〜佐為・偲・再〜「杜企画」参加作品♪

注…杜清春くんが激しく壊れております。

彼のファンの方にはお避け下さい。<杜企画なのに…

不思議の国の清春

 

水色真珠

 

夢は無意識の願望だと言う人がいる。

だが決して認めたくない願望も世の中にはあるのだろう。

杜清春は、北斗杯後変わった。

時間がたつに連れて大舞台での興奮は落ち着き

それにつられるように気持ちの底に沈殿していく澱が杜の発想から

彼らしい碁を阻んでいた。

それは大舞台で味わった挫折などではなく、力の違いなどでもない

元より、そんなものは吹き飛ばす杜の生まれながらの胆力からすれば

そんなものは些細なものなのだ。

彼の澱は、たぶん…。

 

杜は机に突っ伏して寝入っていた。

勉強は眠くなるものなのだ、だが普通は目的意識があれば

神経は研ぎ覚まされる。

もちろん杜とて例外ではないのだが…。

 

「たいへんです〜おくれてしまいます〜。」

何もない空間に突っ立っていた杜の横を黒い長い帽子のような物を被り

白い雛人形みたいな服を着た男が駆けて行く。

色白な肌に艶やかな唇、長い濡れたような色の髪が流れる。

あでやかな姿なのに、慌てる様は幼子のように拙く可愛い。

「なに慌ててんねん?」

杜が問い掛けても、一心に日時計を見つめながら走る耳には届かない様子だ。

「あぁ〜どうしましょう〜。対局に間に合いません。」

碁が打てんねんか?なんとなく、そう思って杜は男の後を追った。

そして…

何時の間にか深く長い穴を落ちていた。

 

杜は天井に開いた穴から落ちて尻餅をついた。

腰をさすりながら、あたりを見回すと関東棋院の廊下で先ほどの男は

ぱたぱたと階段を駆け上がっていく。

慌てて後を追ったが杜が階段に辿り着いた時には男の姿はなく

完全に見失ってしまった。

「どこへいったんだ。」

杜は思わず呟いた自分の口をおさえた。

な…なんで東京弁なんだ!?

ここ数日、杜を苦しめていた嫌〜な感じが湧き上がる。

東京から関西へ引越し心も体も関西人となっていたつもりだったのに

北斗杯以後、時折イントネーションが怪しかったり

ふと東京弁で話してしまったり杜は自分の「あいでんててい」とやらに

不安を感じていた。

しかも考えてる言葉も東京弁じゃないか?!

ますますパニックに陥る。

オレはドコ?ココはダレ?

見えない罠から逃れようとするように棋院を彷徨う杜の

目の前の扉が開かれると、そこには塔矢アキラが立っていた

ヤカンを手にして。

「なんじゃ、おんどれ杜やんか、どうしたんや?」

「うわぁぁ〜!」杜は大きくのけぞると耳を押さえた。

聞きたくない!見たくない!関西弁の塔矢アキラなんて!!

「あれ?杜やんか。どうかしたん?」

倒れこんだ先には進藤ヒカルがいた。

同じ関西弁でも、お前の方がマシだ〜!

「ドえらい驚いとるようやけど。落ち着いた方がええやろ。

茶飲みぃ。」

だから、お前はしゃべるな〜っ!

塔矢アキラに差し出されたお茶を煽るように飲みながら心の中で叫ぶ。

「なぁ、北斗杯以来やけど何しに来よったん?」

「別に用はないんだ。ただ雛人形みたいな格好の男を追いかけてきたら…」

杜が話し出すと、塔矢アキラは口元を押さえ肩を震わせ

進藤ヒカルは遠慮無しに笑い転げた。

杜自身も慌てて口を押さえた。

しまった、今は東京弁しかしゃべれないんだった!

昔、関西に引っ越して行ったばかりのころが思い出される。

そういや自分だけ東京弁なのが恥ずかしかったんだ。

別に友達は気にしていなかったのに…でも溶け込もうと思うこと事態が

東京の発想だったんだと気が付いた後は何もかも自然に馴染んでいった…

それなのに…。

「お前らが、いけないんだ。お前らと合宿なんてしてるうちに

東京弁がうつったんだ!」

関西から東京に転校生が来るとクラスまとめて関西弁になってしまうように

きっとオレもお前達からうつったんだ!

「なにぬかしておるんや。ワイらは標準語やないけ。」

「そうやて、おんどれこそ何をお上品ぶってんねん。」

塔矢と進藤にふざけている様子は見えなかった。

もしかしたらオレの頭がおかしくなったのか?

杜の背中を冷や汗が流れる。

だが、頭に閃くものがあった。

「そうだ!だから雛人形男が怪しい!あいつ見なかったか?

あんな格好なんだから絶対に目立つはずだ!」

杜が風体を説明すると進藤ヒカルの顔色が変わった。

慌ててジャケットの内ポケットを引っくり返して探すと

進藤ヒカルのそこには穴が開いていた。

「やっぱ落としたんや!」

「そらぁ、ポケットに入れておけるようなもんなんか?」

「そんなわけないだろう!進藤、オレの説明聞いてるのか?

かなり身長があったぞ!」

だが進藤ヒカルは聞いていない慌てて植木バチの下や

自販機の隙間などを探しながら碁石を撒きつつ歩き出す。

「佐為〜佐為〜?どこや〜?おら、おら、おんどれの好きな碁石やぞ〜!」

それにピクリと反応したのは塔矢アキラだった。

「なんやて!saiは巨大雛人形やってんな?!

返答せい進藤!逃げるんやない〜!」

「やめろ〜!頼むから、これ以上話をややこしくしないでくれ!!」

杜の絶叫も、もはや二人の耳には届かなかった。

頭を抱えた杜の視界から二人が消えたころ

ぺたぺたという足音が背後からしてきた。

「あ〜遅れちゃいます〜どこ行っちゃたんでしょうね〜

ヒカル〜ヒカル〜?」

杜は自分の側を袖口を口元に当ててオロオロと通り過ぎて行こうとする男の

尻尾のように垂れ下がった着物の後を掴んだ。

「オレの関西弁を返せ!!」

「はあ?」

掴まれた反動で尻餅をついた男は扇を口元にあてて目をパチクリしている。

杜は荒い息を整えながら逃がさないように詰め寄る。

「お前が、このヘンな世界にオレを連れ込んだんだろう!」

コクリと首を傾げて答える。

「ヘン…ですか?」

「ヘンじゃなけりゃ、なんなんだ!」

さらに杜が詰め寄るとニッコリ微笑んだ。

「懐かしいのでしょう?無理に押し込めることはないんですよ。」

杜の中で何かが動いた。

東京は東京なりに仲のいい忘れられない友がいた

駆け回った公園や学校があった。

関西人であることは誇りだけれど、無理することはない。

東京弁をしゃべることで笑いをとったっていいねんやから。

いつの間にか言葉も戻っていた。

「それに囲碁には方言はないんですよ。」

 

杜がハッキリ覚えているのは、そこまでだった。

その後,駆けつけた進藤ヒカルがデカイはずの雛人形男を

ポケットにしまったら穴から小さくなって零れ落ちてきて

進藤ヒカルが埋まったとか、塔矢アキラがおばさん割烹着をきて

箒で掃き集めたとかはウロ覚えだ。

「めっちゃ、ヘンな夢やった。」

だが杜は頭を抱えつつも、ごっつオモロイ夢やったと

久々にスッキリした気持ちになっていた。

 

H15./20

End

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 創作を書く時に関西弁がネックなのを逆手にとってみましたつもりです、

取り返されてバックブリーカーかけられているかもしれませんが。

基本設定完全無視のヨタ話です〜ごめんなさ〜い<(__)>

杜の言葉を関東弁に直すのが難しかったです〜半端に関西弁になっちゃって…

ヤッシーだけに「あ、ヤッシー」関西弁です〜(TT)

関西弁は方言変換サイトを使わせて頂いたのですが

私の捏造も入っています〜関西の方ごめんなさい〜<(__)>

でも当初、予定していたギムナジウム調合宿話しでなくて

まだ、マシだったかも…。

トーヤの心臓とかいって社は「もり」とも読めるので

ユーリならぬモーリだったし。

あまりの苦しさに止めましたけど…(^-^;)