「秘密の力が発動だ?!」

 

食事が終わると佐為とヒカルは慌てて外へ駆け出した。

その後に芦原さんのサイフで会計を済ませた塔矢が続く。

 

芦原さんと菅原顕忠は駐車場わきの背もたれのないベンチに

正座して対局していた。

2人が近づくと菅原顕忠が頭を抱えて苦悩していた。

「うぉぉ…なぜだ!」

(えっ?芦原さんが勝っているんだ!

やっぱり天然でも囲碁オバケなんだなぁ。)

感心するヒカルだが、佐為は首をふった。

(違いますよ!盤面を、見てください!)

確かに盤面を見ると芦原の負けだった。

「あははは…。ま〜た、負けちゃったよ。」

明るく笑う芦原を菅原顕忠は苦しげに睨み付ける。

「なぜ!どうして!お前は負けているくせにダメージがないんだ!」

明らかに動揺しダメージを受けているのは菅原顕忠の方だった。

かきむしった髪はバサバサ、目は血走っている。

「なんでかな〜?まぁ、いいんじゃない。」

(よくないから言ってるんだろ。)

菅原顕忠ならずも突っ込みをいれたくなるものだ。

ヒカルも心の中で呟かずにいられなかった。

その時、ゆっくりと塔矢がやってきた。

塔矢は状況を見て取ると芦原の後ろに立った。そして…

ガツン、物凄い音がしたと思うと塔矢の手の中で

ヒカルが入学式で貰った分厚い辞書がバラバラに砕けた。

芦原は盤上に突っ伏してヒクヒクと痙攣している。

「あぁ!なんてヒドイことを!」

塔矢は痙攣する芦原にすがると菅原顕忠を睨みつけた。

「ぼくの大切なお友達の芦原さんを、こんな目にあわせるなんて許せない!」

「あぁ???」

状況が飲み込めない菅原顕忠は目を白黒させるばかりで反論できない。

(またかよ…。オレ、アイツの考えることってわからねぇよ。)

ヒカルは頭を抱えて座り込んだ。

もう、そちらを見るのも嫌だった。

佐為はわたわたと袖をふって、ヒカルの顔を上げさせようとする。

(ち…ちがうんですよ!塔矢は想像と違っていた状況にパニックを起こして、

ついイメージしていたのと同じ状況を作り出してしまっただけで…

でも自分がした自覚はないんですよ〜。)

(オレには、アイツは冷静に見えたけど〜?)

やさぐれた目をしてヒカルは佐為を見た。

佐為はプルプルと首をふる。

(誤解です〜。あれでいて塔矢は動揺しまくっているんですよ。

傍目には、そう見えないだけなんです。)

確かに涙ながらに菅原顕忠にくってかかっている塔矢は

真剣そのものにみえる。

菅原顕忠も訳がわからないなりに、

悔しそうに睨みつける塔矢に余裕を取り戻してきたのか、

また、とりあえず何も見なかったふりをして

芦原を倒したのは自分と思い込むことにしたのか、

芦原にダメージを与えられなかった屈辱から精神的に楽な方へ逃げを打ち

まるで芦原を倒したのが自分であるかのように塔矢をせせら笑っていた。

「ふん、オバケハーフ如きに何ができる。」

「では、お相手していただきましょう!」

ヒカルは慌てた、いくら塔矢が強くても相手は宇宙囲碁オバケ杯に

出るような強力な棋力のオバケなのだ、無茶なのは目に見えている。

が、反面感心もしていた。

(お前…ヘンなところが多いけど、

やっぱり芦原さんのこと大切に思っているんだなぁ。

かなわないと、ダメージを受けると、

わかっていても立ち向かっていくなんて…。)

ちょっと感動した目で塔矢を見ると、塔矢は少し緊張した面持ちで

手元が震えていた。

そうだ、佐為が助けてやればいーんじゃん、奢ってもらった恩もあるんだし。

ヒカルが、そう言おうとした時だった。

塔矢はずいっと佐為を前に押し出すと言った。

「佐為さん!お願いします!」

佐為もヒカルも思いっきりコケた。

「おい!佐為は用心棒の先生じゃないんだぞ!お願いしますってなぁ!」

コクリと塔矢は首をかしげた。

「宇宙囲碁オバケ杯クラスの対局見たくないのかい?」

ヒカルの喉がゴクリと鳴った。

(見たい…。見たいに決まっている。)

ヒカルは、ささっと塔矢とは反対の位置に立って佐為を押し出した。

「佐為!御馳走になった芦原さんの敵をとるんだ!

奢ってもらった恩を忘れちゃ囲碁オバケの義理がすたるぜ!」

ヒカルの変わり身の早さに佐為は呆然として

目をパチクリさせている。

「あの〜でも、芦原さんを倒したのは…」

「そいつだ!菅原顕忠だ!」

「敵を討ってください!佐為さん!」

菅原顕忠を指さし言い放つヒカル、目を潤ませて訴える塔矢。

「がっはは、臆したか藤原佐為!」

すっかり芦原にダメージを与えられなかった落ち込みから脱し

気分が良くなった菅原顕忠が後に引っくり返りそうなくらい

ふんぞり返って笑うのを見て佐為もやけだった。

「わかりましたよ!もともと私は碁が打てれば満足なんですから

理由はなんだっていいです!打ちましょう!」

 

芦原を車止めをマクラに駐車場に寝かせると

(駐車する車がきたら危険なのではとは誰も考えなかったようだ)

先ほどのベンチで佐為と菅原顕忠は碁を打ち始めた。

「秘技、アゲハマ誤魔化し!」

「それでも、あなたの120目半負けですよ。」

あまりに呆気なく勝負はついてしまった。

白けたムードが漂い、意気込んで観戦していたヒカルと塔矢の顔にも

期待外れの内容に失望がありありと浮かぶ。

菅原顕忠は悔しそうに拳を震わせ佐為を睨みつけた。

「おのれ…あと、もうちょっとだったのに…。」

「どこがじゃ〜!」

ヒカルが怒鳴ると同時に塔矢の手に何時の間にか現れた巨大ハリセンが

菅原顕忠の後頭を直撃していた。

菅原顕忠は地ベタに這いつくばってピクとも動かなくなった。

 

「う〜ん、おっはよー!いい朝だね。今日も一日頑張ろうー!」

運良く駐車されずにすんだ芦原が元気よく起きて来た。

殴られたところには大きなコブが出来ているが痛みは感じないようだ。

「あれ〜?なんで、こんなところにいるんだろう?

やぁ!進藤くん珍しいところであったね。」

記憶が欠落しているところが人並みなところと言えば言えるかもしれない。

「芦原さん!」

塔矢は駆け寄るとコブのところをグーで殴った。

「ボクがどれだけ心配したと思っているんですか!

あんなヤツに挑むなんて、無茶なことをしないで下さい!」

「えっ?う〜んとぉ〜よくわからないけど、

ごめんごめん。」

怒る塔矢にワハハと笑う芦原。

ヒカルは思わずベンチにすがって泣いた。

(菅原顕忠との対局に芦原さん行かせたのって塔矢じゃなかったっけ?)

(えーと、でも、丸く収まっているようですし…)

(それで、いーのかよーーー!!)

暴れだしたい気分を押さえて、深呼吸すると嫌なものが目に入った。

塔矢が踏んづけている菅原顕忠の目がギラギラと輝いて

どす黒い妖気が漂っている。

佐為が緊張した面持ちでヒカルを見た。

「いけません!ヤツはオバケからあやかしに変妖したようです。

危険です!塔矢・芦原さん離れてください!」

慌てて離れようとした二人を菅原顕忠は巨大化しつつ手に掴んだ。

「人質を取るなんて、なんて卑怯な!」

巨大な顔がニヤリと笑う。

「なんとでも言え!勝てばいいのだ〜!」

 

「ど…どうすんだよ〜佐為〜。」

すっかりゴジラサイズな菅原顕忠を見上げてヒカルが問うと

佐為は厳しい面持ちで懐から碁石を掴み出し空に投げた。

石は輝きながら四方に散らばるように飛んでいく。

そして、あたりは眩い光に包まれたと思うと

とつぜん菅原顕忠の手の中の塔矢と芦原が消えた。

そして5つの人影がファミレスの屋根の上に降り立った。

「神の一手戦隊囲碁オバケンジャー参上!」

何時の間にかヒカルの隣に佐為はいなかった。

いるのは巨大菅原顕忠と

ファミレスの屋根の上のオバケンジャーとやらの5人。

色違いの烏帽子に狩衣、顔をマスクで隠した見るからに怪しい風体だったが、

「あぁ!塔矢、芦原さん!!」

何時の間にか彼らの中の二人、

モモ色と抹茶色が塔矢と芦原さんを抱えていた。

(何時の間に助け出したんだろう!すげぇや、オバケンジャーって

かっこいいかもしんねぇ!)

思わず感激の目でヒカルが見るとモモ色が碁石をひとつ取り出した。

碁石は輝きを強くしつつ次々にパスされ最後に長い黒髪をひとつに括ったのが

大きくジャンプして菅原顕忠の額に「神の一手!」と打ち付けると

菅原顕忠はグラリと揺れて倒れふし、元の体に戻った。

 

ヒカルが、こそこそ逃げていく菅原顕忠を見送り気が付くと

オバケンジャーも去って行こうとしていた。

「あなた達は何者なんですか?」

ヒカルが慌てて問うと抹茶色が立ち止まった。

「そのうちわかるじゃろう。わしのシックスセンスが

そう告げておる。」

ひゃひゃひゃっと奇妙な笑い声をあげると

彼はサルのように民家の屋根の上へと消えていった。

塔矢はモモ色を捕まえて離そうとしない

「絶対、知っている人だと思うんですけど…?」

疑わしそうにジロジロ見られて、モモ色は困ったように身をよじらせる。

「気のせいだよ〜。ね〜、ね〜、そ〜だよねぇ?」

「そーよー、気のせいだったらー!もう行くわよ!」

やや小柄な黄色と青のとりなしでモモ色も強引に去っていく。

「いったい誰だったんだろう?」

ヒカルと塔矢が呆然と呟くと、

何時の間に現れたのか二人の背後から佐為が言った。

「そうですね〜誰だったんでしょうね〜?」

つづく

15.9/12 水色真珠

次回予告

神の一手戦隊囲碁オバケンジャー

彼らは、いったい何者なのか?

考えなくてもわかるはずなのに

唯一の常識人だったはずのヒカルも

度重なるショックに、ついに壊れたか?!

ヒカルは抹茶の残した言葉の意味に

いったい何時気が付くのだろう…。