異世界の女王試験2
-6 by真珠-
私達の幸せ-「ねぇ?ロザリア…私たち…」
「そ…そうね、保母化してるみたいね・・・」
いや〜!心の中で叫ぶと私達は抱き合ってすすり泣いた。
すると、いつの間にかディア様が私達のそれぞれの肩に手を置くと
空を見上げてつぶやいた。
「さぁ、アンジェリーク・ロザリア。あの女王の星を目指すのです。」
「ディア様…今は昼です。」
「女王の星なんてありましたかしら?」
ディア様はクルリと後ろを向くと、これだから今時の子はいやなのよと
呟きながら去っていった。
「ねぇ!ロザリア。私たちディア様に勝ったみたいよ!」
「ほ…本当ね…驚いたわ…」
でも、それってさらに保母
(女王)に近づいたってことじゃない…?2人がどんより暗くなっていると小さな足音が近づいてきた。
「アンジェ先生、ロザリア先生どうちたのでしゅか?」
心配そうにリュミエール様が見上げる。
首をかしげると白い可愛いおでこがサラサラの髪の間に見え隠れする。
だっこしたうさぎのぬいぐるみよりクリクリした愛らしい瞳が
心配そうに潤んでゆれている。
「なんでもないでちゅよ〜♪」「そうでちゅのよ〜♪」
いきなり、満面の笑顔でシャッキリ立ち直ってしまう私たちだった。
しかも、しっかり幼児言葉になってるし…。
「ロザリア…私、覚悟決めたわ!リュミエール様さえいらっしゃれば
幸せだもの…私が女王になるわ!ロザリアは…自由していいのよ…
無理やり補佐官指名なんてしないわ…。」
「アンジェ…」放心したように呆然としていたロザリアが
私の手を握った。
「いいえ、私を補佐官に任命なさい!あなた一人になんて
危なっかしくて任せておけないわ!」
「いいの?ロザリア…」いつもの高慢な仮面を脱ぎ捨てた素のロザリアが頷いた。
2人の心が初めて本当に1つになった。
「よくやったアンジェリーク・ロザリア」
ディア様を従えた陛下がベールの下で優しく微笑ながら現れた。
「女王と補佐官は一心同体、どちらが欠けても保母の仕事は出来ないのだ。」
「あなた方2人なら、きっとどんな事があっても乗り越えていけるでしょう。」
女王の目に涙が光る。
「私達は既に腰痛と肩こり・眼精疲労で、もうもたぬ。後は頼んだぞ。」
「あなた達も体に気をつけて下さいね。」
こうして保母のサクリアに目覚めた私とロザリアは
次代の女王と補佐官となった。
ぷくぷくした小さな手で毛布を握り締めるリュミエール様の可愛らしい寝息を聞きながら
私とロザリアは目の前の守護園児様達にニッコリと微笑んだ。
「ほほほほほほ…皆様、お昼寝の時間に起きているとは良い度胸ですわ。
陛下いかが致しましょう?」
「まぁ…ロザリアったら、決まっているじゃない。うふ。」
守護園児様達が蒼白になって後ずさりする。
「ち…ちかたないのだ!もそもそクラヴィチュが、ちょくむたいあんだから…注意を…」
「お…おぞうちゃんたちに、しょんなに見ちゅめられると俺はねむれないのしゃ。」
「チュピが遊ぼうっていったんでしゅ〜」
「だって〜、ねちゃうとネールアート乾いてないのにくっついちゃう〜」
「ははは…どうちたんでしゅか?オレむずかちいことわかんないや」
「あ〜ランディ。なら黙っていちゃ方が良いでちゅよ。
本を読んでいちゃ私も、宮殿の壁をロッククライミングちていたランディも
陛下たちのお怒りをかっているのは、おなちでしゅからね。」
素早くエアー三輪車で逃げ出そうとしたゼフェル様だったが
膝の裏をロザリアに錫杖で軽く突かれて転倒する。
「な…なんだよ、テメーら。ディアたちとおなちじゃねーか。」
クラヴィス様がうなずいた。
「ふ…占いにも、しょうでている。」
ロザリアがクスリと笑った。
「まぁ、私達がディア様達と同じかどうか後で、よ〜くわかりますわ。」
「そうね、とりあえず三時だしオヤツにしましょう」
ロザリアがディア様のような慈愛にみちた微笑でリュミエール様を起こす。
「むにゅ?」まだ目覚めきらないのかリュミエール様がロザリアの胸に
頭をこすりつけ、私達の手のひらに収まってしまうような小さく可愛らしい手で
目をこするのを止めさせる。
「リュミエール様、お目覚めですか?目はこすると腫れてしまいますから
お顔を洗いましょうね。」
リュミエール様の仕草のひとつひとつ、それぞれの
あまりの可愛さに歓喜の涙を流す私たちを、
やや引きながら見ていた守護園児様達が気抜けしたようにホッとしたところに
私は皆様の頭をいいこいいこすると囁いた。
「皆様のだ〜いすきなおやつを揃えてありますからね。」
ロザリアが錫杖でドンと床をつく。
「ほーほほほほほほほっ、おのこしは…許しませんわよ!」
「寝不足も好き嫌いも皆様のためになりません。それをわかってね。」
そして悲痛な悲鳴と怒声の中でおやつタイムは始まった。
ジュリアス様にはチャーハン、クラヴィス様にはエスカルゴ、ルヴァ様にはワラビモチ、
オスカー様にはグリーンピース、オリヴィエ様にはタバスコ、マルセル様にはピーマン、
ランディ様にはトマト、ゼフェル様には砂糖2倍と
それぞれの苦手な食べ物がたっぷり仕込まれたケーキに悶絶する守護園児様達の中で
リュミエール様だけがわけもわからずに首をかしげながら
私達のお手製のケーキとミントティを美味しそうに召し上がっていた。
「あら?リュミエール様ホッペにクリームが…」
クリームをとるふりをして柔らかな白桃みたいな頬をなめると
くすぐったそうに首をすくめる。
クリームより甘くて良い香りに思わず抱きしめると
リュミエール様には見えないようにロザリアの錫杖が私の後頭部をついた。
「いやん、ロザリアったらみてた?」
「ほほほほほ…犯罪ですわよ、陛下。」
完
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水鳴琴の庭 金の弦 ****