悪夢   水色真珠

森に囲まれた、ほの暗い空間の中で唯一空から光の差し込む湖面は光の柱の立ち並ぶ2人のための教会、

湖畔に降りしきる雪のような小さな花は祝福の優しい香りに包まれていた。

あの方の水色の髪が光の柱の中でさえ柔らかな輝きまとい、

全次元の宇宙を探しても絶対無二の至高の美しさを持った姿を包み込んでいる。

私に合わせて、その長身の身をおり前かがみになり目線の高さを合わせると

優しい海色の瞳が愛しげに微笑み、桜色のくちびるが寄せられた。

サラリと髪が流れて目の前に白い首筋が、そして耳元に熾天使の声がささやく。

「愛しています…

私も… 高鳴る胸の鼓動が邪魔して唇が動かない、

気持ちを落ち着かせようと目を閉じて息を整えるとありったけの勇気を振り絞って、

目の前の限りない広さと深さを示す海色の瞳を見つめ返した。

 

「?」

目の前にあったはずの、その瞳は何故か遠かった。

そして…。

「私も…」答えたのは嬉しそうに頬染めた金色の髪の少女だった。

 

ベッドの上に起き上がったロザリアは激しく息を乱し、顔を覆った両手を冷たい汗がぬらした。

「私ったら…なんていう夢を…。」

だが理由はわかっていた。

「あれの…せいね…。」

うつろな瞳を向けると、それが悪魔の笑みを浮かべたような気がして悪寒が走った。

でも…手放せない…もらわなければ良かったと、わが身を呪うけど…もう遅い。

 

まだ夜中の2時、起き上がってガウンを羽織るとフラフラと歩き出した。

灰色の箱に収まった妖しい輝きに導かれて手を伸ばすと壁越しに聞きなれた音が聞こえた。

「あの子…

愕然とした。同じものをもっている彼女にも同じ運命がと思うと胸が寒くなる。

「なんとかしなくては…。」

ドアに向かうと開ける前にノックする音が響いた。

その切羽詰った様子に、逃れられない恐怖覚えつつ扉を開けると…。

「アンジェリーク…。」

青ざめた顔の大きなエメラルドの瞳に涙が浮かんでいる。

「ロ…ロザリア…。わ…私…。」

「わかっているわ。お入りなさい。」

黙ってアンジェリークと手を取り合うとロザリアはアンジェリークが握り締めていたものを取り上げた。

アンジェリークは、わずかに抗うような仕草をみせたが

ロザリアの意図を察するとホッとして崩れるように座り込んだ。

「アンジェリーク…気持ちはわかるけど、熱暴走にはお気をつけなさい。」

「うん。ごめんね。こんなにやってたなんて気がつかなかったの。」

ロザリアは先ほどまで自分が手を伸ばしていた灰色の箱の蓋を閉めると

アンジェリークが持ってきたものをさしこんだ。

スイッチを入れると妖しい薄緑のライトがつきシュルシュルという聞きなれた音が響き出す。

座り込んだアンジェリークの前のTVモニターに派手な音楽とともにタイトルが現れる。

『守護聖様をサルゲチュ!』

すでにアンジェリークはコントローラーをシッカリ握り締めている。

「もう少しで、ぴぽリュミ様をゲッチュだったのぉ。」

「あぁ…この面も最後に、ぴぽリュミ様が残ってしまうのね?」

コクコクとモニターを凝視しながらアンジェリーク。

「メンクリするには全部のピポ守護聖様を捕まえないといけないけど…」

ロザリアもコクコクとうなずく。

「ゲットアミをかけるのが申し訳なくって、いつも最後にぴぽリュミ様が残ってしまうのよね。」

アンジェリークの後から覗き込むロザリアの脳裏からは、

もはや彼女を止めようとしていたことは消え去っていた。

これこそが、このゲームの恐ろしいところなのだが…。

 

アンジェリークが寝てしまうとロザリアは電源を切って寝ようと思った。

…が、しかし先ほどの悪夢が蘇る。

アンジェリークばかりが、たとえ『ぴぽ』でもリュミ様をゲッチュなんて見ているロザリアにしたら

ムカツク…もとい不満がつのるのだ。

昨日も夕食の後あそんで今と同じパターンで見せ付けられたまま寝たから、あんな夢をみたんだわ。

ロザリアは決め付けるとアンジェリークの握り締めた手から

コントローラーを引き剥がすと自分が握り締めた。

その目は、すでに血走っていた。

 

森の湖に追いこんでハイハイで近づくと、黄ピポ状態でぴぽリュミ様は警戒中だった。

とっさに『いないふり』をする。

やがて青ピポになりハープを弾きだしたのを見てロザリアはニンマリと笑った。

背後からゲットアミを振り上げる。

「今日こそ、ゲッチュよ!」

 

その瞬間、甘い音楽が流れ出しピポヘルをかぶったSDキャラの画面が切り替わって

アニメーションが始まった。

ゲッチュアミをかぶったシリアスタイプの悲しそうな顔のリュミエール様がしゃべる。

「ロザリア…あなたが、このようなことをなさるなんて…。」

「きゃあああああ!!」

貴族出身の淑女にあるまじき悲鳴をあげて、ロザリアはベッドの上で飛び起きた。

激しく息を乱し、顔を覆った両手を冷たい汗がぬらした。

「私ったら…なんていう夢を…。」

 

悪夢に疲れ果てて昨日のどこまでが現実なのかも定かではない。

ロザリアは思いきって灰色の箱を小脇に抱えるとディアのところへ向かった。

思いつめた表情のロザリアの願いは優しい笑みとともに聞き入れられ

試験が終わるまで、それは預かってもらえることとなった。

 

久しぶりに眩しい日差しを浴びてロザリアは眩暈と開放感に似た喜びを味わっていた。

聖なる女王像に見守られ公園には光が溢れ、人々が楽しそうに語らっている。

『あんなものに現をぬかしていたなんて…恥ずかしいわ、

このロザリア・カタルヘナともあろうものが。

宇宙を救うため最も偉大な女王になるために生まれた私はアンジェに勝って

この女王像のように慈愛に満ち気高く美しい女王として宇宙を治めていかなければならないのに。』

ここのところ、アンジェの大陸の建物はロザリアと良い勝負で1個の差で勝ったり負けたりを繰り返している。

『育成しなくては…』心で呟いたとき、向こうの木の下から能天気な声が聞こえた。

「何をしてるんですか?」

甘く低い声が答える。

「俺か?そりゃあ、お嬢ちゃんのことを考えているに決まってるだろう?」

ロザリアは脱兎のごとくサラのところへ駆け込むと、アンジェリークとオスカーの親密度を占ってもらった。

その結果…ロザリアはオスカーにアンジェリークのゲットアミがかぶさっているのを見た。

『オスカー様は性格・行動パターンetcによって今晩からアンジェに力をたくさんプレゼントするわ。

そして明日は土の曜日…定期審査がある…。リュミエール様の前でアンジェに負けるわけにはいかないわ。

私も最も親密度が高く力をプレゼントしてくれそうな守護聖様を今日中に…ゲッチュしなくては!』

それは絶対に、アンジェとマジで張り合って親友でも譲れない本命中の大本命のリュミエールではなく。

 

結局は本命は後回しになるという悪夢から覚めゲームを手放しても、

あまりゲームと変わりのないパターンの現実だった。

 

END


女王   ディア。アンジェリークの持ってきたPSは熱暴走しやすい、とりかえてくれ。

ディア  陛下が連続して使いすぎなのですわ。

女王   だが、やめられぬのだ。(ディアににじり寄ってコントローラーをつかむ)

ディア  まさにサルゲーですわね。(言いながらコントローラーから手を離さない)

その後、宇宙の崩壊が早まった…らしい…(^_^;)


 

**** 水鳴琴の庭 金の弦 ****