オバケ降臨
進藤ヒカルは小学
6年生。ゲームも好きだが体を動かすことも好きな元気のいい少年だ。
今日も、なんとなく幼馴染のあかりと下校してきたのだが
家の近くまで来たとき、道の端にチョコンと座り込んで
潤んだ瞳で辺りを見回しているものが目にとまった。
背中に足つきの碁盤を背負い、昔の服を着た身長約
10センチの由緒正しそうなオバケだった。
あかりが黄色い声をあげる。
「きゃ〜♪捨てオバケよ!かっわいい〜♪うちに来てくれないかしら〜♪」
「なんだよ、あかり。お前ん家、もうオバケいるじゃん。」
一家に一匹とは決まっていないが
このオバケのように持て余されて、捨てオバケされたり
その結果、野良オバケが子供を襲って給食の残りをとられるなんていう
物騒な事件もおこっているので、捨てるのは言語道断
やたらと養うオバケを増やすのさえ
あまり道徳的にみられないのだ。
「そうだ!ヒカルん家に来てもらいなさいよ〜
そしたらヒカルん家行った時に私も遊べるもん♪」
「あ〜ダメダメ〜オレんち、かあさんがオバケ嫌いだし
オレもゲームオバケならともかく、あれ囲碁オバケだろう?
囲碁なんてダサくて暗いのやってらんねぇよ。」
二人が話をしている間に、件のオバケは二人の足元に来て見上げていた。
口元に着物の両袖口をあて目をうるうると潤ませて、心細そうな面持ちである。
あかりがヒカルの背中を思いっきりどついた。
「ちょっと〜ヒカル!かわいそうだと思わないの〜?
囲碁もゲームのうちでしょ!
いいから、連れて帰りなさい!!わかった!」
無理やり押し付けられた囲碁オバケを抱いてヒカルは家に帰った。
家に入る前に、Tシャツの下に押し込んでこっそり母のいる台所を抜ける。
母がヒカルにしては静かな帰宅に不信に思って顔を上げた時には
すでに階段を駆け上がっていた。
母の、ただいまくらい言ったら〜という怒鳴り声に上の空な返事をしながら
慌てて学習机の引出しの中で一番漫画の詰まっていないところに
ティッシュをひいて囲碁オバケを詰め込んだ。
心臓はバクバク、汗びっしょりである。
母親が上がって来ないのを確認すると、引出しをあけて
あかりから貰った給食の残りの食パンをちぎってやる。
オバケは小さな両手でおし頂くように持つと嬉しそうにハグハグ食べた。
「な〜、おまえ名前は?」
「藤原佐為です」
「捨てオバケした奴に文句言って帰してやるよ。どっから来たんだ?」
出来れば養いたくないヒカルの知恵である。
「進藤平八さんのところです。」
「ゲッ!じぃちゃんかよ!わかった!
すぐ突っ返して…いや帰らせてやるからな…」
佐為はパンのミミまで食べ終わると目をクリクリとさせた。
「私、捨てオバケされたんじゃありません。
平八さんに頼まれて来たんです。孫と囲碁が打てるようになりたいと
おっしゃられて。」
ヒカルの目が険しくなる。
「じゃ、なんで道端にいたんだ?」
「お母様がオバケがお嫌いなので、そうするように言われたのです。
きっとヒカルは一緒に下校して来る女の子に押し付けられて
こっそり連れ帰るから、うまく家に入れるだろうと…。」
全て仕組まれ、祖父の手の上で踊らされていたのだ。
「そーか、そーか、じゃあ、オレが母さんに話しちゃえば
じいちゃんは母さんに、こっぴどく叱られて
お前は出て行かされる。それで決まりだな。」
佐為はニッコリ笑って首を横にふった。
「ヒカルは私を連れて家に入りました。
ということはオバケ憑き契約をしたことになります。
今、追い出せば私は本当に捨てオバケされたことになります。」
ぐっとヒカルは詰まった。捨てオバケしたなんていうことになれば
学校でも白い目で見られるだろう。
ヘタしたらイジメにあうかも。
あくまでも家に連れ込んだのはヒカルなのだから
かあさんが捨てろと言ったとかは関係ない。
非難を受けるのはヒカルなのだ。
「あ〜〜ぁ、じいちゃんのオニ!孫が可愛くねぇのか〜!」
どこから出してきたのか湯飲みでお茶を飲みながら
佐為は思い出したように言った。
「そういえば、碁が打てるようになったら一局付き合えば
一万円お小遣いを出すと言われておりましたね。」
ヒカルは両手で佐為を握り締めた。
「師匠!!教えてください!オレ囲碁大好きです!」
こうしてヒカルは母に隠れてオバケを養うこととなった。
つづく
H
15.1/30 水色真珠次回予告
囲碁修行を始めてみたが、どうも面白さが分からない。
そんな時に偶然入った碁会所で囲碁オバケハーフの少年と出会うヒカル。
このことがヒカルの運命を大きく変えていく…かもしんない…