遥かなる高み
(前編)
アキラはヒカルを睨みつけながら、ゆっくり机を回って近づいた。
「君は囲碁をやって、お金をもうけるつもりなのか?」
アキラの尋常でない雰囲気にヒカルの喉がゴクリとなる。
「だって、じぃちゃんが一万円くれるって言うんだぜ。」
アキラはヒカルのすぐ前に立った。
ややアキラの方が背が高いせいか見下ろすようになる。
「一万円?」
「そうだよ!ゲームソフトが2本は買えるぜ!ラーメンや
たこ焼きだって食えるし、俺たちの年齢じゃ大金だろう?!」
アキラは軽蔑した笑いを浮かべる。
「そんなもののために囲碁を利用するというのか?」
ヒカルは気圧されて、ジリジリと下がっていく。
「ふ…君はタイトルホルダーの年収がいくらか知っているか?
ぼくの父の年収は億を超えている!」
「お…億って?」
「つまり500円のラーメンなら20万食、約548年間毎日食べられるし、
300円のたこ焼きなら約33万3333食、約913年間毎日食べられる。
毎日、縁日があるとして、たこ焼き300円ラーメン500円わた飴600円
ジュース200円アンズ飴300円金魚すくい500円射的600円
食べ放題、遊び放題した上に、毎日ゲームソフトを
10本買っても8065万5000円残る!」クラリ、ヒカルは思わず眩暈をおこしてたおれかけた。
ゼーゼーと荒い息をつく。
「タイトルをとるのに年齢は関係ない実力が全てだ。
実力さえあれば君も明日から、毎日たこ焼き300円ラーメン500円わた飴600円
ジュース200円アンズ飴300円金魚すくい500円射的600円
食べ放題、遊び放題した上に、毎日ゲームソフトを
10本買っても8065万5000円おつりのくる身分だ!」
ヒカルはガックリと膝をついた。
「な…なんてこった…一万円にこだわっていたオレって
なんて小さかったんだ…」
二人の様子を見ていた佐為は思わず明子にささやいた。
「あの…なんか違う気がするんですが?」
明子はニコッと笑って答えた。
「大事の前の小事ですわ。」
「はぁ…?そんなものですかね〜?」
佐為は首を傾げて?マークを飛ばしまくる。
ヒカルとアキラは相変わらず睨みあっている。
「それでも君はプロにならないのか?」
「おまえは?」
「ぼく?ぼくは…なるよ。」
睨み合う二人の間に火花が散ったようだった。
「オレもなる。おまえに毎日たこ焼き300円ラーメン500円わた飴600円
ジュース200円アンズ飴300円金魚すくい500円射的600円
食べ放題、遊び放題した上に、毎日ゲームソフトを
10本買っても8065万5000円おつりのくる身分を渡しはしないぜ!」
佐為はうるうると泣いていた。
「やっぱり、違うと思うんですけど…。」
明子も泣いていた。
「あぁ…アキラさん。立派です。それでこそ行洋さんの息子です。」
だが、そんなことがあってからヒカルは確かに変わった。
毎日、朝から晩まで佐為に指導碁を受けて
メキメキと強くなった。
強くなるにつれて面白さを覚え、名実共に囲碁バカになり
毎日たこ焼き300円ラーメン500円わた飴600円
ジュース200円アンズ飴300円金魚すくい500円射的600円
食べ放題、遊び放題した上に、毎日ゲームソフトを
10本買っても8065万5000円おつりのくる身分は忘れてしまった。
そんなヒカルを見て佐為は、つくづく策士な親子だと明子とアキラに
深く感心したが一方、本当に本気ではなく策だったのだろうかと
不安に思う毎日だった。
つづく
H
15.4/12 水色真珠次回予告
とりあえず運命は変わったかもしれない…
しかし次回、オバケ憑きの過酷な定めがヒカルを襲う!
君は生き延びることができるか?!