや〜んとした笑みを浮かべた。

「ん〜、そうね〜そしたら〜私達の宇宙に拉致しちゃおうか〜♪」

「ちょ…ちょ…ちょっとーマズイよ、それ」

「じゃあ〜私達の宇宙で水の守護聖探してトレードしてもらおうよ〜♪」

「そ…そんな…リモージュ陛下だって、お放しにならないと思うけど…。」

「ん〜、乗って来たわね〜レイチェルも。じゃあ、どうしたら良いか

作戦立てようよ。私達の宇宙なんだから♪」

強調された私達のという言葉には試験の結果は、どうあろうと

私達の友情は強く離れがたいものであることが含まれていた。

ちょっと目頭が熱くなる。

「そうだね。ワタシ達の宇宙だものね。愛する方にいて欲しいよ。」

「でしょう〜♪」

それにしても、のほほんとしてるくせにバイタリティがあって

くじけない諦めないところ

アンジェこそ恋でも天才…感心しつつも、今更だけど最後まで

育成も恋も頑張ろうと改めて誓った。

特に恋は絶対負けられないね。

 

終わり。