不思議な国のハーブ・マジック
真珠作 協力ロゼ様&春花様
色々さんざん迷ってバースディプレゼントはハーブティーにした。
変わったものより、お好きなもののほうが良いと思うの。
でもね、でもぉ・・・私の育てたカモミールetcだけじゃ寂しいし
いつもと変わらなすぎるじゃない?なにか良いものないかしら?
私は町のハーブショップに出かけた。
珍しいチョコレート色の木と白い壁、天使の絵が踊る壁の模様に見とれながら
お店の不釣り合いなくらい小さな、しかし頑丈そうな扉をくぐると不思議な香りに迎えられた。
見ると沢山のハーブがキレイなガラスビンに入って天井まである棚にギッシリと並んでいる。
効能や由来を一つ一つ確かめながら、どれにしようか迷っていると
チリンとドアベルが鳴って私が入ってきたのと違うもっと小さなネコ用の?扉が開いた。
入ってきたのはネコのような耳のあるネコのような目をした男の子だった。
キチンとしたキレイなレースのブラウスに黒いスーツをきて
綿アメみたいなクルクルの金髪をせわしくかきまわしながら
時計とにらめっこして、こちらに気が付かない。
足早に真っ直ぐ私の方へ歩いてきた彼は思いっきり爪先にぶつかってきた。
「いたい!」思わず声をあげたら彼は始めて私に気が付いたみたい。
ペコペコとお辞儀をして恐縮しまくる。
「すみません。急いでたものですから。お怪我はありませんか?」
私の方こそ大きさが違いすぎて彼を怪我させたんじゃないか気が気じゃないのに・・・
慌てて彼を覗き込む。
「私こそ避けられなくてごめんなさい。怪我しませんでした?。」
そういうと彼はニッコリ笑うと大丈夫というようにピョンと跳んでみせた。
よかった。そう思うといきなり疑問がわいてくる。
「あの・・・どうして、そんなに小さいんですか?」
だって10センチくらいしかないんですもの。
「あなた様こそ、どうして大きいんですか?。」
聞かれて「えっ?」と思う。
私そんなに大きい方じゃないから、だって一番上の棚どころか三番目の棚だって届かないわ。
そう思って回りを見回すと私はハーブショップの天井を突き破って町中にタワーのように突っ立っていた。
「えっ?!だって今まで・・・」
足元で彼が叫ぶ。
「言い訳してるヒマありませんよ。ホラッ、王立派遣軍が!」
見ると本当にヴィクトール様率いる王立派遣軍がやってくる。
天井を壊された店主が連絡したみたい・・・どうしよう?!
彼がグイグイとソックスをひっぱる。
「こっちこっち」
そこには絶望的なくらい小さな穴があいていた。
「無理よ。入れないわ。」
そう言って片足を入れるマネをしたとたん耳元で風が鳴る音がして私は穴に吸い込まれていた。
出たところは聖地。
とりあえずは助かったみたいだけど私は大きいまま。
いやだわ!、これじゃあリュミエール様にお会いできない〜。
私は頭の中でキングコングと美女のような自分とリュミエール様を想像して
悲しくなってワンワン泣いてしまった。
ネコような彼は耳をピクピクさせて雨のような私の涙を払うとため息をついた。
「多分、ハーブ香りの複合作用で巨大化しちゃったんですねぇ。
ボクもネコ化しちゃってますよ」
「あ…あなた、ネコじゃなかったんですか!」ビックリした拍子に涙も止まる。
彼は心外そうな表情を浮かべると小さな袋を取り出した。
「実は、このなかには島が一つありまして、そこには、こういう場合もとにもどれるハーブをはじめ
貴重なハーブが沢山はえているそうです。」
言外に彼が行ってみないかと問うてるのはわかった。
私が頷くと彼は袋のクチを開けた。
袋のクチから島がひろがり私はジュラ紀のジャングルのようなところにいた。
目の前では決闘中だったらしいティラノザウルスが2匹
ゼフェル様とランディ様のコスプレをしてこちらを見て唖然として固まっている。
一人?が相手の首から牙を抜くと話し掛けてきた。
「アンサン、どちらからきはりましたぁ?見かけないお顔ですなぁ」
もう一人?も寄ってきて
「いやぁあ、かわったモンきてはる。いいがらやわぁ。どこでかわれましたの?」
なんでティラノザウルスとこんな会話しなきゃならないの?
と言葉とは反対に血まみれの大きな鋭い牙のある口で笑う死にそうなくらい恐い顔に脅えながら答えた。
「ピ・・・ピンクハウスです。」
二人?がウンウンと頷く。
「あそこのチョーカワイイのよねー♪」
「サイコォっていうかー、そんな感じよねー♪アタシのもみせてあげよっかなーって感じー♪」
あぁ、見たくない・・・心の中で思った時、再びソックスがひっぱられた。
ピンクハウスの服を着た姿を思い描いてウットリしている間に、ネコな彼とティラノ達から逃げ出した。
「どうなっちゃってるのー?もうイヤー!」
グシグシ泣きながら歩いていると彼がなぐさめるように言った。
「そう泣かないで下さい。貴重なハーブもあるそうですからハーブの好きな方にプレゼントしたら喜ばれますよ。」
効き目大だった。私は彼を肩に乗せるとルンルンでジャングルを草のように踏み分けて歩き出した。
だが・・・。
「ところで、元に戻るハーブって、どんなものなの?」
「ピンクと黄色の縞縞の葉っぱだそうです。」
それ大丈夫なの?と毒々しい姿を思い浮かべても言葉を飲みこむ、元に戻る方法は他にはないのだから。
目の前に、いかにも「これがそうだ!」みたいな、10メートルくらいの長さの葉っぱがデンと落ちていた。
私が大きくなかったら拾えなかったわねと、いささか矛盾した喜びを感じつつ手を伸ばすと
それは・・・ツッと動いた!。
もう一度、手を伸ばすと、またちょっと先に動く。
ヒモのついたオサイフみたいにからかわれているのかしら?と思たとたん頭に血がのぼった。
葉っぱについたヒモを思いっきりひっぱると火山の火口に繋がっているのが分かった。
その火山が爆発して中から釣竿をもった人が現れた。
筋肉の盛り上がる裸の胸を誇示するように反り返らせる、漁師姿のその人は・・・紛れもなくルヴァ様だった。
「釣れましたね。デカイ・・・。」
そこまで聞いて自分の大きさに心を痛めていた私は思わずかるーくどついてしまった。
ルヴァ様はアレ〜とかなんとか言ってどこかへ飛んでいってしまった。
あぁ、守護聖様をどついてしまったのかしら、私。
少し心配したが、あんなマッチョがルヴァ様のわけがないと思い当たって気にしないことに決めた。
今度こそと思って葉っぱに手を伸ばすと葉っぱは風に吹かれてマグマの中へ沈んでしまった。
ショックで真っ白になっていると、どこからか聞きなれた声が・・・
「お嬢ちゃん。お嬢ちゃんの落としたのは金の葉っぱか?それとも銀の葉っぱか?縞の葉っぱか?」
マグマの中から浮かんできたのは・・・オスカー様。
隣でマジックを持ったオリヴィエ様が顔に落書きしまくるけど
意に介さない様子で斜め35度の角度で決めポーズをとる。
「そんなものより俺の熱いハートの方が・・・」みなまで言わせずオスカー様の手から葉っぱをむしりとる。
グッスン、ゲラゲラ、そんな音が背後から聞こえたような気がしたが
葉っぱをゲットした喜びに気にしてなんていられなかった。
いそいでお茶にしようと彼と一緒に水を探していると木立の影からうさぎ耳のマルセル様がヒョッコリ顔をだした。
「なに探してるの?ボクが助けてあげようか?」
いや〜な予感に葉っぱを死守しようと後ろ手に隠していたのに
いつのまにか背後に立っていた黒いシルクハット姿のジュリアス様に取り上げられてしまった。
「ふむ、これはお茶にちょうど良い、マルセルこれでお茶にするのだ。」
思わぬ言葉にラッキーと思った、マルセル様とジュリアス様が天使に見える気がした。
マルセル様がポケットからテーブル、靴下からイスをだしてお茶の席をセットすると
ジュリアス様はシルクハットからハトとゾウアザラシのゴム人形をだしてクッションとテーブルクロスにした。
「これで準備は完璧だ。マルセルお茶を。」ジュアリス様が言うとマルセル様は葉っぱをテーブルに置いて
ジョウロで水をかけだした見る間にハーブは育って、天蓋を突きぬけていった。
ハーブティーにするための葉っぱはなくなり猛然と怒り出すジュリアス様
いつのまにか雲隠れしてしまったマルセル様。
私は自分の迂闊さを呪いながら葉っぱを求めて幹を登っていった。そして・・・雲の上に出た。
そこにはいかにも魔王の城と言った風情の城とライチの実をリスのように頬張るクラヴィス様が・・・。
「ねえ、ねえ。イヤなところに来ちゃったって思ってるね、君。」
見上げると黄色とピンクの縞の葉っぱの上に黒豹のセイラン様が寝そべっていた。
「早く葉っぱを取って逃げたいって思ってるね。」
軽くあくびをしながら私の心を読む。
ライチを食べ終わったクラヴィス様がセイラン様を手招いた。
そして2人は真剣な顔で「あっちむいてほい」しだす。
「勝った方があなたとマイムマイムを踊るつもりなんです。」
なぜか潜水服を着たティムカ様が恐ろしそうに私にささやいた。
もう大概の事では驚かなくなった私が、なんで潜水服を着てるか聞こうと思った途端
雲の水平線?の向こうから大波が押し寄せてくるのがみえた。
ザザーン。モロに波をかぶってクラヴィス様とセイラン様は
「あっちむいてほい」しながら実は張りぼてだった城と流れていく。
ティムカ様は潜ってしまったのか、もう見えない。
ネコな彼は泳げないのか苦しそうだ。だけど私自身も助ける事が出来ない。
「わいが助けたる。そやから100万円はらってや。」
メルさんをボート代わりにした商人さんがやってきて言った時には思わず
助けてもらおうと手を伸ばしてしまった。
だけど波間からエルンストさんが顔を出し「足たちますよ」といわれて我に返った。
そうだ!私おおきかったんだわ!
立ち上がってネコな彼を助けると、「営業妨害や」と怒る商人さんが
高笑いしながらピチピチと跳ね逃げていく人魚姫なエルンストさんを追いかけて行くのが遠くに見えた。
元に戻るハーブは流されてなくなり
後には波間にゆらぐ不思議な金色の花があるだけだった。
ネコな彼は興奮して花を集めさせた。
「これは、とっても貴重なハーブですよ。よかったですねぇ。これプレゼントにするなら最高の品ですよ。
どなたかにプレゼントするハーブを探して店に行ったのでしょう?」
私は見向きもしないで波間をゴジラのように歩いた。
「ダメよ。プレゼントがあったって、こんな姿じゃ渡しにいけないわ。」
ネコな彼はピクピクと耳をふるわせた。
「宅急便はいかがですか?」
「店のおじさんが逃げるわ。それに私の大きな手に合うボールペンもないし・・・。」
私が泣くと海の水が増えていった。
やがて、トプン頭まで浸かってしまった。
もう溺れちゃうのね。そう思ったけど苦しくない・・・?
目を開けると私は自分のベットの上だった。
夢???
そういえば・・・ハーブショップに行ったのは昨日のこと。
好きな人の枕と自分の枕の下に入れて寝ると結婚する運命なら、
お互いにお互いの夢を見れるというハーブをもらって、
こっそりリュミエール様の枕の下と自分の枕の下に入れて寝たんだわ。
ショックだわ。
リュミエール様なんて、ぜんぜん出て来なかった。
私は枕の下のローレル、月桂樹の葉をつかみ出すと窓の外に思いっきり投げ捨てた。
「もう、サイテー。」
リュミエール様以外なら皆様でてくるヘンテコな夢なんて、
リュミエール様との仲は絶望的ってコト?
落ち込んで床に座りこんでいるとトントンとドアをノックする音。
どうにも止まらない涙目でドアを開けると、
「あっ…。ネコな彼。」いやリュミエール様の執事の男の子。
そうネコな彼は、この子だった。
部屋に入ると落しましたよと、さっきのローレルとカードを渡してくれた。
リュミエール様のお誕生日祝いのパーティの招待状。
「でも・・・私・・・。」もう勇気はペチャンコ、
結局ハーブショップではプレゼントとして胸を張って出せそうなものは見つからず
店のおじさんから貰ったローレルだけを持って帰ってきた。
それでも、リュミエール様の夢が見れたら、
ありったけの勇気を出して私の育てたハーブをティーにした詰め合わせを贈ろうと思ってた。
でも・・・。
「へえ、ずいぶん無理なさいましたね。こんな貴重なハーブを手に入れるなんて
リュミエール様にプレゼントするためでしょう?」
えっ?
見るとベットの上に夢で拾い集めた不思議な金色の花が散らばっていた。
さっきは、なかったのに・・・?
「リュミエール様お喜びになりますよ。さあ、着替えてきて下さい、早く。」
ドレスを着てお邸にうかがうとパーティ会場はカラだった。
「まだ皆様おいでになっておられませんよ。」ネコだった彼が笑う。
不思議に思って私だけ早く招待された理由を聞こうとすると彼はテラスの扉を開けて庭に差し招いた。
小さな白い花を沢山つけたタイムの中にリュミエール様が立っていた。
白い内からなる輝きに包まれた姿は聖天使、すけるような優美な指先にローレルの葉を持って・・・
ローレル???
私は知るよしもなかった。
ネコだった彼が背中に貴重なハーブ入りのリュックを隠していて
私が行き渋った時には最初っから使うつもりだったコト、
リュミエール様の枕の下に隠したローレルを見つけて犯人が私である事も調べて
リュミエール様に告げ口していたコト。
それを聞いたリュミエール様が・・・ローレルの葉を片手に微笑んだコトも。
「私は昨夜あなたの夢を見ました。あなたは・・・?」
少し不安そうなリュミエール様の表情に本当のコトなんて言えなかった。
私は何故かバレてしまった事にパニックを起こしながら一応うなずいた。
そして・・・いたずらっぽく笑うネコだった彼の煎れてくれた
私のプレゼントのハーブティーを飲みながら本当の夢の話をした。
だって、ウソはつけないじゃない?。
それに、この夢が今この時この場所に不思議だけど繋がっている気がするの。
だから・・・。
リュミエール様も不思議な夢に驚いたり心配したりしながら喜んで下さった。
それにしても、疑問が残る。
結局リュミエール様は貴重なハーブより私の育てたものの方を喜んで下さったけど、
あの貴重なハーブは、どうして夢で拾ったハーブと同じだったのかしら?
ちょっと不安になった・・・これも夢だったら、どうしよう?
でも頬をつねる勇気はでない。一生さめたくないくらいの今だから・・・。
それよりも、ヘンテコな夢に疲れていた私はちょっぴり眠くなってきて・・・
・・・フワリと抱き上げられた気がした。
終
****
水鳴琴の庭 金の弦 ****