ガラスのティーセット 真珠

 

もうすぐリュミエール様のお誕生日。

思わず、ため息がもれる。

私もお誕生パーティに行きたいけど、継母と3人のお姉さんにこき使われて・・・。

ってことはないけど。

プレゼントに持って行けそうなものは・・・チラリと机の上の箱を見る。

昨日、骨董品屋で衝動買いしてしまった。

涼やかな水色のガラスのティーセット。

ハンパ物だし綺麗だけど古いだけで値打ち物じゃないって言われたし、差上げるには困ってしまう。

せめて全部揃ってたら良かったのにと、

何回ならべなおしても、やっぱりカップとソーサーとスプーンがひとつづつ足りない。

 

なんとかならないかしら?

私はティーセットを持つと外に出かけた。

ゼフェル様なら作れないかしら?

安直な思い付きだけど、やれるだけやってみよう。

「バッカヤロー!」わけを話したら、いきなり怒られた。

「そんなものがあるなら、なんでさっさともってこねぇんだよ!

俺はアイツのプレゼントを考えるのに、すっげぇ悩んだんだぞっ!」

怒られるにしても、こういうことなら恐くない。

「出来るんですか?」嬉しそうな私の問いに、目をそらすゼフェル様。

「だから・・・さっさっとって言ってんだろう!時間がなさすぎんだよっ!」

ガッカリ。

他に何かできることはないかしら?

 

ルヴァ様なら何か良い知恵を貸して下さるかしら?

執務室にうかがうと、いつものあったかい笑顔に迎えられた。

水色のガラスのカップを探してることを話すと、しばらーく首をかしげた後で言った。

「あー、そういうもののことはリュミエールの方が良く知っていると思いますよー。」

ガクッ、プレゼントする相手に聞くのぉ?

何か釈然としないまま、まぁ、プレゼントすることを伏せておけばと思って

リュミエール様のところへ向かう。

 

途中でマルセル様にであった。ダメもとで聞いてみようかな?

「このティーセット全部揃ってないんです。なんとか全部揃う方法ってないでしょうか?」

「う〜ん。」悩むマルセル様・・・やっぱりダメ?

「え〜と。」ダメなのね。

「そうだ!」えっえっ?何?

「これと同じティーセット見たよ。分けてもらうか、それを売ってもらったら?。」

マルセル様すご〜い♪聞いてみて良かった!

「どこにあるんですか?」

「ジュリアス様のところだよっ」

ジュリアス様の名前にプレッシャーを感じつつも、マルセル様にお礼を言うとジュリアス様の私邸へ。

 

厳めしい造りの応接室に通されると「探し物は、これか?」

執事さんから話を聞いて探して下さったらしい美しい箱を手にジュリアス様がやってきた。

白い箱を開けると中には神鳥の紋章の入ったクリスタルカットのグラスセットが入っていた。

差し出されたそれは指紋をつけるのも恐れ多いような、しかもティーを飲むにはトコトン不釣り合いなもので

早々に退散するしかなかった。

はぁ〜、うまくいくとは思ってなかったけどうまくいかなすぎる・・・。

 

まるで私ったら片っぽだけのガラスの靴をもってシンデレラを探してる王子様みたい。

「あぁ、ここにいらしたのですか。」川の側で座り込んでボンヤリしていると

熾天使の歌のような美しい声が頭の上に降ってきた。

「リュミエール様!」慌てて立ち上がると陽の光のなかでさえ淡い輝きを放つ優美な姿があった。

「お探していたのですよ。」ほんの少し首をかしげて柔らかな声で告げられると

胸のドキドキが爆発しそうに高鳴る。

「な・・・なんでしょう!」元気一杯の声で答えてしまって後悔する。

せめてリュミエール様の一億分の一くらい優美なしぐさがしたい・・・。

それでもリュミエール様はニッコリ笑ってうなずくと小さくて綺麗な包みを取り出した。

「この間おいでになった時、随分お気に入りでしたお茶を差上げようと思ったのですが

受け取っていただけますか?」

あっ、この間おいしくってねだってしまったハーブティーだわ。

リュミエール様のお誕生日だっていうのに反対にプレゼントをもらっちゃうなんて気が利かない私。

つい、はずみで持っていたティーセットを差し出す。

「あ・・・あの。これ、お誕生日プレゼントです。」

パーティー前に渡すのはヘンかしらとも思ったけど勢いだから止まらない。

それでもリュミエール様は嬉しそうに微笑む。

「ありがとうございます。見せていただいてもよろしいですか?」

恥ずかしいけどウンウンとうなずいた。

リュミエール様は美しい指先で私のプレゼントの箱を優美なしぐさで、そっと開いた。

笑顔を期待していた私は、その頬に真珠のような涙を見て仰天した。

「これは・・・、私の実家で使われていたものです。」

その言葉にただただ呆然としているとリュミエール様は私に渡した包みを開けて

丁寧にしまわれていたハーブの入ったカップとスプーンとソーサーを取り出した。

「あなたが水色のガラス製のカップを探しているとルヴァ様からお聞きして、

ハーブをプレゼントする時の入れ物に合いましたので差上げたのです。

家族と別れる時に私の分だけ持たされた大切な想いでの品ですが

あなたにならと・・・。」

一揃いのカップとソーサーとスプーンは私がプレゼントしたティーセットのと寸分違わない。

いえ、明らかに同じティーセットの一部。

そっと伸ばされたリュミエール様の腕に抱きしめられると水色の滝に包まれているようだった。

「ありがとうございます。再び家族と巡り会えたように嬉しいです。」

水色の滝の中に柔らかな光を放つ真珠が踊る。

不思議な巡り合わせに感謝しながら、リュミエール様の御家族を想うと私まで懐かしくて涙がこぼれてきた。

 

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****