「いい日旅立ち」

 

呆然と見つめる韓国・中国勢をかきわけてアキラは

ヒカルの碁石を奪うと手の平で返し見た。

「間違いない。君も選ばれし仲間だったのか…。」

「な…仲間って、何だよ?」

ヒカルが問うと皆それぞれにポケットやバッグから

金色の碁石を取り出し掲げた。

ヒカルもアキラから返された碁石を比べるように掲げると

それらは共鳴するように光輝いた。

(お正月にTVでやってたアレみたいだなぁ)

思わずヒカルは思った。

「南総里見八犬伝だろう?」

思っただけなのに、そういうことを言うのはアキラの特殊能力だが

もう慣れっこのヒカルは驚かなかった。

「あぁ、それそれ。なんかカッコイイなぁ。」

喜色を浮かべたヒカルにアキラも微笑んだが…。

「だが事情は少し違う。」

びしりとヒカルの眼前に指を突きつけた。

「よく石を見たまえ。」

ヒカルが石をまじまじと見ると何か文字が書いてある。

これは八犬伝と同じでは?と思ったが文字は…

「当?」

他の者の碁石も見せてもらう。

「みんな『当』って何でだよ?」

「『当』つまり…アタリだよ。」

ヒカルの問いにアキラが落ち着き払って答える。

ヒカルの眉間に皺がよる。

「ハズレもあるのか?」

アキラはコクコクと頷き向こうの階段の下で

しゃがみこんでいる和谷たちを見た。

ガックリと肩を落としている。

八犬伝というよりスーパーのガラポンクジの方が近かったのかと

消沈したヒカルも思わずハズレた者たち同様しゃがみこんでしまった。

そこへドアが開いて飛び込んできた者がいた。

「やっと、着いたでぇ!お前らが仲間かぁ?」

アキラがコックリ頷いた。

「碁石を見せてもらおう。」

少年はザラザラと碁石を取り出した。

「どや!銀の碁石5個で当たりと同じなんやろ。」

どよめきが起こった。

「5個しかない銀を5回当てたなんて、感服したよ。」

少年はニヤリと笑った。

「わいは関西棋院の社や。よろしゅうな。」

社の自己紹介もそっちのけでヒカルは

八犬伝どころかガラポンクジという発想さえ間違っていたことを知り

自分だけが何もわかっていないという事実に改めて気がついて

アキラを問い詰めようと立ち上がった。

 

が、その時。

足元が大きく揺れ棋院内に異変が起こった。

ガラガラという音と共に棋院の窓という窓がシャッターで閉じられていく

照明が赤く変わり警戒警報が鳴り響く。

やがてアナウンスも入った。

「日本棋院はエマージェンシーモードに入ります。

担当官は至急持ち場について下さい。

棋院内にいる用のない方は速やかに正面ドアから退去してください。

これ演習ではありません。繰り返します。これは演習ではありません。」

ヒカルもドアへと駆け出したが途中で前に進まなくなった。

アキラに襟首を掴まれていたのだ。

「君は当たったんだから、ここにいるんだ。」

イヤイヤするヒカルだが強引に引き止められ、

その間に正面ドアもシャッターで閉ざされてしまった。

 

「やっぱりオレも関係あったな。囲碁オバケのカンってやつかぁ?

んじゃあ、オレも持ち場に行くかぁ!」

大きく伸びをすると河合は階段を上がって行ってしまった。

ヒカルは捨て犬のような気分でアキラに引きずられながら大広間に向かった。

廊下を歩きながら秀英が言った。

「オマエハ ナニモ知ラサレテナイノカ?」

頷きながらヒカルは驚いた。

「えっ?!えっ?!オレ、お前の言葉がわかるぞ!!」

ヒカルを引きずるアキラがさらりと言った。

「当たり前だよ。この碁石を持っていると自動翻訳してくれるんだ。」

(へっ〜。そんな便利な物だったのか。・・・待てよ。

塔矢は最初から碁石を持っていたよな?

じゃあ、さっきの挨拶だけしか出来ないって言ってたのとか

ちゃんと通じてなかった中国語と韓国語は…?)

「せっかく習ったから使ってみたかったのさ。」

嬉しそうなアキラの言葉にヒカルは心底グレたいと思った。

 

大広間に着くと見慣れたはずのそこは様変わりしていた。

畳の上に9人分のシートベルトのついたイスが鎮座していた。

しかも座面も背もたれも畳製で和風なんだか洋風なんだかわけがわからない。

ヒカルはイスに座らされてもシートベルトを外して逃げにかかったが

大きな衝撃と押さえつけられるような感覚に動けなくなった。

5分ほどすると体が楽になり正面の障子が開いた。

そこは巨大なモニターになっていて

にこやかな美しい女性と後ろにハンドルを握る河合の姿が映っている。

「皆様、日本棋院にご搭乗まことにありがとうございます。

ただいま当機は大気圏を離脱、これより目的地に向かいます。

操縦士、河合。副操縦士、椿が

皆様を安全で楽しい旅路へご案内いたします。」

女性のアップが消えると黒々とした宇宙空間が映っていた。

ヒカルの声にならない悲鳴が響いた。

 

つづく

18.6/9 水色真珠

次回予告

碁石と−1と河合さんは出てきましたが

肝心の敵まで行き着きませんでしたね〜

じ…次回こそ…頑張ります〜(^-^;)