ボクのこわい話
by真珠その日マルセルの庭にはランディとゼフェルが、やってきていた。
2人は今日それぞれの理由でロザリアに、それはそれはキツイお小言を頂戴していた。
それをお茶を飲みながら、はなしていたのだ。
ゼフェルはテーブルに拳をたたきつける。
「だいたいなぁ、宮殿のローカをエアボードではしったって床に傷がつくわけでもないし
確かにぶつかりそうになって避けた拍子に柱を折っちまったけど
怪我人がでたわけでもねえのにうるせえんだよっ!」
「でも怪我人がでてからじゃ遅いし、柱を折って良いはずないんじゃない?」
マルセルが素直につっこみをいれて黙らせると
こんどはランディ。
「俺は2階の執務室に棒高飛びで入っただけなのに
あんなに怒られるなんて…」
「ばっかっか?テメーは。だったら自分の執務室へ入りゃいいだろう!
なんでリュミエールんとこに窓たたきこわして入る必要があんだよっ。」
「そーだよ、怪我してないリュミエール様の方がランディを心配して真っ青になってたよ。」
「怪我ったって、こんだけなんだけどなぁ。」
ランディは額のかすかに赤くなったところをなでる。
「それだけで済む方が異常だぜ…」
「窓の数を勘定し間違えたんだよっ!」むきになるランディにマルセルとゼフェルはため息をつく。
「もう!ランディったら!。
もし執務机に座ってらしたらリュミエール様が怪我したかもしれないんだよ?」
マルセルの大きな瞳が涙目になる。
「そーだ、そーだ。おめえと違って超合金で出来ちゃいないから大惨事だったかもしれねえぞ。」
「うっ…。そ…それはマズイけど…そういうゼフェルだってエアボードで
ぶつかりそうになった相手はリュミエール様だっていうじゃないか!俺の事言えないじゃないか!」
「本当なのっ?!ゼフェルっ!ヒドイや。2人とも怒られて当然だよっ!!」
リュミエールと仲の良いマルセルの剣幕は激しかった。
「おめえまでギャンギャン言うなっ!ロザリアに散々言われたんだから。」
「へぇ、ゼフェルには怒鳴ったりしたのか?ロザリアが?。」
「んなワケねぇだろう、ネチネチ言われたよ。あのセイランのイヤミな口調も顔負けのお小言だったぜ。」
「うん、俺もだよ。なんだか聞いてるうちに眠くなっちゃって
セイランさんに言われてるんだか、ロザリアに言われてるんだかわからなくなってさあ。
顔までダブって見えてきちゃって困ったよ。」
ゼフェルはプッと吹き出した。
「確かに、似てるよな。もってるムードがよ。」
2人は笑い出したがマルセルの無邪気な一言に凍りついた。
「本当に似てるね。親子だったりしてねっ。」
ほんの冗談のつもりで言った言葉に2人が顔色を変えたのみたマルセルも
自分の軽率な一言が投げかけた波紋の大きさにたじろいだ。
3人はピタッと額をあわせると小声ではなしだした。
「ロザリアが滝の前にいるのを見たアンジェリークが口止めされたってよ。」
「そういえば、髪の色にてない?」声が震える。
「金の曜日の夜から月の曜日の朝まで外界へ行って十月十日過ごしてくれば
オレ達にゃわからねーぞ…!」ゼフェルは意外に物知りで、こういう場合頼りになる。
「外界の方が時間が速く流れてるからセイランさんの方が年上でも全然おかしくないものね。」
言いながらマルセルの胸はドキドキしてきた。
「ちょ…ちょっと待てよ。じゃあ、父親は…?」
ランディは言ってはいけない最後の一言を言ってしまった。
マルセルとゼフェルが青ざめた顔でランディを静かに見返す。
「オ…オレじゃねーぞ。」
「ボ…ボクだってぇ。」
「俺も絶対ちがうぞ。」
3人の声がハモった。
「誰なんだろう?」
その時、マルセルが何に思い当たったのか、いきなり椅子を倒す勢いで立ち上がった。
「ボ…ボク…聞いたことがあるんだっ!」
「な…なにを?」
「アンジェリークが他の人のことを聞いた時にセイランさんのことを
同じ種類の人間だとか同じ闇を心に秘めているとか言った人がいたんだって…。」
3人の脳裏に同じ人物の姿が浮かぶ、そんな事を言いそうな人間は
みんな唯ひとりしか思い浮かばない。クラヴィスだ。
「クラヴィスとロザリアって、この間の試験中ずっと親密度200だったぜ。」
「そういえば、クラヴィス様の髪ってストレートだよな?」
「セイランさんの髪の毛が真っ直ぐなのはクラヴィス様に似たって事?」
「あの、シニカルなカンジ確かに似てるぜ。」
「たして2で割ったら、本当にセイランさんかも…。」
ひとしきり3人の間を乾いた笑いが行き交い…ゼフェルとランディは突然、席を立った。
「じゃあな、マルセル。お茶おいしかったよ。また明日な。」
「さーて、新型ロボットの組み立てに戻るか。あばよ、あしたな。」
突然のことにキョトンとするマルセル。
「どうしたの?2人とも急に変だよっ!?」
「ばっ…ばっかやろう!!こんなこえーことに関わってられっかってんだよっ!」
「そうだよ。マルセル、悪いこと言わないから忘れちゃえよ。」
マルセルは2人のマントとマフラーをひっつかむと猛然と怒り出した。
「そんなに2人が臆病者だとは知らなかったよっ!いいよっ!ボク…ボク…一人で…
泣いちゃうからねっ!泣いてたら心配して誰か聞きに来るかもしれないし
そしたらボク、ランディとゼフェルとで話してましたって言っちゃうよっ!」
回りくどい脅しだが本当にありそうでゼフェルとランディは逃げられなくなってしまった。
まだ、グシグシと泣きながら目の辺りをこすっているマルセルを囲んで見下ろすと。
「ごめん、マルセル。泣かせるつもりじゃなかったんだ。
でもその、俺のカンがアブナイゾーって…。
そういうのがあって…ほんとうにゴメン。」
「はあああぁ、…で。てめぇは、どうしたいんだよ?」
「こんな怪談を途中まで聞いちゃったみたいな状態イヤだよぉ。本当のことを知りたいんだ。」
すごい言われようだがマルセルに悪意はない。
「ガキはコワイもの知らずだな…。」ゼフェルは頭をかかえてため息をつく。
「後悔しないかい?マルセル。」ランディは真顔だ。
「うん。」マルセルの顔は強い決意に満ちていた。
再び、3人は額を突き合わせ小声で話し出す。
「3人のうち誰に聞くんだ?」
「ばーか、どいつもこいつもスンナリはなしてくれそうなタマかよ?やっぱ、からめ手でいかねぇと。」
ぐびっとお茶を飲んだ横でマルセルが大声をあげた。
「あっ!」
「なんだ、マルセル?」
「リュミエール様に聞いてみたら?
いつもクラヴィス様の側にいらっしゃるしセイランさんとも絵とか音楽のことで、
よく話ししているみたいだよ。」
「でもよ、口はかたそうだぜ?」
おどかされてお茶を吹いてしまったゼフェルは不機嫌そうに口をはさむ。
「だから、からめ手なんでしょう?ゼフェル?。」
「うっ…。ま…まぁな。しょせん、お人好しだからウマく誘導すりゃあ…。」
マルセルがジッと自分のことを見ているのに気がついてゼフェルは不審に思った。
「どうかしたのかよ?」
「うん、ゼフェルでもリュミエール様のことは誉めるんだなって思って。」
「…?。ほめてねーぜ?」
「だって、今。お人「良し」って…。」
凄まじい音をたててゼフェルはテーブルに沈没した。
赤い額のゼフェルとランディ、そしてマルセルはリュミエールの私邸にやってきた。
驚かせたお詫びと言う名目の花束を抱えて。
しかし執事に通されたのはリュミエールが常日頃、音楽を奏でるのに使っている部屋だった。
そして、そこには先客がいた。
「セ…セイラン!?」3人の口調にセイランの眉がピクリと動く。
「どうやら僕はおじゃまみたいだね。失礼しますよ、リュミエール様。」
「セイラン、そのようなことはないと思いますよ。」
マルセルはリュミエールにみなまでいわせなかった。
「そ…そうです!セイランさん!!ここにいて下さい。ボク、セイランさんとお友達になりたいんです。
い…色々、おはなししたいんです。」
セイランは複雑な表情で迷っていたが、心配そうに見守るリュミエールと目が合うと
肩をすくめて立ち上がった椅子に座りなおした。
「…で?僕と何の話をするって?」
「えーと、えぇーとぉ、ク…クラヴィス様って、あっ!違う。ロザリアってキ…キレイだと思いませんか?。」
影でコソコソとランディとゼフェルがグチる。
「どこが、からめ手なんだよ〜っ!?」
「もしかしたらと思ったけど、やっぱりこれじゃダメなんだな?」
セイランはクスッと笑うと美貌の面に氷の微笑をうかべた。
「なに?きみは彼女が好きなの?」
「いえ、その、あの、セイランさんもきれいです。」
セイランの目がすうっと細くなり、あきらかに機嫌が悪いモードに突入したことを物語っている。
「オリヴィエ様のところで見せてもらった君の写真ほどじゃないけどね。」
「好きでやったんじゃありません!」
その時、柔らかく美しい声が2人をとめた。
「あの…2人とも、どうかやめて下さい。
セイラン、マルセルはうまく話せないだけで悪気はないのです。
どうか最後まで聞いてあげて下さいませんか?
マルセルも落ち着いて、考えをまとめてみてはいかがですか?」
セイランは再び肩をすくめると3人がもってきた花束をいじりながら
「たしかに、僕も大人げなかったかな。
この美しい花を前に、つまらない言い争いなんて恥ずかしい真似はやめるべきだね?。」
「美しい花」が誰なのか本人以外は皆わかったのを確かめると
セイランは執事の持ってきた花瓶に花を生けた。
セイランが生けると花は、まさに美術品となる。
「なんで、花なんてもってきたの?。」
なんとももっともなセイランの問いに、
3人がリュミエールにしどろもどろに説明して頭を下げると
リュミエールは気にさせてしまったことを詫びつつも喜んでくれたので
本来の目的も忘れてマルセル達は嬉しくなってしまった。
そこで何か考え込んでいたセイランが意外な話を始めた。
「そういえばロザリア様って僕は苦手なんだよ。」ちらりとリュミエールの方をみてクスッと笑いながら
「悪い人じゃないと思うんだけど話す機会もあまり無いし、身分のある方だから緊張しちゃってね。」
3人は嘘つきと言う目で見ていた。だが、リュミエールは。
「そうですね。話す機会があれば、暖かく思いやり深い方だとわかりますのに残念ですね。
教官のお仕事の合間にお引き合わせ出来れば良いのですが。」
「いえ、あちらもお忙しいはずですから僕と会う間があったら休んでいただきたいですね。」
3人は大嘘つきと言う目で見ていた。だがリュミエールは。
「セイラン、私の思いがいたらず恥ずかしいです。あなたは本当に優しい方ですね。」
「こんなことを、この僕に言わせる方には負けますけどね。」
「素晴らしい方を御存知なのですね。そして、あなたは謙虚な方でもあるのですね。」
首をかしげ微笑むリュミエールに、3人はこっそりため息をつく。
「無自覚だよな?」
「えーと、自分のことはわからないものなんだって誰か言ってたよな。」
「ランディもだもんね。」
「こんなのを一緒にしていいもんかよ?マルセル。」
「だってぇ…。」
その時、セイランの一言が3人の耳をピクリと動かした。
「暖かく思いやり深いロザリア様はご結婚なさって子供をもたれたら
まさに良妻賢母でしょうね。」
必死になって耳をそばだてているマルセル達は
セイランが、そこで3人をチラッと見たことに気がつかなかった。
「でも僕の母も素晴らしい人でしたよ、
僕は父に似たんですけど髪がストレートなところだけは母似なんですよ。」
それを聞くと3人はしんみりしてしまった場を丁重に退出してきた。
「聞いたー?」
「あったりまえよ!」
「なんか、全部ワルイ夢だったみたいだなー?。」
3人の顔は晴々としていた。
「そーだよね」
「これで、今晩はゆっくり眠れるな。」
「まったくだぜ、あばよっ」
「うん、バイバーイ」
「あしたなー」
マルセルはスキップしながら私邸に帰ってきた。
その時、浮かれていたマルセルはチュピが飛んできたのに気づかずに出会い頭にぶつかってしまった。
「あっ!チュピ!!ごめん、大丈夫?」
だがチュピは驚いたのかフラフラと逃げていく。
「待って!ボクだよ。逃げないでぇ。」
やっとの思いでチュピに追いつくと、そこは暗くてよくわからないが誰か守護聖の私邸の庭のようだった。
「やだ…ここどこだろう?。」
灯りのついている窓を見つけて声をかけようとした時、内部の会話に凍りついた。
「それでね、とっさに僕はウソをついてしまったんですよ。」
「そう、私は分かってしまってもよかったのよ。あなたという息子がいることは
私の…いえ、私達の誇りですもの。」
「僕は困るな、こんなに若い母親なんて…。」
「まぁ、生まれたばかりのあなたが宇宙船の事故で行方不明になった時どれほど悲しんだことか…
私は…私は、あなたを探しに行こうとしたのよ。
でも私が執務を離れることで宇宙が崩壊してしまったら、あなたも…。
そう思うから今日まで耐えてきたのに…。」
「わかってるよ、おかげで僕も好きに生きてこれたんだし気にしないで欲しいな。」
ガタッと音がして誰かが室内へはいってきたようだった。
「とうさん…。」
そのシルエットだけでマルセルは誰だかわかってしまう自分を呪いながら
悪夢のような状況の中、ひたすら凍りついていた。
リセットしたら?
**** 水鳴琴の庭 銀の弦 ****