「戦え!オバケンジャー」
今日も、ヒカルと塔矢は塔矢名人の碁会所で対局中だった。
なにげなくついていたTVでは「子ども初めて囲碁」という番組が
やっていたが突然画面が乱れたかと思うと碁を打つ子ども達の中に
偉そうにふんぞり返った菅原顕忠が高笑いをしつつ現れた。
市河さんの悲鳴に二人は慌ててTVを覗き込む。
そこに菅原顕忠の姿を見止めて塔矢が怒りに拳を震わせる。
「あれだけ、徹底的に粉砕してやったのに性懲りも無い!」
塔矢が言うセリフにヒカルが冷たく視線だけ突っ込む。
(
お前じゃなくてオバケンジャーがな。)「きゃー、アキラくんカッコイイ!」
だが何も知らない市河さんは嬌声を上げる。
不愉快な思いでヒカルは二人をどかすとTVに見入った。
碁盤柄の地に黒と白の水玉模様の体にピッタリとフィットしたタイツを着込んだ
見るに耐えないコスチュームの怪人たちが
菅原顕忠に従って碁盤の上でお菓子を食べたりミニカーを走らせたり
やりたい放題の悪行の限りを尽くしている。
番組はムチャクチャになり泣き出す子どもまでいる。
「ひでぇや!こんな時、オバケンジャーがいたら…」
「呼べばいいんじゃないのか?進藤。」
塔矢の言葉にヒカルの頭に血が上る。
「どうやって?そんなことできたら苦労ねぇじゃん!」
塔矢はツカツカとヒカルに近づくとヒカルの後頭に
ガムテープで貼り付けてあったものをひっぺがした。
ぎゃ!というヒカルの悲鳴を他所に、それについた紐の先の短冊を見せる。
それには『よびたいときはつかってください。おばけんじゃあ』と
流麗な仮名文字で書いてあった。
「い…いつの間に…!」
驚くヒカルに市河さんがニッコリ笑って言った。
「ここに昨日来た時は、もう付いてたと思うわよ。」
教えてくれないヤツもなんだが、こんなものをヒラヒラさせながら
昨日から気が付いていないヒカルも何である。
塔矢は短冊に付いていた使用説明書をポケットに入れると
ヒカルの手をひいて碁会所を飛び出した。
「どこいくんだよっ!」
「さっきの番組会場に決まっているだろう!
これ以上、奴等の好き勝手にはさせられない!」
もしオバケンジャーを呼び出せるなら、その通りだ
ヒカルも思って塔矢と走り出した。
番組会場につくと混乱は、ますますエスカレートしていた。
碁笥にマーブルチョコが詰められ、碁盤が積み木代わりにされている。
「ひ…ひどい!」二人の愕然とした声に菅原顕忠は勝ち誇った笑い声をあげた。
「わっははは、どうだ!この悪行三昧止められるものなら止めてみろ!」
塔矢はヒカルを振り返るとガムテープでヒカルの後頭についていたアイテムを見せた。
「さあ!今こそ、これを使う時だ!進藤!」
それは五色に輝く碁石の入った袋だった。
「呼び出し方は、これだ!」
ビッと塔矢が開いて見せた説明書には人前でするには
あまりに恥ずかしい決めポーズがならんでいた。
説明書を手に取り食い入るように見つめるヒカルの手がブルブルと震えた。
「碁会所で呼び出して、オバケンジャーと一緒に
ここへ来るっていう手もあったよな?」
ヒカルの疑いの眼をアッサリ受けて塔矢は頷いた。
「あぁ、もちろん。だが、それではつまらないだろう。
ここならTV放映もありだ。遠慮なくやるがいい、進藤!」
何事かと期待顔の撮影クルー達もよってくる。
塔矢の言葉にヒカルはよろめくほどの衝撃を受けるとともに
滝のように涙を流して駆け出した。
「あ!どこへ行く。進藤!
この場に正義の味方を呼び出さないでどうするんだ?!
まだ
"次週に続く"は早すぎるぞ!!」しかし、その時すでにヒカルは遠く逃げ去っていた。
「ぐれてやるううううう〜っ」という幽かな叫びだけが番組会場に木霊した。
「せっかく…TVに映るチャンスだったのに…。」
塔矢は残された碁石袋を握りしめると静かに歩き始めた。
「ちょぉ〜と、まてぇい!オバケンジャーは来ないのか?!
ワシらのしかけた罠はどうなるんだ!」
菅原顕忠の言葉に塔矢はクルリとふりかえった。
「そんなこと知りません。自分で何とかしてください。
ボクは無関係の一般市民なんですから。」
じゃ、と手を上げるとスタスタと去っていく。
そのお約束破りな現代っ子気質な展開に身勝手に暴れまわっていたはずの
菅原顕忠と怪人たちは凍りついた。
暴れていたら誰かが止めてくれると思っていたら甘かった。
やがて力の続く限り暴れまわって疲れ果てた菅原顕忠と怪人たちは
TV局の人たちにつかまりボコボコにされて叩きだされた。
そのころヒカルは佐為に泣きついていた。
「見てくれよ〜こんな恥ずかしいポーズをしろっていうんだぜ!
信じらんねぇよ!オバケンジャー、最低―っ!!」
オロオロとする佐為が落ち着かせようとするがヒカルの怒りは収まらない。
「あ〜、こういうのがイマフウとやらなのではないのですか〜?」
「どこがだよ!ダッサダサじゃん!」
口を尖らせるヒカルの前で佐為が考え込む。
「なぜ…塔矢がやらなかったんでしょう?彼ならやりそうですが。」
「なに言ってんだよ!アイツだって絶対こんなのイヤがってやんないぜ!」
噛み付くように言って不貞寝してしまったヒカルは
佐為が思案顔でついた溜め息に気が付かなかった。
翌朝ヒカルがご飯を食べようと階段を下りてくると
塔矢アキラが自分の席に座って母に煎れさせた食後の紅茶を飲んでいた。
もちろんヒカルの食器はカラになっていた。
「やあ!おはよう!さっそくだが朝食もすんだし出かけようか。」
アゼンとしたヒカルは成すすべもなく塔矢に引きずられ全力疾走させらされる。
「オ…オレのちょーしょくっ!」ハラペコのヒカルが息を切らせながら訴えるが
塔矢は意に介さない。
「感謝したまえ。君の代わりに食べておいた。」
なにがだ、バカヤローっと怒鳴りたかったが、その元気は出なかった。
「何…用事…とーや!?」
やっと、それだけ問うと塔矢アキラは幼稚園の前でビタッと立ち止まった。
「見たまえ!また菅原顕忠が暴れているんだ!
今度こそ奴等に裁きの鉄槌を下さねば囲碁界の危機だ!!」
見れば、菅原顕忠と怪人たちが幼稚園の床に座り込んで
碁盤の上に碁石を積んで山崩しをしている。
「こんな凶悪なことを許していいのか?!進藤!」
菅原顕忠たちの様子を怪訝な顔で園児が取り巻きながら見ている。
「この間のことといい。
彼等は幼い子ども達に囲碁に対するマイナスイメージを植え付け
将来の囲碁人口を減らし囲碁界滅亡をたくらんでいるんだ!」
それを聞いた菅原顕忠は驚いた顔で固まった。
手からはポロリと碁石が落ちる。
しばらくして硬直が解けると部下を集めて慌てた様子でヒソヒソと相談を始めた。
やがて話がついたのかクルリとヒカル達を振り返ると
頭が後につきそうなくらいふんぞり返って高笑いをした。
「はーはっはっ!そのとおりだ!遠大で壮大な犯罪を考え出す私はスゴイだろう!
おそれいったか!はーはっはっ!」
ヒカルは頭を抱えた。
(
うそつけ!今、塔矢に言われて初めて気が付いたくせに!)「やっぱり!なんて恐ろしいことを!!」
菅原顕忠の言葉を拳を震わせ真顔で受けとる塔矢アキラの思考は
相変わらずヒカルには人外魔境だ。
(
お前の方が絶対に恐ろしい…)ゾウさん滑り台の下にうずくまって声に出さずに突っ込むのが
唯一のヒカルの出来うる抵抗だった。
だが、その抵抗も空しく引っ張り出され件の五色の碁石を持たされる。
「イヤだって言ったろう!オレ、あんなダサイ格好できねーよ!!」
怒りに震えるヒカルだったが塔矢は気にした様子もなく近づくと
ヒカルの後頭にガムテープで貼り付けてあったものをひっぺがした。
ぎゃっ!悲鳴をあげたヒカルの後頭部は心なしか髪が薄くなっていた。
「大丈夫。安心したまえ、その心配はなくなったよ。」そう言いながら
頭を押さえて痛みにうめくヒカルの前にビッと塔矢が開いて見せた紙には
流麗な仮名文字で「やっぱり ごいしをそらになげるだけでいいです。」と
書いてあった。
ヒカルが呆然として口をあけたまま塔矢を見ると塔矢は静かに頷いた。
「あのポーズはしなくて良くなったらしいよ、残念だけど。」
「なにが残念なんだよ!しなくていいほうが絶対いいぜ!」
そう言ったヒカルは、ふと薄くなった部分の髪をさすりながら
もっともな疑問を口にした。
「それにしても、いつの間に貼られたんだろう。」
塔矢がニコリと笑った。
「知りたいかい?」
いや〜な予感がしたが好奇心に勝てずにうなずいた。
「一回目は君が対局で長考中に、今回は君が寝ている間に貼ったんだよ。
もともとボクのところに封書で届いたものだからね。
でなければボクが内容を知っているわけがないだろう?」
怒りとともに何故どうしてそういう行動をとるのかとか
お前のところに来たんならオレにやらせるなとか
ハゲになったらどうしてくれるんだと
問い詰めてみたい気がしたが理解できそうにないので
ヒカルは泣きながら碁石を空に投げた。
「神の一手戦隊オバケンジャー参上!」
何時の間にか幼稚園の屋根の上に5人の姿があった。
つづく
H
16.2/20 水色真珠次回予告
謎の神の一手戦隊より塔矢に翻弄されるヒカルだったが
ついに神の一手戦隊を呼び出すことが出来た!
オバケンジャー対菅原顕忠
勝つのはどちらか?!
どちらが勝つにしてもヒカルは塔矢に勝てない。<キッパリ