ちょっぴり大人な物語
真珠
今日はリュミエール様のお誕生日♪
腕によりをかけてつくったお料理は、まずまずの出来栄え。
そして・・・手作りのプレゼントもOK。
早く帰って来ないかしら?今日ばかりは女王業は廃業、オタマのハジをくわえて旦那様の帰りを待つの。
あっ!馬車の音だわ♪
あわてて玄関にかけつけると、やっぱりお帰り。
お帰りなさい、かけよって抱き付くとサラリとした髪の感触と甘いキスがふってくる。
甘えた振りしてもたれかかると、そっと私の腰に手を回しひきよせる。
お互いの胸の高鳴りが聞こえた気がして瞳を覗き込むと海の色は、とても深くて溺れそう・・・
いいえ溺れてしまいたい。
「そんな顔をしないでください。あなたと離れていた時間を憎んでしまいそうです。」
私も・・・、言葉を出す前にふさがれてしまった唇があつい。
夢中で腕を伸ばして神の奇跡さえも及ばない美しい背にまわすと
優美な腕が私を強く抱きしめる。
抱き上げられ近くにあったソファにおろされると聖なる滝にうたれるように、そのなかにつつまれた。
あつい感覚が首筋をなでていく・・・。
「パパァ、おかえりなしゃーい!」
聞いた次の瞬間、2人は行儀よくソファの端と端に腰掛けていた。
「あえ?お顔まっかでしゅよー。どーちたのぉ?おびょうき?。」
そのままリュミエール様を3才にしたような女の子がうさぎのぬいぐるみを抱えて立っている。
あわてて衿をなおしながら心配そうな、その愛娘を抱き上げる。
「なんでもないのよ。アモリール。今日はパパのお誕生日でしょう?おめでとうも言ってね。」
うん、とうなずくとアモリールは大好きなウサギのぬいぐるみを私に預けると
リュミエール様の膝によじのぼって頬にキスした。
「おたんじょーび、おめでとー。」頬をゆるめて娘にキスをかえすのを見ると、ちょっと妬けちゃう。
プクンと頬をふくらませていたら、リュミエール様に見つかってしまった。
アモリールにうさぎを渡す時、こっそり肩を抱いて私にもキスしてくれた。
食事は・・・やはり戦争だった・・・。
まだ使えないフォークとナイフをふりまわしたがるアモリールに2人とも戦々恐々。
せっかく、てまひまかけた料理も味わうどころの話じゃなかった。
でも、食事が終わって、おなかいっぱいのアモリールはおねむ。
ソファでミルクを飲みながらウトウトしだした。
彼女がうさぎを抱えて丸くなると、リュミエール様は洗い物をする私を後ろから抱きしめた。
首すじにリュミエール様の髪がくすぐったい。
「執務で疲れているのに、ありがとうございます。おいしかったですよ。」
味わうどころじゃなかったのに・・・でも、その言葉が嬉しい。
洗い物を明日にまわして、アモリールに見つからないように隠しておいた包みをだす。
「あの・・・私からも・・・。」
リュミエール様の胸についたアモリールのプレゼントの折り紙のコサージュを指で弾いて、それだけ言うと
ちょっと照れくさくて包みを押し付けるようにわたす。
嬉しそうなリュミエール様が音をたてないように包みをあける。
どういうわけか子供は、この手の音に敏感だから。
中身を見るとニッコリ笑って私の耳にささやいた。
私は、真っ赤になりつつも予想していたことだからコクリとうなずいた。
アモリールにタオルケットを掛けるとリュミエール様と手をつないで部屋をでた。
「もう少し、こちらへきませんか?」
浴室は音が響く、私の胸の音も聞こえそうでバスタブのハジッコにしがみついていたら
リュミエール様の腕にからめとられて、膝の上にのっていた。
目の前の胸に頭をつけると、やさしい鼓動が子守り歌みたいに私を落ち着かせてくれる。
お湯の暖かさより優しい暖かさに包まれて幸せすぎて、泡のようにフワフワ飛べそう。
私の肩にもかかる水色の流れは水より水の美しさをあらわす至宝。
私はリュミエール様の髪にウットリしながら言った。
「あの、髪をお洗いします。せっかく・・・だし。」
リュミエール様の髪は、夜お休みになってもクセがついたりからんだりしない
だから、朝ブラッシングさせてもらっても、ものたりない・・・というかさわりたりないというか・・・。
不純な動機で思い付いたシャンプーとリンスのプレゼントなのだけど
「そうですね。せっかく、プレゼントしていただいたのですからお願いします。」
やっぱり良かった。
普段お手入れもしていないのに少しも痛んでない髪を、さらに傷めないように丁寧に泡立てて洗う。
「良い香りですね。」
私が育てたハーブが入っているので、甘く柔らかな香りがする。
小さな事でも気づいてもらえると嬉しくてプチプチはじける泡の音さえたのしげに聞こえる。
「今度は私が。」リュミエール様は洗い終わると私の髪に手を伸ばした。
子供みたいに膝に乗せられると、お湯の中より意識してしまう。
胸に片頬をつけて目を閉じても鼓動は高鳴るばかりで今度は収まってくれそうにない。
心地良い指先に髪を梳かれても、そこから熱くなっていくよう・・・。
髪を梳いていた指先が背中をかすめて、なにかが全身をかけめぐる。
「アモもはいりゅー!」
反射的に湯船に飛び込んでいた。
すでにアモリールは素っ裸で頭にはシャンプーハット、手には水鉄砲とアヒルのおもちゃがあった。
シャワーも、そこそこに湯船で遊びだす。
「アモリール、寝てたんじゃないの?」
「うん。でも、メメさめちゃったー。」
昼間あれだけ遊ばせておいたのに・・・子供ってあてにならない。
昼間の自分の苦労が無駄だったと知って少し疲れを感じた。
「いいにおいー。アモもーアモもやってー。」クンクンとリュミエール様の髪の匂いをかぐと言い出した。
「はいはい。じゃあ、お湯をかけるから目をつぶって」
プルプル首をふってシャンプーハットをかぶる。
「でも、泡が飛ぶかもしれないでしょ。」あわててギュと目を閉じる。
アモリールの髪はリュミエール様と同じ色。
愛しくて丁寧に小さな頭をあやすように洗っていると、後ろから同じ色の髪が私をつつむ。
そっと私は、ふりむくと手だけはアモリールの髪を洗いながら頬をすりあわせくちづけする。
やがてリュミエール様の手は私の髪を再び梳きだし、洗いかけだった髪のシャンプーを泡立てる。
流れるような指の動きに、いつもより随分長くアモリールの髪を洗ってしまった。
もちろん、しっかり目をつぶらせたまま。
お風呂からあがると、アモリールに寝間着を着せる。
自分の濡れた髪を乾かすのは後、
やわらかいタオルで髪を叩いてバスローブから寝間着に着替えさせる。
やっと、飲み物を与えてホッとしたらリュミエール様は着替え終わって、もう髪もかわいている。
ちょっぴり残念で口をとがらせていると、アモリールがマネをする。
「アモ、ママのマネしちゃダメ。」「どーちてー?パパはかわいいっていうのに。」
えっ、と思って目を上げるとリュミエール様がいたずらっぽく微笑んでいる。
私は耳まで真っ赤になりながら、ともかくダメといいながらアモリールをベットに寝かしつけた。
「ママもいっちょにねんね。」半分、上掛けから顔を出して天使の顔でお願いされるとイヤとは言えない。
添い寝してるうちに、結局つかれも手伝って眠ってしまった。
優しい感触に寝ぼけた目をあけるとリュミエール様は私の髪にタオルを柔らかくあてて
乾かして下さっていた。
「すみません。おこしてしまいましたね。髪を乾かさないと風邪をひくのではないかと心配だったのです。」
おだやかなナイトライトの中で微笑むリュミエール様は白いガウンを着ていた。
「着て下さったんですね。」
そういって第3のプレゼントである手製のガウン、縫い目も刺繍も上手とはいえないものに目を向けて・・・
ギョとして飛び起きた!。
「ウ・・・ウソォ。私こんなにサイズ間違えてる!」
丈はぴったりだけど合わせはリュミエール様を更に一巻きできそう。
「いいえ、ピッタリですよ。」
「どこがピッタリなんですか!?ぜんぜん・・・」
リュミエール様は合わせを開いてガウンの中に私を抱き込んだ。
「ほらっ、ぴったりでしょう。」
そう言って、くちびるでまだ湿った髪と首筋をたどる。
くすぐったくて身を捩ってもガウンの前をしっかり合わせてあるから逃げられない。
笑いながらもみあっているうちに、くちびるが重なり擦れ合う胸のボタンがはずれ
リュミエール様の髪がふれるところを刺激する。
クン、ガウンのスソが何かに引っかかった感触がして2人が見下ろすと
「アモリール・・・?」寝ぼけまなこの愛娘はニッコリ笑って言った。
「アモもい〜れて」
ガウンは愛娘を入れても十分すぎる大きさだった。
終
**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****