「新たなる敵(?)」
ここは空港。
出迎えゲートの前は女性で埋まっていた。
一人、また一人乗客が出てくると彼女たちのテンションは
とてつもなく上がっていく。
やがて二人の少年が現れると空港を揺るがす悲鳴が一斉にあがった。
「きゃー、ヨン様〜〜〜!!」
ものすごい黄色い悲鳴に動じた様子もなく淡々と通り過ぎる彼こそ
囲碁界のヨン様、高永夏だった。
隣の洪秀英とともに騒ぎ立てサインを求める女性たちを
軽くあしらい無視してタクシー乗り場へと下りていく。
諦めきれない女性たちの迷惑な列が続くが
まったく意に介した様子はみられない。
やがて二人はタクシーに乗り込むと一枚の紙を運転手に渡した。
運転手はニカっと笑った。
「お客さんたち、運がいいじゃねぇか。
これだけじゃオレでなきゃ連れてけないぜ。」
だか相変わらず二人は無表情で運転手のことなど
自動運転装置とでも思っているかのようだ。
「ちっ。」
反応のない相手にいささか不満げに舌打ちすると
運転手は車は発車させた。
今日も今日とて少年オバケンジャー隊入隊を目指して
腕を磨くヒカルは自室で佐為を相手に碁を打っていた。
最近の集中力と成長ぶりは目を見張るものがある。
その成長の元となる熱心さは、当初オバケ嫌いで拾いオバケに反対でありながら
佐為の美形ぶりを見るなり気に入ってしまって煩くヒカルの部屋に来ていた母が
佐為がせまっくるしいヒカルの部屋にいる時は常に小さい姿なのと
ヒカルがあまりに真剣なので滅多に部屋に上がって来なくなったほどだ…。
だが…。
「ヒカル。ヒカル?」
ドアの外で声がする。
集中しているヒカルには聞こえないので
小さいままの佐為が四苦八苦してドアを開けた。
「ヒカルの母上どうかしましたか?」
なぜか上気した顔で少女のように目が潤んでいる。
声もふわふわとして上ずっている。
「あ…あのね。お客様なの。たぶんヒカルにじゃないかと思って。」
要領を得ない。
ポーとした母の後ろから二人の少年が現れた。
高永夏と洪秀英だ。
母の目は永夏に釘付けでありながら
永夏が自分の息子の頭を手紙のようなものでパタパタ叩いて
集中を切らせたのを咎めるようすもなかった。
「なんだよ!お前ら誰だ?!」
不機嫌なヒカルに、こちらも厳しい顔の永夏と秀英が
ベラベラとわけのわからない言葉でまくしたてる。
「あー?わかんねー!!日本語でしゃべれよなー!」
ヒカルの一言で険悪なにらみ合いになる。
「異国の者なのですね。しかも、この者達は囲碁を嗜み手練れ者の匂いがします。」
佐為が割って入った。
「だからって人ん家にズカズカ入ってきていいってことあるかよ!」
母が擁護する。
「あら、言葉がわからないんですもの、仕方ないわ。ヒカル、失礼なこと言ってはダメよ。」
お茶を入れてくるわねぇとふわふわした足取りで化粧台の方へ行く母を見送って
ヒカルは観念した。
「なぁ、佐為。どうしよう?」
なんとか意思の疎通を図らなければならない。
佐為はニコッリ微笑んだ。
「任せてください!碁で語り合いましょう。」
というと碁盤の上を片付ける。
(強いヤツと碁が打ちたいだけなんじゃないか?)
ヒカルの思いを他所に永夏も碁盤の前に座り込んだ。
そこへバッチリ化粧をし余所行きの服に着変えた母がやってきた。
対局を始めようと頭を下げているところに
お茶と特上のケーキを置くとおずおずと声をかける。
「あの、佐為様も普通の大きさになっていただけませんか?
せまっくるしい部屋ですけれど、これは片付けますから。」
言うなりヒカルと秀英はベッドの上に片付けられた。
佐為は打つときはオバケ力で打つので大きくなる必要はないのだが
無理やり居ついてしまった後ろめたい身なので、
なんとなく理由もわからないままに従ってしまう。
佐為が大きくなると母親は、うっとりした顔でペタリと座り込んでしまった。
何事かと自分を見る佐為と永夏の二人をかわるがわる眺めては赤い顔でため息をつき
小娘のように口元に両の握りこぶしをあてて目を潤ませる。
あげくはケイタイを取り出すとあちらこちらから写真を撮りだした。
「かあさん!何してんだよ?!」
ヒカルに窘められても耳に入った様子はない。
ヒカルには知るよしもなかったが母も乙女だったのである。
対局が始まればケイタイの撮影音も、あちらこちらへ動き回り色々な角度から眺めては
ため息をついたり黄色い声をあげる観客も気にならないようで
佐為も永夏も碁盤に集中していた。
時折、相手の顔色を伺う鋭い目に、最高の一手に見られるアイコンタクトに
母親の黄色い声があがったが鋭く熱い対局は進み、やがて永夏が頭を下げた。
つい盤面に引き込まれていたヒカルと秀英が深いため息をついた。
お互いに顔を見合わせると気持ちが通じた。
はじめて笑った秀英に驚きながらヒカルも微笑みかえしていた。
「ヒカル、わかりました。彼らが来た理由。」
はっきり言って囲碁で語り合うなんて精神面でのことと思っていたので
ヒカルはとても驚いた。
「彼らは危機を知らせに来たのです。
この手紙は敵から叩きつけられた挑戦状です。
韓国に届いたが日本とて無関係ではないからと
知らせに来てくれたのです。」
それにしちゃあ友好的に見えなかったとヒカルは思ったが
永夏がうんうんと頷くと信じざるを得なかった。
残念そうに見送る母を後にヒカルは永夏と秀英を連れて棋院に向うことにした。
佐為は別行動で危機にあたって皆を招集すると出て行った。
だが風雲急を告げる事態に胸を高鳴らせながら家を出たヒカルは
外へ出るなり恐るべき相手に進路を阻まれ立ちつくしてしまった。
つづく
H
18.5/18 水色真珠次回予告
いきなり恐ろしい相手に阻まれるヒカル!
この難関を切り抜けられるのか?!
本当の敵に行き着く前に阻まれていてどうするヒカル?!
日本棋院にへGOGOだ!