「空飛ぶ舟だぁ?」ゼフェルは女王候補から
そう言われて思わず眉間にしわが寄ってしまった。
「だって美しいと思いません?」
リュミエールへの誕生日プレゼントを考え込んでいたゼフェルは
自分が考えるよりはマシな気がして手近にいた女王候補に
何がいいと思うか聞いてみる事にした。
その答えが、これであった。
女王候補の目は自分の世界にドップリひたっている目だった。
「あの、お美しい髪が風になびいている御姿が聖地の
どこにいても拝見できますわ〜♪」
そんなもンかよ。心の中で毒づきながらも
設計図が頭の中で出来上がってくると結構ノッてきた。
だいたい馬車なんてローテクは許せねぇと
常々、思っていた。
かといってエアーバイクに乗るとは、とうてい思えない。
想像してみたって、あの衣装じゃ跨げもしないことは
分かりきっている。
それに意外とガンコな一面も持っているからなぁと頭をかく。
だが!船!ふね・・・なら馴染みもあるから乗りそうだ。
「よっし!やってやろーじゃん!」
ゼフェルが言うと女王候補の顔が輝いた。
「出来上がったら見せて下さいね。」
「ああ、いいぜ。知恵かりたからよー。」
照れくさそうに笑うとゼフェルは私邸に駆け戻って
さっそく制作にとりかかった。
女王候補が、優しい月の光をあびながら
白い帆に風をうける白銀の貝のように優美なラインの小舟に
リュミエールと2人で肩を寄せ合って乗っている
実に・・・あつかましい夢をみている間も
ゼフェルは黙々と制作に専念していた。
その小舟の上で自分のプレゼントを渡そうと
小舟のような三日月のペンダントを選んで包んでもらいながら
バック(小舟)のムードは満天だし、
そのプレゼントを渡した後に××とか
実に・・・実に・・・あつかましい夢に酔っている間も
ゼフェルは着々と制作に専念していた。そして・・・
「できたぜ。」明日はリュミエールの誕生日という日の夜中に
ゼフェルは女王候補を呼び出して言った。
寝不足を気にしてゴキゲンななめだった女王候補も
たちまち気を取りなおして満面の笑みを浮かべる。
「どこですか?」キョロキョロと見まわしても
白い帆の小舟は見当たらない。
薄く繊細な風に吹かれれば浮くような・・・
「どこ見てんだよっ!」ゼフェルがコワイ顔で上を指差す。
・・・指先をたどって空へ目をやると・・・
降るような星空に・・・黒い影?
女王候補の全身を大量の冷や汗が下った。
とんでもなく大きい。
だけど問題は、そんなことじゃないような・・・
そう思って目を凝らす。
「どこに乗るんですか?」
「操縦用の第一艦橋の下の第二艦橋をフロアにしてあるぜ。
艦底の第三艦橋は着水した時に水の中が楽しめる贅沢設計だぜっ!。」
得意満面顔で言うゼフェルに比例して女王候補は無表情になっていく。
「甲板の沢山の筒みたいなのと船首の大きな穴は
もしかして・・・。」
ゼフェルは嬉しそうにうなずいた。
「いいとこに目をつけるじゃねぁか!
あれは苦労したぜ!46センチショックカノン砲三連装三基九門!
15.5センチショックカノン砲三連装二基六門!
他にもパルスレーザー高角砲、煙突ミサイル、舷側ミサイル
魚雷、爆雷・・・そして!
船首には波動砲だっ!!」
どーだ!心の中の得意そうな声が聞こえるような表情だった。
女王候補はガラガラと崩れる白い小舟の幻想に押しつぶされながらも
なんとか堪えて言った。
「あの・・・リュミエール様がお乗りになるのですから
もう少しクラッシックな方がいいんじゃないですか?。」
怒り出すかと思ったがゼフェルはニッコリ笑ってポンと手を打った。
「やっぱり!お前も、そう思うか!
俺も趣味に走って作ったはいいけど、それが気にかかってよ。
クラッシックなのも作ってあんだよ。」
ホッとした女王候補が指し示された方にむきなおると
木製の船室と柔らかな光を投げかけるカンテラ
・・・ドクロの旗が?!
女王候補は半泣きだった。
「か・・・海賊船プラス宇宙戦艦タイプですね・・・す・・・素晴らしいですわ。
でも、もう少し柔らかい感じも欲しいと思いません?。」
また怒りもせずウンウンとゼフェルはうなずいた。
「そうなんだよな。・・・だが!この俺にぬかりはないぜっ!」
指差す方を、もはや一分の希望もなく見た女王候補の目に映ったのは
ドクロマークの飛行船の下にぶら下がった海賊船だった。
次の瞬間、女王候補はハリセンでゼフェルの頭を思いっきり叩いていた。
怒る間もなく無意識の領域に沈没したゼフェルが目を覚ますと
すでに早朝とはいえない時間だった。
あわててエアーバイクに乗って宮殿を目指すが遅刻ギリギリで
女王候補の理不尽な仕打ちに、はらわたが煮えくりかえる。
チックショー、言う通りに作ったのになんで
叩かれなきゃなんねぇんだよっ!
当然だが乙女心なんて考えるゼフェルではなかった。
とりあえずジュリアスのお小言を回避すべく
渾身のスピードでエアーバイクを飛ばす。
その横を黒い影が一瞬のうちに追い越していった。
あっけにとられて空中に停止したゼフェルの目に映ったのは
黒いレザースーツにフルフェイスのヘルメットの人影が
宮殿の庭の片隅にエアーバイクを止めた姿だった。
革の手袋がヘルメットをはずと中からは流水のような水色の髪がこぼれでた。
リュミエールぅぅぅぅ?!?声にならないゼフェルの悲鳴が聞こえたように
リュミエールは髪をかきあげ上向くとゼフェルを見つけた。
「ゼフェルも遅刻ですか?私も昨日は絵を描いていて
つい夢中になって・・・。」
宮殿から衣装を手にした執事がかけてくる。
「リュミエール様おくれます!早くお召し代えを。」
いつものようにおっとりとしたリュミエールは衣装を着替えさせられて
ひっぱっていかれた。
ゼフェルは「一緒に・・・」とか「遅れますよ・・・」とか言う
リュミエールの言葉にうなずきながらも動けなかった。
しばらくして遅刻を決定づける鐘が鳴る頃
ようやくため息とともに言葉が出た。
「サギじゃねーのか?俺の苦労って、一体なんだったんだよー!」
その声は平和な聖地に悲しく響きわたったということだ。
後にジュリアスに反乱かとパニックを起こさせた
ゼフェルのプレゼント。
これを贈られた水の守護聖が、乗ったかどうかは
・・・・・・さだかではない。
終