「聞いて聞いて♪」 水色真珠

 

「ねぇ、ねぇ、ロザリア〜」

ロザリアが振返ると女王がバタバタと廊下をかけてきた。

「なんです、陛下?。女王ともあろうものがはしたない。」

ロザリアの小言はどこ吹く風。

女王は補佐官のドレスをハシッと掴んでひっぱる。

「でも〜、聞いて聞いて。」

「はいはい。クリスマスイブになにかありましたの?」

また新婚の女王の、毎朝のノロケ話しかも?と思いつつ

昨日はクリスマスイブだし本当に何か特別なことがあったのではと

頷いてしまうロザリア。

ロザリアは、この友人が本当に好きなのだ。

「ううん、違うの。

あのね〜、今日なの。珍しく私の方が早く起きたの。

それでね〜リュミエール様の寝顔みちゃった♪きゃ♪」

「はいはい…。」

大切な友人だが少し頭が痛い。

今は朝の支度をしないですむ召使着きの身分だからいいが

もともと庶民のこの友人は女王を退位したらやっていけるのだろうかと…。

いや、いや、退位しても元女王と元守護聖…お金は腐るほどもらえるし

そうなれば、大貴族様なのだから

いらぬ心配ですわねと思いなおす。

「リュミエール様ってば…まつげが、すご〜く長くてね。

綺麗な曲線を描いてるの〜。

あっ!でもねぇ、それだけじゃないのよ。

ベットの上に広がる艶やかな髪も

そりゃあ、美しい清んだ湖のように綺麗な色なのよ。

それでねぇ、目を覚まされると

湖に光が差し込むように深い色の瞳が輝き出して

優しく微笑んで私を抱きしめると

おはようございます、アンジェリークって

ベットの中で抱きしめてキスしてくださるのぉ〜♪

いや〜ん、ロザリアったらH!」

聞き出したわけではないのだが…

心の広い補佐官は錫状を握り締める手を震わせながら

うなづいてやる。

それにしてもクリスマスイブに何かあったのかと思えば

普段と変わらずにイチャイチャしていただけなのですわねと

青筋が立つのだけはとめられない。

毎朝ここまで感動するアンジェリークもアンジュエリークだが

感動させる方も………まぁ、しかたないわねと諦める。

「それでね、それでね。朝食の前に

2人でお庭のハーブを摘んでお茶を飲むのだけど

ハーブの花を手に立つリュミエール様のお姿ってば…」

話が途切れたのでふりむくと女王は

両手を祈るように組み、あらぬ方を見ながら滂沱の涙を流していた。

補佐官があわてて頬を叩くとゼーゼーと息を切らせた。

どうやら息するのを忘れていたらしい。

水を取りに行こうとすると手を握られて廊下に座らされた。

「…でね、もう…なんて言ったらいいのか…

まるで…花の間に…天使様が降臨なさったみたいで…

美しすぎ…私…気を失ってしまったの…。」

よくわかる。よくわかったから、もう放して欲しい補佐官だった。

「き・・・気がついたらベットの上でリュミエール様の心配そうな瞳が間近にあって

大丈夫ですか?アンジェリーク。執務が辛いなら休んで下さいって…。

とっても、お優しいの〜。」

執務がきついわけはない補佐官が新婚の女王を気遣って

クリスマス返上でこまねずみのように働いて

仕事のほとんどをこなしているのだから。

その見返りが、このノロケでは悲しすぎる。

思わずハンカチを目にあてる補佐官に女王は自分の都合のいい解釈をした。

「そーなの。お優しくて涙が出ちゃうでしょう。

私も嬉しくって思わずリュミエール様に抱き付いて泣いちゃったわ。

でもねリュミエール様が悲しそうになさって

そんなに辛いのですかって心配なさるんで、

慌てて違いますリュミエール様がお優しいから嬉しくってって

本当のこといって恥ずかしいからシーツに隠れちゃったの。

そうしたらリュミエール様ったら嬉しそうにお笑いになって

シーツごと私を抱きしめて、顔だけ出したら今度はくちびるにキスを…。

それでね、それでね、抱き合ってキスしながらゴロゴロ転がっているうちに

昨夜のこと思い出しちゃって♪

2人とも顔が真っ赤になっちゃったの

でも、リュミエール様は可愛いかったって言ってくださったから

私は、それじゃあ…もう一度って!。

あれ?

ロザリア?

どこいっちゃうのよ〜

ね〜聞いて聞いて!

それからね〜。」

 

補佐官とは、とても激務なのでございました。

 

END