異世界の女王試験
by真珠厳かに次元回廊の扉が開くと中央の高くなった場所にベールを目深にかぶった神々しい女王の姿が見えた。
ピンク色の髪の補佐官にうながされてライバルと共に前に進み出ると
2人に補佐官からいくつかの赤と白のツートンカラーのボールが手渡された。
「これより次の女王を決める為の試験をおこなう。」
女王が宣言すると補佐官は続いて女王候補達に赤い長方形の手帳のようなものを手渡した。
「これから試験の方法を説明します。」
女王候補達は緊張感を高める。手に汗がにじんでくる。
「飛空都市には守護聖という方々がいらっしゃいます。その方々を…。」
補佐官はツートンカラーのボールを示して
「これで
ゲットして育成、育てた守護聖様でバトルして勝った方を次の女王とします。」2人の目が点になったのもかまわずに補佐官は淡々と続ける。
「この手帳のようなものは守護聖図鑑です。
これを守護聖様にむけると守護聖様の説明を聞くことが出来、ゲットすれば詳しいデータが集められます。
身分を証明するものでもありますから紛失しないよう気を付けて下さい。
それから守護聖様が怪我をしたり疲れた時は治療しますから
私のいる守護聖様センターに連れてきて下さいね。」
「最初の一人としてサンダー・ジュリアスかゲンガー・クラヴィスを与える。」
「女王が自らゲットして育てられた強力な守護聖様ですよ。大切にして下さいね。」
補佐官の差し出すボールのどちらがジュリアスかクラヴィスかはわからない。
意を決して手を伸ばすとライバルの方が素早くボールをつかんでいた。
彼女は自信にあふれた笑みをうかべた。
「私のはジュリアス様よ。ほっほっほっ、私が勝ったも同然ね。
まぁ、最初から女王となるべく教育を受けてきた私にかなうわけないわね。」
アンジェリークはゲンガー・クラヴィスを手に高笑いしながら去って行くライバルを悔し気に見送った。
アンジェリークはクラヴィスをボールから出してみた。
「クラヴィス様、私はアンジェリークといいます。よろしくお願いします。」
「……。」
「えっ?何かおっしゃいましたか?」
「眩しくてかなわん。なかに戻してくれ。」
アンジェリークがシュンとしてしまうとクラヴィスは公園に行くようアドバイスをくれた。
公園に着くとロザリアがいた。
「あら?アンジェリークじゃない。ふふふ、見て!私がゲットした守護聖様を!!」
ロザリアのまわりではジュリアスやファイヤー・オスカーそしてガーディ・ランディが
トレーニングをしていた。
「どう?バトルには最適のメンバーでしょう?私は、この3人で十分。
この3人を徹底的に鍛えて強くするわ。あなたもせいぜい頑張ってちょうだい。
もっとも、いくら頑張ったって私にかなうわけないけれど。ほーほっほっほっ。」
短時間のうちに2人もゲットした手腕といい人選といい、
アンジェリークには到底マネできるものではなかった。
落ち込んだアンジェリークをよそにロザリアが去った後、花壇の土がモコモコしているのに気がついた。
アンジェリークは守護聖図鑑を向けてみる。
「地の守護聖ディグダ・ルヴァ。本来、素早いはずだが何故か素早さが低い。知能の高さは守護聖一。」
アンジェリークが何もしていないのにクラヴィスは勝手に出てきた。
「ルヴァ、話がある。」
その声に土の中から本を手にルヴァが出てきた。
「おや〜っ?クラヴィスでしたかぁ。今日は良い天気ですねぇ。
こんな日は外でいただくお茶もいいでしょうねぇ。そうそう…この間よんだ本に…。」
クラヴィスが目でゲットしろといっていたのでアンジェリークはボールをなげた。
いいのかな?と思ったがルヴァは簡単にゲットできた、
それでもルヴァはボールの中で本の話をしつづけていたが。
アンジェリークはちょっぴり心配になった。本当に、この人達でロザリアに勝てるかしらと。
次にクラヴィスの指示でアンジェが向かったのは森の湖だった。
ルヴァのお茶飲み仲間がいるというので。
アンジェリークが森の湖に足を踏み入れると何かが滑るように水の中に逃げ込んだ。
びっくりしているとルヴァが勝手に出てきた。
「あ〜リュミエール。お茶をいただきにきましたよ〜。」
「ルヴァ様、私は争いごとは…。」
「あ〜、そーですねぇ。私も本を読む方が好きですよぉ?」
アンジェリークは頭を抱えつつ守護聖図鑑をむける。
「水の守護聖ハクリュー・リュミエール。争いは嫌いで優しく大人しい。
空を飛んだり天候を変える能力がある。」
アンジェリークは目の前が真っ暗になった。こんなパーティでは絶対に勝てっこない…。
どう育てたとしても何事も億劫なのとか、本を読んでばかりいる動きの遅いのとか、
戦い自体が嫌いなのとかでバトルなんて成立もしないだろう。
しかしリュミエールはクラヴィスとルヴァにひかれてか
いつのまにかアンジェの後をついてきていた。
アンジェが占いの館の方へと歩いていると、どこからともなく泣いている声がする。
するとリュミエールはフワリと空中に浮きあがり声の方へ向かっていった。
アンジェリークも後を追うと、木の切り株の上でリュミエールに慰められている守護聖がいた。
「緑の守護聖プリン・マルセル無邪気でかわいらしいが怒るとすぐふくれる。」
またか…とアンジェは思ったが
「大丈夫ですよ、マルセル。私達と一緒にアンジェリークと行きましょう。
心配しなくてもアンジェリークは優しい方ですからランディとも会えますよ。」
私達って…。いつ、あんたをゲットした!?と叫びたくなったが優しいと言われては弱かった。
「ランディ様はロザリアといらしたわ。たぶんバトルの時会えると思うけど?」
「ありがとう!アンジェリーク!!ボク、アンジェリークだーいスキ!
ロザリアはね、ボクが弱くて役に立たないからってランディだけを連れてっちゃったんだ。
ヒドイよねっ。」
ピンクのホッペをプクンとふくらませるマルセルは可愛かったが、確かに戦力にはなりそうになかった。
ぎゃああああああああああああああっ!!
その時、凄まじい悲鳴が森の中に響き渡った。
そして道の向こうから走ってくるのは…アンジェが守護聖図鑑をむけると。
「夢の守護聖ルージュラ・オリヴィエけばけばしいが、とても美しい守護聖でキレイなものが大好き。
他人に化粧したがる悪いクセがある。」
オリヴィエは人影を認めると方向転換してアンジェに向かってくると
いきなり抱き付いてきた。
「いやああああああああああ、カエルふんじゃったわ〜っ。カエル!カエルよ〜っ!」
アンジェは耳もとで叫ばれて目眩がしてきた。
「もうカエルはいません!叫ぶのを止めて下さいっ!」
「あはは、ごめんねー。あたしカエル苦手なのよ。」
マルセルがホッペをふくらませてオリヴィエにつめよる。
「オリヴィエ様!いきなり女の子に抱き付くなんて…。」
だが、その言葉はオリヴィエの意味ありげな笑いに途切れた。
「うふふっ、マルセル。あんたアンジェと一緒にいるの?。」
マルセルはアンジェの後ろに隠れてコクコクと頷く。
アンジェもイヤ〜な予感がしたが時すでに遅かった。
「きーめたっ!じゃあ、あたしもアンジェと行くわ。いいわよね、アンジェ?。」
キラリと鋭い爪を光らせる有無を言わせぬ調子に思わず頷いてしまう。
「よっしっ!じゃあ、お祝いにマルちゃんをキレイにしてあげるぅ!」
まわりではマルセルとオリヴィエのおいかけっこになってしまったが
今までで一番バトル向きそうなオリヴィエにアンジェは少しホッとしていた。
少し元気になったアンジェは占いの館についた。
そこにいたサラに占ってもらうと研究院が吉と出たので研究院にむかった。
ふみっ、歩いているとアンジェは何か柔らかいものを踏みつけた。
「いってえええええっ!!てめぇ!どこに目つけてんだよ、いてぇだろう!」
ルヴァが勝手にボールから出てきた。
「あ〜、ゼフェル。道の真ん中に寝ていたのに、そんなに怒ってはいけませんよぉ〜
そもそも道と言うのはぁ〜」
ルヴァのお説教にゼフェルが「もっと速くしゃべれっ!」とか「関係ないことまでクドクド言うな」とか
気を取られてるスキに守護聖図鑑をむけてみる。
「鋼の守護聖マンキー・ゼフェル怒り出したら手がつけられないが非常に手先が器用で何でもつくれる。
頼りになる守護聖。」
頼りになると言う言葉だけが頭の中で幾度も共鳴しアンジェの目が輝いた。
やっとまともな戦力を手に入れられると思いこんでしまったのだ。
アンジェはボールを握り締めるとゼフェルの後頭部めがけて思いっきり投げつけていた。
ゼフェルはボールの中から罵声を浴びせてきたが意気あがるアンジェの耳には届かなかった。
アンジェは育成をはじめることにした。
しかし、始めてみると自分のゲットした守護聖達がいかに使えないかが身にしみてわかった。
明るいところに出てこないし動くのが嫌い全てに無関心なクラヴィス。
一生懸命なわりに何事もスローモーで本ばかり読んでいるルヴァ。
争いではなく自己鍛練だからとトレーニングさせても非力なリュミエール。
遊ぶことが先行して何かやらせようとしてもふくれるばかりのマルセル。
ツメが傷むとか肌が荒れるとかいってエステばかりしているオリヴィエ。
トレーニングもせず自分の好きなものをつくりつづけるゼフェル。
少しのトレーニングの結果も出ないまま月日がすぎた。
その間の唯一の収穫は彼らと仲良くなれたこと…それだけだった。
バトルの日がきた。
アンジェリークは腹を括って研究院にむかった。
女王と補佐官、そして既にロザリアがきていた。
「あらっ?アンジェリーク!シッポをまいて逃げたと思っていたのに身のほど知らずね。
まぁ、いいわ。その心意気に免じて徹底的に叩き潰してさしあげてよ。」
女王が厳かにバトルの開始を告げると補佐官は2人の間に立った。
「この惑星を御覧ください。」バトルの会場となる星が示される。
「この惑星は未だ安定せず生物も存在しません。」
「バトルの会場としてうってつけというわけですわね?」ロザリアが嬉しそうに声をあげる。
補佐官はゆっくりとうなずくと続けた。
「ゲットした守護聖に力を送ってもらって速く中央の島まで家を建てた方の勝ちです。」
「へっ?」ロザリアとアンジェの目が点になった。
「バ…バトルって戦わせるんじゃなんですか?」アンジェは思わず言っていた。
「まさか、そんなことをして守護聖様に万が一のことがあったら宇宙が崩壊してしまいます。」
補佐官は心外なという顔で2人を見る。
「はじめよ。」
女王の有無を言わさぬ声に強引にバトルが始まった。
どう頑張っても3人しか守護聖のいないロザリアに勝ち目はなかった。
アンジェリークは圧勝し、次期女王はアンジェリークに決まった。
じ・え・ん・ど
**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****