「神の一手戦隊の謎」

 

「神の一手戦隊オバケンジャー参上!」

幼稚園の屋根の上から降り立つと5人は菅原顕忠の前に立った。

「危ない!気をつけてください、オバケンジャー。

これは罠です!」

アキラの突拍子もない発言に一同固まった。

誰が固まったといって一番固まったのは菅原顕忠だった。

だいたい、『幼い子ども達に囲碁に対するマイナスイメージを植え付け

将来の囲碁人口を減らし囲碁界滅亡をたくらんでいる』んだって

アキラの捏造に菅原顕忠は乗っかっただけなのだ。

罠なんて用意しているわけがない。

菅原顕忠は固まったままダラダラと汗を流しながら必死に罠を考えている。

その間もアキラの発言を真に受けて注意深くオバケンジャーが間合いを詰めてくる。

菅原顕忠絶体絶命!

ヒカルはほんのり菅原顕忠がかわいそうになった。

追い詰められてヤケッパチになった菅原顕忠がガハガハと笑い出した。

懐から碁石を2つ取り出すと何を思ったのか自分の鼻の穴に詰めてしまった。

「わははは。どうだ!これ以上碁石を詰められたくなければ降参するのだ!」

ハッキリいって滑稽この上ない、マヌケな鼻の穴の広がった顔でふんぞりかえっている姿は

ヒカルのみならずアキラも苦しくなるくらい笑い転げずにはいられなかった。

「た…たしかに恐ろしい作戦!おかしくて何も出来ないよ〜っ!」

「いや〜、もうダメ〜っ!」

オバケンジャー達も笑い転げる。

だが、ただ一人白い狩衣のオバケンジャーだけは顔を真っ赤にして怒っていた。

「神聖な碁石になんてことをするんですか!」

手にした扇子で菅原顕忠の頭を叩くと碁石が鼻から飛び出した。

扇子がハリセンに見えて関西漫才でも見ているかのように、ますます周囲の笑いはヒートアップする。

「うるさい!うるさい!笑うなー!」

さすがの菅原顕忠も脱兎のように逃げ出した。

 

「ヤツラは、また恐ろしい悪事を企んでくるでしょう。

でも皆さん安心してください。ボク達にはオバケンジャーがいます。

彼らがいるかぎり碁界の平和は守られるでしょう。」

アキラが幼稚園児達に向かってしゃべっているうちに

オバケンジャーも姿を消していた。

「おかしいなぁ。」

そんな展開を他所にしたヒカルの呟きにアキラが首をかしげる。

「確かに可笑しかったが、そんなにアレが気に入ったのかい?」

ヒカルはううんと首をふると、ますます考え込む。

「TVで漫才見ていた時に芸人がアレやって、さっきのオバケンジャーと

同じことを同じ声で言ったヤツがいるんだけど…。あ〜思い出せねぇ!

そいつがオバケンジャーに間違えねぇのに〜!!」

頭をかきむしるヒカル。

「なぜ覚えていないんだ。そんなことくらい覚えていそうなものじゃないか!」

ものすごい手がかりにアキラが珍しく余裕を失うが…

「さっきと同じに笑い転げてて覚えてないんだよ!」

ヒカルの言葉に久々のアキラの絶対零度が吹き出した。

ヒカルは凍っていきながら、自分だって笑い転げていたくせにとかすかに思った。

 

気がつくと塔矢行洋の碁会所だった。

傍らでは佐為と行洋が対局中でギャラリーが集まっている。

市河さんが熱いお茶を出してくれた。

「大丈夫?随分凍ってたわよ。」

市河さんの言葉に曖昧にうなづくと笑ってみせた。

こんなことを言いながら市河さんは大のアキラファンなのだ

文句を言えばただでは済むまい…。

だんだん我慢強くなっていく自分の健気さに涙が出そうになるヒカルだった。

 

対局を見ようとギャラリーの後から伸び上がると背後に殺気を感じて

慌てて振り返った。

後にはアキラが先が輪になった一本のロープを手にして立っていた。

輪になった反対側のロープは天井のフックを経由してアキラの手に戻っている。

「お前、それをオレの首にかける気だったな!」

慌ててヒカルが後ずさりするとアキラはニッコリ笑って答えた。

「まさか!それじゃあ君が首をつってしまうじゃないか。

ボクは身長に不自由している君が対局を見られるようにしてあげようと思っただけだよ。」

言うなり、いつの間に着せられていたのかヘリから吊り下げられる時に着る

ジャケットの後に輪をかけるとロープをひかれた。

ひえぇぇぇぇ〜。情けない悲鳴と共に吊り上げられるヒカル。

確かに首はつらないけど、上から対局はみられるけど…。

「バカ!なんで、こんなマヌケなことしなきゃなんねぇんだよ!!」

アキラは「ふふ…」と笑って満足気にうなづいた。

「いいことをした後は気持ちがいいですね、市河さん。」

「ステキよ、アキラくん!」

ヒカルは二人の上空でぐったりとうなだれた。

しかたなく観戦しようと顔を上げた時に壁のポスターが目に入った。

昨日までなかったポスターには、やや斜め上を見つめる少年と少女のアップ写真に

『求む若い力!少年オバケンジャー隊募集』と書いてあった。

今時、自〇隊でも使わないフレーズだが、ヒカルには大ヒットだった。

「ねぇ、市河さん。あのポスターなに?昨日までなかったけど。」

「あれは、さっき佐為様が持っていらしたのよ。日本棋院で選抜大会があるんですって。」

ヒカルの胸は躍った。もしかしたらオバケンジャーの一員になれるかもしれない。

「君もでるのか?」

すぐ横にアキラの顔があった。

ギョっとして見るとヒカルと同じにジャケットを着て市河さんに吊り上げてもらっている。

どうしてこういう行動をとるのか相変わらず理解不能だったが、今はどうでもよかった。

「って、言うことはお前もでるんだな!」

空中でメラメラと競争心を燃やす二人はハッキリいってヘンだった。

 

つづく

16.6/10 水色真珠

次回予告

日本棋院主催少年オバケンジャー隊選抜大会!はたして選ばれるのは誰か?

新キャラも登場し、ますます混迷を深めるアキラの行動。

はたしてヒカルが真実に気づく日はくるのでしょうか?!