ハロウィンナイト 真珠

 

その日、チャーリーはマルセルの執務室に呼び出されていた。

部屋にいたのは、マルセル・ランディ・ゼフェル・メル・ティムカ

いわゆる、お子様組の面々、そしてコレット・レイチェルだった。

 

「まいどーおおきにー。ご注文のモンもってきましたんやけど

ここに出していいんですやろか?」

期待に満ちた目の一同がコクコクとうなづくのを見て

チャーリーはジャ〜ンなどという擬音を口にしながら

異様に大きな唐草模様の風呂敷を開いた。

中からは、怪しげなカツラやマントなどが転がり出た。

ランディは物珍しげに小さな黒い布を拾い上げると

目の前に広げながら言った。

「陛下の命令とはいえ、これを着て脅かしながらお菓子を貰い歩くなんて

不思議なことやるんだな。」

ランディの手の中のものを指差して、ゼフェルは体を折り曲げ爆笑した。

「おめぇが、それ着るのかよ〜よせよ〜気色わりぃ〜ぜ!」

そう、それは艶ぽい黒いアミタイツだった。

みんなの、特にコレットとレイチェルの冷たい視線が注がれるがランディには、

それが何であるのかの知識はなく単なる黒い網としかとらえていないとわかった時

一同の非難の目は持ってきたチャーリーの方に移った。

「お化けに仮装するのに、なんでこんなのいるのよ!」

レイチェルに冷たく言い放たれて、チャーリーはたじろぎながら言い訳をする。

「あ…あのな〜ハロウィンにはバニーちゃんの仮装は、つきもんなんや〜

せやから、アミタイツも必要で〜」

そこで、いきなりマルセルが泣き出した。

「えっ〜、ひどいよ〜うさぎさんは、お化けじゃないし、アミタイツなんてはかないよ〜。」

メルも同情して泣き声の二重奏になる。

「ちなみに、これはなんですか?」

ひとつ、ひとつを丹念にながめていたティムカが肌色のモコモコしたものを持ち上げた。

助け舟とばかりチャーリーは嫌な雰囲気を吹き飛ばす勢いで大げさに、それを広げて見せた。

「これさえ、着はれば今日から、どなたさんもスモウレスラーや〜カッコイイやろ?」しかし…

「あの…スモウレスラーって人間じゃあないんですか?」おっとりしたコレットの声と

「だっさ〜!!そんなみっともないカッコ出来るわけないじゃん!」キッパリと言い切る

レイチェルの声に一同がうなづき事態が悪化しただけだった。

チャーリーは頭を抱えた。

このままでは苦労して集めたアイテムが売れんかもしれん。それだけは絶対、あかん。

そないことになったら、わいは商売人として失格や〜チャーリーは心の中で泣きながら

顔で笑って立ち上がった。

「皆様の御納得のいく品物を御納得の金額で!それが、わいのポリシーちゅうもんや!

まだまだ、たくさん取り揃えてます〜お気に召すもんがあらしませんやったら

お気に召すもんが見つかるまで取り寄せます。もっと、よ〜く見てや〜。」

チャーリーの言葉に、ようやく一同は文句をつけるより気に入るものがないかを探すという

前向きな方向に動き出した。

最初に決まったのは、コレットだった。

「これオプションの黄色いうさぎさんと丸いおまんじゅうみたいなお化けが可愛いです〜

これにします〜。」

「おぉ!さすがコレットさんや〜お目が高いで〜それなぁ、魔女の仮装なんや。

黄色いウサギはカーバンクル、まんじゅうみたいんは『ぷよぷよ』いいますねん。」

「魔女なんですか〜?」確かに一般的な黒服の魔女のイメージとは、かけはなれた服だ。

「うんうん、似合いますで〜コレットさん決まりや〜。」

戸惑うコレットを他所にチャーリーは心の中でガッツポーズを決めた。

この調子や〜次いくで〜!

「メルさん、こんなん似合うんやない。」

尋ねる口調とは裏腹に、もうすでに決まったようにメルの手に握らされたのは

魚のような人のようなものの着ぐるみだった。タグにはハンギョ○ンと書いてある。

「おぉ…これだけ、コレの似合う人おらんやろな〜これは、もう決まりや〜。」

押しの弱いメルは気味の悪い着ぐるみに涙目だったが、そう言われると反論が出来なかった。

しかし助け舟を出す者があった。

「バカヤロー!こいつに、そんなの似合わねぇぜ。弱々しくってゼンゼンらしくねーぜ!」

「じゃあ、ゼフェル様は、どれが良いと思われます?」

そう言われると髪をグシャグシャと掻き回して、悩むしかないゼフェルに

メルは、おずおずと手にもった衣装を体に当てて見せた。

「あのね…メル。これ好きなんだけどヘンかなぁ?」

ピキリとゼフェルにヒビが入ったように見えた。

チャーリーは邪魔者が消えたのをよいことにまくしたてた。

「あ〜もう〜、それピッタリや〜決まり!決まりや〜!」

頬を染めて俯いたメルはキレイなアクセサリーの着いた魚だと思っていたが

それは胸を貝殻で覆う形になる人魚姫の衣装だった。

「ランディ様、これ良いんじゃない?」

レイチェルが広げたのはオーソドックスな上にオーソドックス

王道この上ないカボチャの着ぐるみだった。

ただしこれは、どう見ても誰が着ても、カッコイイとは言い難く一同は噴出すのを必死に堪えていた。

ここで噴出してはランディも怒るに怒れまいという気遣いだった。

ランディは押し黙って押し付けられたカボチャの着ぐるみとレイチェルを睨んでいたが

やがて、その頬に涙が伝わった。

そこまで、いじめるつもりではなかったレイチェルは慌てて着ぐるみを取り返そうとつかんだ。

「気に入らないなら、そう言えばいいじゃん!」

だが、しっかりと握られたランディの手は離れなかった。

「気に入らないわけないだろう!こんなにカッコイイの、俺、いままで見たことないよ!」

白くなる一同を前にランディは歓喜の涙を流しつつ、着ぐるみを抱え込む。

どこかで、ゼフェルの「真性バカ」と言う小さな嘆きが聞こえた。

次に決まったのは、ティムカだった。

「メルさんののように、これも、イルカみたいな尾がありますね。魚の一種でしょうか。」

チャーリーは心の中で、目尻を下げてブッと噴出した。

「やっぱ、わかりますか〜貴重なもんやさかいティムカ様にピッタリや思っとりましたんや〜

サイズは…あつらえたみたいや〜決まりですな〜。」

「頭がないみたいですけれど?」

「あぁ…、それはしっぽの反対側、そうそう、そこから顔だしますんや〜。」

それは気付く者はいなかったが「えびふりゃ」、通常エビフライというものだった。

これは実はチャーリー考案のオリジナル商品だった。

チャーリーは考えに考えた自分のスペシャル商品が認められた…わけではないのだが

そんな気になって調子付き他のものも取り出した。

「これも、おすすめなんやけどな〜。」

取り出された、その衣装に一同は動揺して目を見開くが、ひとり例外がいた。

「き〜めた!ワタシ、これにするよ。」

ピキリ、皆が一様に凍りついた。白と青を基調に金でまとめられた服を手にするレイチェルに

勇気を称える尊敬と傍若無人さを憂う視線が集まった。

「キャハハ、これサイコー!ちょ〜笑えるじゃん。」

本人だけは金髪の映える衣装に御満悦だった。

「じゃあ、ゼフェル様とマルセル様は、これに決まりや〜。」

「なんなんだよ!そりゃ!!」

「わ〜ん、怖いよ〜。」

二人の前に引き出された黒くて長いものは真中にも顔を出すところがあり

明らかに肩車をして2人がかりでやるように出来ていた。

レイチェルとゼフェル&マルセルの仮装は、それだけで一同が引いてしまう迫力があった。

そう、それはジュリアスとクラヴィスの衣装だった。

そして、この時ジュリアスとクラヴィスは人間だろうと言う意見は、なぜか出なかった。

スモウレスラー以下のひどい扱いだった。

 

「さ〜て、どこから回るか?どうせだからムチャクチャ驚かせてやりたいし…」

開き直ったゼフェルが、みんなを率いて宮殿の廊下を歩きながらつぶやく。

相談してるような口調だが、もうすでに頭に中で作戦が固まりつつあるのを

一同は感じ取って黙って付いて行く。

そこへ偶然不幸にも行き会ったのはヴィクトールだった。

一応、手には女王陛下の命令で菓子は持っているものの「トリック オア トリート」の

声も耳に入らない。すでにショックで自失状態だ。

「さすが、常識人ですね。」エビフライには言われたくない言葉と共に

手の中の菓子は、ほぼ無理やり奪われていた。

 

幸先よく脅かすのに成功し、お菓子を手に入れた一同が次に見つけたのはセイランだった。

美しい木立を見ながらスケッチブックに筆を走らせている。

一同はお互いの顔を見合わせてニンマリ笑うと、コッソリとセイランの背後に忍び寄った。

「トリック オア トリート!!」

大きな声で一斉に叫ぶと、セイランは弾かれたように振り向いた。

「ぎゃぁああああああああああああ〜」

いっせいに叫んで腰を抜かしたのは「トリック オア トリート!!」と叫んだ本人たちだった。

振り向いたセイランには目鼻はなく大きく裂けた血まみれの口だけがついていた。

あわあわと、口もきけない一同の前で「クッ」と、いつものセイランの笑い声がした。

「どう?ボクの芸術的なお面。気に入ってくれたかな?」

仮面を外すと、いつもの氷のように美しい顔が表れた。

「ボクを脅かすなんて100万年はやいよ。でも、まぁ楽しめたからお菓子はあげるよ。」

ポンと投げ与えられたお菓子を手に、敗北の屈辱を次で晴らすべく

一同はオリヴィエの執務室に向かった。

 

「トリック オア トリート!!」

扉を開けるなり叫んだとたん、ガチャンと何かが割れる音とともにものすごい臭気がおそってきた。

「ヤベェ、逃げんぞ!」ゼフェルが叫ぶが、

すでに扉の前には恐ろしい顔をしたオリヴィエが立ちふさがっていた。

「あんたたち、やってくれたわねぇ。私のお気に入りの香水なのに〜。」

「テメェが自分で落としたんじゃねェかー!」

ゼフェルの言葉は火に油を注ぐようなものだった。

「その原因を作ったアンタ達には、キッチリつぐなってもらうよ。」

オリヴィエの瞳が剣呑に輝いた。

一時間後、今までとは打って変わった本格的なメイクのハロウィン仮装の一団が出来上がっていた。

思う存分にメイクを楽しんだオリヴィエから、お菓子もせしめてグレードアップした一同は

本丸とも言うべきジュリアスの執務室に向かった。

 

ジュリアスの執務室が見える廊下へと角を曲がった時だった

レイチェルはエルンストとぶつかり、エルンストのメガネが跳ね飛ばされた。

「ちょっと〜危ないじゃん!気をつけてよね!」

「は!失礼致しました。あの…あの…」言いよどんだまま怪訝そうにレイチェルを見るエルンストに

マルセルが声をかけた。

「エルンストさんこそ大丈夫?」

エルンストは打たれたようにゼフェルの上に肩車で載っているマルセルを見上げ

さらに狼狽する。

ようやく一同がことの次第に気がついて笑いを堪える。

メガネのないエルンストにはレイチェルとマルセルが本物と区別できないのだ。

レイチェルも気がついて笑いを堪えながら声をかける。

「んで、私の執務室になんか用なわけ〜?」

「はぁ…ジュリアス様がお申し付けの報告書を持ってまいりました。」

「御苦労様〜エルンストさんって忙しいのにすごいなぁ〜。」

コギャルなしゃべりのジュリアスと可愛い声のクラヴィスにエルンストの狼狽は

増すばかりだった。

「あの…あの…私は、その〜」いつもの冷静さは、どこへやら。ルヴァと大差ない。

「まだ、何か用なわけ〜?」レイチェルの一言に、エルンストは心配そうなティムカから

メガネを受け取るなり脱兎のように逃げ出していた。

「あぁ〜御菓子貰い損ねちゃったね〜。」メルが残念そうにつぶやいたが

あれだけ驚いてくれると、それもさして気にならない一同だった。

 

さて、今度こそと気合を入れた一同は、ついにジュリアスの執務室にたどり着いた。

ジュリアスは執務室の扉が開かれ巨大なクラヴィスが姿をあらわした瞬間に

後ろにのけぞり椅子ごと引っくり返った。

「泡吹いて、ケイレンしてるよ〜。」泣きそうなマルセルの声とは反対に

勝ち誇ったようなゼフェルの笑い声がジュリアスの執務室に木霊した。

勝利を味わった一同はお菓子を貰おうとジュリスをゆさぶった。

しかし、ジュリアスは泡を吹いてケイレンを続けるばかり

しかたなく、メルがゾウリを頭に載せるといいとか、コレットが魔よけの呪いを顔に書いてみたらとか、

ランディが活を入れたらどうかとか言うので色々やってみたが

頭にサンダルを括り付けられ、顔を極彩色に塗りつぶされ、

首が変な方向に捻じ曲がったジュリアスが出来ただけで何も状況は変わらなかった。

一同は心底マズイということに気が付き、そっと扉を閉めて逃げ去った。

 

冷や汗をぬぐいながらゼフェルは一同を庭園に導いた。

「この時間、オスカーのヤローは女の子たちとデート中らしい

そこを、脅かして腰抜かさせたあげく、お菓子を絞り取る。」

メルが手を上げる。

「はーい、どうやってですかー?」

ゼフェルは、大きくうなづくと説明しだした。

 

庭園では、色とりどりの花のように咲き誇る美女達がオスカーをとりまいていた。

オスカーの挙動に、囁きに、艶めいた声があがる。

と、その時だった。

「トリック オア トリート!!」

そう言いながら和やかに通りかかった一団がいた。

コレット・メル・ランディいわゆる普通な衣装の面々だ。

オスカーの回りの美女達も「かわいい〜」などと声をあげる。

オスカーはことさら、お子様を強調するようにランディの頭をグリグリなで

気の毒そうな目をしながら笑った。

「お嬢ちゃんに、ぼうや達か、お菓子は集まったか?ほら、俺もちゃんと用意してやったから

つまらないいたずらで俺たちの甘い時間を邪魔しないでくれよ。お楽しみは、これからなんだからな。」

オスカーの言葉に美女たちの頬が染まり、目が潤む。

「はーい!って…オスカー様、たったこれだけですか?」

ランディの棒読みのような言葉に、これまたわざとらしく袋を覗き込んだコレットも声をあげる。

「あぁっ!?しかも、安いお菓子ばっかりです〜。」

「他の守護聖様とは、大違いだね〜びっくり〜オスカー様ってセコイ方だったんだ〜」

メルにいたっては、手の平を見ながら読んだだけである。

なんとなく美女達の視線の熱が冷える。

それを敏感に感じ取ったオスカーは猛烈に焦っていた。

「な…なにを言うんだ。ほんの冗談に決まっているだろう。ちょ…ちょっと、待ってろ。

今すぐ、ちゃんとしたのを持って来るからな!」

あわてふためいて馬に乗ると私邸に向かって光の速さで走り去り光の速さで帰ってきた、

高級お菓子を馬車いっぱい山積にして。

ランディが棒読みで迎える。

「やっぱり、オスカー様もコレくらいはくれるんですね。俺、誤解しちゃってすいません。」

その言葉にオスカーのこめかみがピクリとひきつる。

「いや、まだあるんだが載せきらなくてな、もう少し待ってろ。」

再び馬に乗ると私邸に向かって光の速さで走り去り光の速さで帰ってきた、

高級お菓子を馬車10台にいっぱい山積にして。

「どうだ。お嬢ちゃん・ぼうや達、俺ほど気前のいい奴はいないだろう?」

汗だくな顔に無理やりな微笑みを浮かべ、見直した様子の美女達の腰に手を回し抱き寄せた時

コレットがのんびりつぶやいた。

「あ〜、ジュリアス様です〜。」

宮殿の廊下に双眼鏡で、こちらを見ている人影を指差した。

フゲッともグゲッともつかない声がオスカーからもれた。

遠目でよくわからないが、あんな格好をしているのはジュリアスしかいない。

それがオスカーの常識だった。

オスカーは美女達を置いて、草むらに飛び込むと匍匐前進で逃げ出した。

が、そこへ立ちはだかる黒い壁…見慣れた衣装を上にたどると可愛らしい顔をしたクラヴィスが

「チビ」。

普段より高いところから見下ろされての屈辱的な言葉にオスカーは卒倒しかけていた。

かろうじて踏みとどまったのは、さすが強さを司る守護聖…だが、

巨大クラヴィスの影からマヨネーズを持った巨大エビフライが飛び出してきて

ついに、さしもの炎の守護聖も崩れ落ちた。

メルが泣きながら、お線香を手向けると皆から堪えきれない笑いがもれた。

満足しきったゼフェルは、次のターゲットを告げた。

「ルヴァとリュミエールは、茶のんでる時間だ。」

 

「トリック オア トリート!!」

バーンとルヴァの執務室の扉が開けられた。

ルヴァとリュミエールが、のんびりと振り返る。

「あ〜、扉は静かに開けましょうね〜。」

「お茶は、何をお煎れしましょうか?」

…そして、約5秒後…

「あ〜驚きましたね〜。」

おせんべを齧りながらルヴァが言うと

「はい、心臓が止まるかと思いました。」

白いティーカップにお茶を注ぎながらリュミエールがうなづいた。

ゼフェルの目が釣りあがる。

「うそつけー!!おめぇら、おどろいてねぇな!」

ジタジタ地団太を踏むゼフェルにリュミエールは困ったように首をかしげて微笑んだ。

思わず見とれるような雪白の首筋に、淡く輝く青銀の髪が流れ落ちる。

「いえ、驚いておりますよ。」

ルヴァも、お茶をひとすすりすると頷いた。

「えぇ、えぇ、さすがハロウィンですね〜。」

「本当に…。夜になって、ますます増えてまいりましたし。」

ルヴァとリュミエールの視線の先をたどるとフワフワと白い影が暗闇を沢山舞い踊っていた。

みんなの喉から声にならない引きつった悲鳴があがる。

「ハロウィンは本来は霊を祭る日、お盆みたいなものですからね〜。うんうん。」

ルヴァがのんびり語ると、リュミエールはハープでレクイエムを弾きだした。

静かに目を閉じ、精緻なる至高の美しさを持ちながら限りない優しさをたたえる面に、

暖かな祈りの表情を浮かべて、神より高い存在にしか創り出せないであろう優美な指先で

ハープを奏でると優しい調べが部屋に溢れ、さらに屋外へと流れていく。

そして、それに誘われるように白い影が増えていく。

ハロウィンの夜は、始まったばかりであった。

 

女王の執務室からもシーツを被った白い影が出て行こうとしていた。

「陛下!」

しかし、有能な補佐官ロザリアが、それを見逃すはずはなかった。

「騒ぎを起こして、それに乗じて御自分も遊びに行こうなんて…言語道断ですわ!」

「え〜ん、見逃して〜ロザリア〜。」

「えぇ、決済書類が全部済みましたらね。」

非情な声と共に女王の作戦は、未遂に終わったのだった。

 

 

余談

万年ハロウィンな闇の守護聖の執務室は、いつもと変わりない暗闇だった。

ひとつだけ違っていたのは主が吸血鬼ドラキュラの衣装を身につけていたこと…

その衣装を身に着けたクラヴィスの怖さに本物の霊も寄り付かない。

いつもの無表情な顔を扉に向けながら、完璧…と心の中だけで笑みを浮かべるクラヴィスは、

ひたすら誰かが来るのを待っていた。

だが、ルヴァの執務室で白目をむいている面々が訪れることは決してなかったのだった。

 

END