不器用モンの「I LOVE YUO」 原案 ロゼマリーン様 文章 真珠

 

「ゼフェルさまーっ。」

モロ泣きって感じで後ろから激突して来たのは女王候補の茶色の髪のアンジェリーク。

「いてぇじゃねーか!なにすんだてめぇ!」

出来るだけ恐い顔をして怒鳴るが、アンジェはびびらない。イイ性格をした女だと、むかつきながらも思う。

しおらしく泣いてるが、お願いを聞いてやった次の瞬間、ケロっとしてゼフェルをこき使う恐ろしい女なのだ。

だが、こうして人目のあるところで泣き付かれれば、弱い者イジメでもしているようで

つい甘いと思いながらも言ってしまう。

「今度は、リュミエールに何しでかしたんだよ!」

どう考えても、つばつけてごまかしてるとしか思えないクリンとした瞳でチラッと見上げる。

「壊しちゃった。」

「何を!」

「お茶を飲もうと思ったら、カップ。・・・リュミエール様からお借りしたの。」

「んなモン、アヤマレ!怒りゃしねーよ、あいつなら。」

「やだ。」

「っ!てめー!強情な女だな。かわいくねーぞっ!」

言った途端に足元に崩れるように座り込み泣き出すアンジェリーク。

周囲では人々が、何事かとざわめく。慌ててゼフェルは、アンジェリークの手をひいて私邸に駆けもどる。

ゼーハーしながら睨み付けてもアンジェリークは意に介さない。

ゼフェルのつくったロボットとジャケンしてあっちむいてホイなんてしている。

「おまえなー!」

「これ。」

怒鳴ろうとしたが絶妙のタイミングでそらされてしまう。

アンジェが取り出したのは細かい破片と化した多分ティーカップだったものである。

「どーしたら、お茶を飲もうとしただけでこうなるんだ?

だいたい、謝れないほど気にすんなら毎度毎度リュミエールから物を借りるな・・・。」

もはや脱力してしまうゼフェル。ニコニコ笑うアンジェリークがオニに見える。

「だってぇ、アンジェ不器用なんだモン。」

「そーゆーモンダイじゃねーだろー!!」無駄と知りつつ、そうツッコミをいれるしかなかった。

 

その夜、ゼフェルは徹夜してバラバラになったティーカップを復元した。

作業が終わったのは夜明け近かった。

かたわらで作業をジッと見守っていたアンジェリークに、カップを手渡すと嬉しそうに笑った。

「さすがゼフェル様!器用ですね。わー♪アンジェ嬉しい!」

そんな顔になぜかまぶしさを感じる。

「オレは寝るぜ。おめえ、さっさっと帰れよ。」

そんなにリュミエールのために・・・?なんとなく心がうずくようなヘンな気分だった。

 

宮殿の中庭は寝るにはいいとこだ。滅多に人は来ない。

ただ来た時は知り合いで、中にはウルサイのもいるのが難点だが。

ゼフェルが目を覚ますと自分の体に何かかかっているのに気がついた、水色のケープ。

「チッ!よけいな事を・・・。」口に出すより迷惑には感じていない。

それを引っつかむと持ち主の執務室に向かった。

 

「よう!かえすぜ。」

部屋に入るなりバサリと投げるように渡す。それなのにニッコリと微笑まれて調子がくるう。

だいたい、きのう寝れなかったのは・・・そう思うと理不尽な怒りもこみあげてくる。

それに恋愛に関しては、とことん疎いリュミエールのおかげで

アンジェリークが起こす騒ぎの始末を持ち込まれて、いつも迷惑している。

まったく、コイツも不器用って言うかなんて言うか、心の中で毒づきながら。

「おまえなぁ、あいつに貸すんなら鋼鉄製のティーカップにしろよ!

おまえのティーカップを粉々にぶっ壊してたぞ!

昨日、オレはアイツに見張られながらなおしたんだぞ。」

だが、水の守護聖には衝撃的なセリフでも小さな波紋さえたたないようだった。

軽く首をかしげて静かに微笑むと穏やかな口調で言った。

「ああ、それでカップを借りたいとアンジェリークは言い出したのですね。

あなたの何かを作ったり修理したりしている時の器用に動く指先と瞳が好きだとおっしゃってたのに、

いきなり、カップを借りたいと言い出されて、どうなさったのかと思っていましたが・・・。

なんでも私以外、もう誰も何も貸してくれないのだそうで、それはもう、一生懸命に・・・。

そのためだったのですね。」

穏やかな口調で語られる衝撃的なセリフに波紋どころか

昨日のティーカップより粉々になったのはゼフェルの方だった。

じゃあ、なにか?オレといたいがためだったのか?あれもこれもあれもこれも・・・。

今まで持ち込まれた難題が走馬灯もといジェットコースターのように頭の中をかけめぐる。

そして、とどめの一撃。

「ゼフェルはアンジェリークに、とても好かれているのですね。」

その綺麗な声がドガッとかバキッと言う擬音とともに自分を打ちのめした。

なんとなく、土下座して「まいりました。」と言いたい気分で床に座りこんでしまったが、

そこで不幸は終わらなかった。

「リュミエール様、昨日お借りした・・・。」

修復されたカップを手に元気よくとびこんできたアンジェリークは

しっかりゼフェルを足の下にふみつけにしていた。

ゼフェルは薄れゆく意識の中で、今後はアンジェリーク自身にサクリアを送ってやろうと決心していた。

アンジェリークが、もう少し器用な、いや人並みな「I LOVE YOU」が言えるように。

 

おしまい♪

**** 水鳴琴の庭 銀の弦 ****